第181話 ゼロ距離の語学留学。

 俺は、武蔵むさしさんとユゥさん、そしてフォレスト・フォースマンの霊圧に睨みつけられながら、手をつないで家に入っていく二帆ふたほさんとシズカちゃんを追いかけて玄関に入った。


「おかえりなさい」

「おかえりなさい」


 自宅でパーソナルジムを営んでいるパパと、専業主婦の母さんが出迎えてくれた。


「what?  Who is this macho man with a strange hairstyle?」

(な、なに? この変な髪型のマッチョマン?)


 英語だからちょっと何言ってるかわかんないけど、シズカちゃんが、とにかくすごくおびえている。


「This is my daddy」

(これは、フーちゃんのパパなのだ!)


「Really! ?  You don't look alike at all!」

(本当? 全然似てないね!)


「Hello Shizuka. I know the situation Make yourself at home.」

(こんにちは。シズカ。話は聞いているよ。我が家を自宅だと思ってくつろぎなさい)


 パパは、厚い胸板をぴくつかせながら流暢な英語であいさつをして、シズカちゃんに握手を求める。

 おびえながら握手に応じるシズカちゃんをまじまじと見ている母さんは、


「なんてカワイイの! まるで天使みたい」


 と、うっとりしながらつぶやいた。


「We are ready to treat you!」

(さあ、おもてなしの準備はできているよ!)

「急だったから、ちょっと恥ずかしいけれど……」


 パパは白い歯を光らせ、母さんは謙遜しながらシズカちゃんをダイニングへと案内する。


「Wow! There are so many delicious looking dishes!」

(うわぁ!とっても美味しそうなお料理がたくさん!)


 ダイニングテーブルには、とんでもなく豪華な料理が、ところせましと並んでいる。

 ローストビーフに、北京ダック、三元豚のロースカツ。和洋中なんでもござれだ。

 イベリコ豚の生ハムに、くしに刺さったドネルケバブ、サンチュとセットの焼肉まである。イタリアとトルコに韓国料理、なんでもござれだ。食レポが得意なテレビタレントなら、


「お肉のワールドカップや!」


 なんて言い出しかねない。さすが母さん、料理の腕前はプロ級だ。


「You're young, so keep eating」

(さあさあ、若いんだから、どんどん食べてくれたまえ)


 パパが白い歯を光らせながら熱い胸板をピクピクと動かしている。


「りょーかいのすけ!」


 パパの言葉に反応して、二帆ふたほさんが素早くドネルケバブに手を伸ばす。


 ピシャリ!

「あうち(>_<)」


 二帆ふたほさんの手が、パパのチョップで叩き落された。


二帆ふたほは、いつもどおり、ササミとソイプロテインだよ!」

「うえー」


「Futaho, being an adult is hard...」

二帆ふたほ、大人って大変なんだね……)


 シズカちゃんは、なんだか神妙な顔つきで、北京ダックと三元豚のロースカツを口いっぱいにほおばっている。


「Shi-chan will get fat if she eats that much!」

(シーちゃんもそんなに食べてると太っちゃうぞ!)


「I'm fine. Because I'm growing up」

(平気だよ。だってアタシは育ち盛りだモン)


「ただいまー」

「ただいま」

「ただいま」


 玄関から声が聞こえてくる。

 学校から帰ってきた一乃いちのさんと、仕事を終えた父さんとママだ。


「この子がー、ステイホームするシズカちゃん?」

「ママの前職の重役さんの子っていう……」

「そう。前職の上司の娘さん。日本語を勉強させたいってお願いされたのよ」


 なるほど、ママはシズカちゃんの来日理由を、学業目的の短期留学ってことにしたらしい。


「それじゃあ、全員そろったところで、改めてシズカちゃんを歓迎するとしよう」


 パパの音頭で、みんながグラスを持つ。


「ヨロシクオネガイシマス」


 シズカちゃんは、はにかみながら、覚えたての日本語であいさつをして、ペコリとおじぎした。


「シーちゃん、よろしくなのだー」

「あ、わたしもシーちゃんっって呼ぶねー。わたしは、二帆ふたほの姉の一乃いちのです。よろしくー、シーちゃん」

「はっはっは、よろしくたのむよ」

「よろしくね、シズカちゃん」

「しっかり日本語をお勉強してね」

「あとで、おばさんに好きな食べ物おしえてね」


 二帆ふたほさんと一乃いちのさん、そしてパパとママと父さんと母さんは、思い思いの言葉でシズカちゃんを歓迎する。


 俺も、改めてシズカちゃんにあいさつをした。


「よろしく。俺も英語を頑張るよ」

「オマエモガンバレヨ!!」

「え? あ、は、はい」


「こら、二帆ふたほ、変な言葉を教えない!」

「にゃははは! バレたか!!」


 ママは、二帆ふたほさんをピシャリとしかりつけると、メガネに手を添えながら、俺に向かって話しかけてきた。


すすむさん。シズカちゃんは大事なお客さんなんだから、二帆ふたほのヘンな日本語を覚えさせないように、しっかり見張ってもらえないかしら?」

「は、はい!!」


「えー。わたしはー、ちょっとくらいいいと思うよー。ねー♪ シズカちゃーん」

「リョーカイノスケ!」


 事情を知らない一乃いちのさんが、のんびりとしたトーンでシズカちゃんに話しかけると、シズカちゃんは、親指を立てながら魔法の言葉で元気よく返事をする。


すすむさん、ほんっとーーーーに頼んだわよ!」

「……はい」


 うん。これ、なにげに責任重大なんじゃないかな。

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