第183話 薄布一枚のヒミツの花園。

「本当、今日一日でいろんなことがありすぎだよ……」

「うふふ。おつかれさまー。ごほうびのいいこ、いいこー」


 俺は、一乃いちのさんの部屋兼仕事場で、頭をいいこいいこされながら、今日一日の出来事を振り返っていた。


 FUTAHOさんがフォレスト・フォースマンにオーバーヘッドキックをぶちかまし、武蔵むさしさんあやつる〝コジロー〟が、M・M・O・Wメリーメントオンラインワールドの公式ナビゲーターに大抜擢されて、天使のようにカワイイシズカちゃんが、家にホームステイする。


 こんな、とんでもない大ハプニングが今日一日に集中したんだもの。


「シズカちゃんホントーにかわいいのー。お人形さんみたーい。

 でもー、どこかで見たような気が……」

「き、気のせいじゃないかな!!」


 最も大きなハプニングである、FUTAHOさんのハリウッドデビュー、そしてシズカちゃんの正体は、一乃いちのさんにもシークレットだ。

 俺は慌てて話題を変える。


一乃いちのさんも、〝コジロー〟と〝ナナシ〟の配信をライブで見れたの?」

「バッチリライブ視聴だよー。師太しださんが休憩時間に教えてくれてー。六時間目は師太しださんと一緒に授業をさぼってずっと配信を見ちゃったの。えへへー」


 一乃いちのさんは、ペロリと舌を出す。犬のように黒目がちな瞳は、イタズラっ子のそれだ。


 Finish!

 OverKill!


 カワイイ。一乃いちのさんはなんて可愛らしいんだ!!


「でもいいなー。スーちゃんと、フーちゃん、M・M・O・Wメリーメントオンラインワールドのテストプレイに参加できるんでしょー? わたしも遊んでみーたーいー」


 一乃いちのさんは、ほっぺたをぷっくりとふくらませる。犬のように黒目がちな瞳は、ご主人に留守番を言いつけられた子犬のそれだ。


 OverKill!!

 OverKill!!!


 カワイイ。一乃いちのさんはなんて可愛らしいんだ!!


 俺は、一乃いちのさんのあまりの可愛さに、何度も何度もオーバーキルをされてしまう。

 もう、我慢の限界だ。理性がトリプルオーバーキルだ。


 俺は、吸い寄せられるように一乃いちのさんを強く強くだきしめた。


「え! イキナリ!? ……う、うん」


 慌てる一乃いちのさんの唇を、俺は強引に塞ぐふさぐ。飲んでいるアイスハーブティーの香りと、お風呂上がりのシャンプーの香り。そして一乃いちのさん自身のなんともいえない甘い香りで、脳がとろけそうになる。


 俺は夢中になって、右手で、一乃いちのさんの自然派ナチュラルな部屋着のワンピースをたくしあげ、ノーブラの低反発なおっぱいをもみしだく。


「……う、うふぅん」


 そして、左手を一乃いちのさんの下半身に這わせると、そこにある布地をひとなでした


「……っあ!!」


 一乃いちのさんはピクンと身体をのけぞらせる……けど、嫌がっていない。

 むしろ、口づけをかわしている舌を、よりいっそう激しくからめてくる。


 こ、これって、オッケーってことだよね??

 最後の一線、超えていいってことだよね!?


 俺は震える手で、布地の中にあるヒミツの花園に触れようとした。


 そのときだ!


 ガチャリ!

「ススムー! アナタハ バスタイム デス!!」


 シズカちゃんが、いきなりドアをあけて入ってきた。


「!!!!」

「!!!!」


 俺と一乃いちのさんは、大急ぎで身体を離す。


「That? What's happen?」

(あれ? どーしたの?)

「Nothing! not to worry!」

(な、なんでもないよ!気にしないで!)


 心臓が跳ねあがっているのがわかる。危なかった、危うくシズカちゃんに見られるところだった。


「すぐにお風呂に入るよ! お風呂からあがったら二帆ふたほさんの部屋に迎えにいくから、それまでは二帆ふたほさんの部屋で遊んでて!」


「リョーカイノスケ……Muu? What is this? ?」

(りょうかいのすけ……あれ? なあに、これ??)


 シズカちゃんは、アイスハーブティーのグラスを眺めている。


「Herb tea. I drink it every day before going to bed」

(ハーブティーです。私は寝る前に毎日飲んでいます)


 俺が説明すると、シズカちゃんは俺のアイスハーブティーをコクリと飲んだ。


「Delicious! Hey, give me this every day too!」

(美味しい!ねえ、私にもこれ毎日ちょうだい!)


「え……えっと……オ、オフコース!」


「You did it! Well then, starting tomorrow, we'll have a herbal tea party in Ichino's room after the bath」


 え? どういうこと??


 一乃いちのさんがニコニコしながら翻訳してくれる。


「シズカちゃん、明日からは、わたしたちとのお茶会に参加したいってー」


 ええ! そ、そんなぁ!?


「Susumu, are you OK?」

(ね、ススム、いいでしょう?)


 シズカちゃんは天使のようなまなざしで、俺の事をじぃぃぃぃぃぃっと見つめてくる。


「り、りょーかいのすけ……」


 俺は、困ったときにはなんにでも使える魔法の言葉をつぶやきながら親指を立てた。心の中で血の涙を流しながら。

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