第182話 ゼロ距離のチート連携。

「ゴチソーサマデシタ!」


 シズカちゃんが、手をパチンと合わせてカワイク言った。

 八人掛けのダイニングテーブルに、所狭しと並んでいた料理の数々は、すっかり食べ尽くされていた。


「やっぱり、若い子はたくさん食べて良いわねぇ」


 料理を作った母さんが満足そうに笑っている。

 それにしてもシズカちゃん、たくさん食べるなんてもんじゃない。あんなにあった料理を半分以上、ひとりでたいらげてしまったんだもの。

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◆内訳

 シズカちゃん    55%

 俺         15%

 父さん       10%

 母さん       8%

 一乃いちのさん      7%

 ママ        7%

 パパ        3%*         

 二帆ふたほさん      3%*

 *ただし、鳥のササミを大量に摂取。

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 これだけ食べて太らないんだから、食べ盛りというより、食べても太らない体質なんだと思う。


「シズカ……恐ろしい娘……」


 ご機嫌でお腹をなでているシズカちゃんのことを、二帆ふたほさんが恨めしそうにニラんでいた。

二帆ふたほさんは、大食漢だけど食べたら食べただけ太ってしまうタイプだ)


 俺は、ダイニングテーブルから立つと、食器を流しに運んでいく。


すすむいつも悪いわねー」


 母さんの声を聞きながら、俺はスポンジに洗剤をつけて洗い物を始める。食器を洗うのは、俺の役目だ。


「ススム! ワタシモヤリマスデショウ」


 シズカちゃんはそう言って、俺の隣に立って洗い物を手伝い始める。

 八人分の食器となると、さすがに結構な大仕事だから素直に嬉しい。


 シズカちゃん。よい子だ。


 俺たちは八人分の食器を洗うと、今度は、すすぎと食器拭きを手分けで行い洗い物をすませると、二人そろって三階へと上がった。二帆ふたほさんと一緒にM・M・Oメリーメントオンラインを遊ぶためだ。


 コンコン。


「はいはーい。空いてマッスル」


 部屋の奥からおとぼけた返事が聞こえてくると、シズカちゃんがカワイク小首をかしげた。


「What? アイテ……マッスル??」


 俺は、つたない英語で解説する。


「Please come in.

 This is Futaho's original Japanese」

(そうぞお入りくさだい。という意味です。

 あれは二帆ふたほさんオリジナルの日本語です)


「Yes!リョーカイノスケ!」


 なっとくしたシズカちゃんは二帆さんの部屋に入って行った。 

 うん。ママの言うとおり、このままではシズカちゃんが、へんてこな日本語ばかり習得していってしまいそうだ。


「Wow! It's a very nice room. I feel like an adult woman」

(わぁ! とっても素敵な部屋ね。おとなの女性って感じ)

「Ahem! Fu-chan is a very particular room」

(えっへん!フーちゃんこだわりの部屋なのだ)


 シズカちゃんは、白を基調とした二帆ふたほさんの部屋を、目をキラキラとさせながら、キョロキョロと見回している。

 そして二帆ふたほさんは、VRゴーグルをつけたまま、スタイルの良い胸を張っている。


「そんじゃ、さっそくM・M・Oメリーメントオンラインに参加してちょ」


 シズカちゃんは、うながされるままVRゴーグルをつけて、俺も自分のPCでログインをする。


「それじゃ、スーちゃんシーちゃん参戦! ポチッとな!!」


 ・

 ・

 ・


「I'm going! Special Moves!! Synthetic spirits! Aurora Execution!!」

(いっくよー必殺! 融合精霊! オーロラエクスキューション!!)


「グオオオオオオ!!」


 Finish!

 OverKill!

 OverKill!!

 OverKill!!!


 M・M・Oメリーメントオンラインの中で歴代最強のボスと言われているドリルドリュウは、ダンスシャーマンの〝Forceフォース〟が放った、オーロラエクスキューションLv3を、弱点の首の付け根にゼロ距離発射されて、あっけなく倒れさった。


『やべーな!』

『またトリプルオーバーキルかよ!!』

『これで、ジャポネクスシリーズ三体連続か……』

『ダンスシャーマンのForceフォースと、陰陽導師のロンリーのコンボがえぐすぎるな……』

『これ、さすがにナーフ対象じゃね?』

『女王のムチがやばすぎる』


 観客モードは〝女王のムチ〟のぶっ壊れ性能に騒然となっていた。


 〝女王のムチ〟は、その攻撃的なネーミングに反して、攻撃力はほとんどない。だけど、先端が枝分かれしたムチの多段コンボによって、超高速で魔力ゲージを上昇させることができる。

 それを活用した、陰陽導師との連携が凶悪すぎるのだ。

=======================

 陰陽導師が、無敵の鋼鉄ボディになれる〝辛酉かのととり〟を唱える。

  ↓

 〝女王のムチ〟を二刀流装備したダンスシャーマンが陰陽導師を殴りまくって魔力ゲージを最大まで貯める。

  ↓

 陰陽導師が、〝乙酉きのととり〟を使用し、ダンスシャーマンの魔力ゲージを限界突破。

 (〝砂中金さちゅうきんの砂時計〟でリピート)

  ↓

 エリアルハンターが、〝救出〟で、ダンスシャーマンをボスの弱点の目の前まで運ぶ。

  ↓

 ダンスシャーマンが、片方の武器を〝シストラム〟に切り替えて、水と風の合成精霊〝オーロラエクスキューションLv3〟をボスの弱点に向かってゼロ距離発射。

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 この連携が、あらゆるボスに通用する。

 〝女王のムチ〟は、紙装甲なのに近接攻撃を強いられるダンスシャーマンの救済武器として実装されたんだろうけど、いくらなんでも便利すぎだ。

 完全なぶっ壊れ性能だ。


 多分だけど、〝辛酉かのととり〟発動中の陰陽導師のフレンドファイアによる魔力ゲージ上昇を無効にする。それから二刀流時の〝女王のムチ〟のゲージ上昇にナーフをかけるといった調整がかかるはずだ。


「そんじゃ、次は『太陽の導き』シリーズのボスたちをぬっ殺すのだ!」


 二帆ふたほさんがミッションを始めようとした時だった。


「フーちゃん、そろそろお風呂入った方がいいと思うのー。シズカちゃんもー」


 二階のリビングから一乃いちのさんの声が聞こえてきた。


「おー、そんな時間なのか。シーちゃん一緒にお風呂に入る?」

「リョーカイノスケ!」


 二帆ふたほさんは、VRゴーグルを剥ぎ取りながら、シズカちゃんに質問すると、シズカちゃんもVRゴーグルを剥ぎ取って親指を立てた。そして、


「ススムモ イッショニバスルームデスカ?」


 とカワイク小首をかしげてくる。


「えええ!? ア、アイムソーリー」

「にゃはは。スーちゃんは恥ずかしがり屋なのだ!」


 大慌てで遠慮する俺のことを、二帆ふたほさんは、まるで猫のような瞳をニヨニヨさせながらからかう。


「じゃ、お風呂に入ってくるのだ。行こう、シーちゃん!」

「リョーカイノスケ!」


 俺は、お風呂に行く二帆ふたほさんとシズカちゃんと一緒に部屋を出て、二階へと降りる。


 二帆ふたほさんとシズカちゃんがバスルームに行くと、俺はダイニングへと向かっていった。そんな俺のことを、ダイニンの椅子に座るお風呂上がりの一乃いちのさんが、小さく手を振って迎えてくれる。


 これから、アイスハーブティーを作って、一階の一乃いちのさんの部屋で一緒に飲むんだ。


 夜のティータイム。


 俺と一乃いちのさんが、ほんの少しだけ恋人同士でいられる時間の始まりだった。

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