第180話 900点は無理ゲーです。
「少々、お待ちください」
俺たちの後をついてきたタクシーを停止させるためだ。
タクシーが停止すると、ほどなく、後部座席から背の高い女性が現れた。
フォレスト・フォースマンの通訳、いや、今の仕事はフォレスト・フォースマンの姪、シズカ・フォースマンのお世話係のユゥさんだ。
お世話係のユゥさんは、
ユゥさんは、アルファードの後部座席に身体をちぢこませて納まると、すぐに要件を話し始めた。
「さて、これからしばらくの間、シズカは日本で暮らします。
取り急ぎクランクインまでは、インターナショナル・スクールに通うことになりますが、もろもろ注意事項がございます。
まず、ひとつめ。
今回のフォレスト・フォースマンの、Miss.FUTAHOに対する出演オファーは、トップシークレットです。
Miss.FUTAHO……本名、
この三人以外には絶対に情報を漏らさないでいただきたい」
「私の上司、つまり634プロダクション代表の
「はい。勿論です。『契約上言えない』旨をご通達ください。それ以上は名言致しません。これで代表の方には事の重大さをお察し戴けるかと」
「なるほど。わかりました」
ユゥさんは、
「ふたつめ。シズカ・フォースマンの自出もトップシークレットです。特にフォレスト・フォースマンとの関係は絶対に知られてはなりません」
「わかりました」
「わかりました」
今度は俺も
フォレスト・フォースマンの隠し……じゃない、姪が日本にいるとわかったらそれこそ大スクープだ。
「ありがとうございます。では、ご帰宅ください。
ちなみに、私はここから歩いて20分ほどのマンションを借りることに致します。
Miss.FUTAHOのトレーニングは、Mr.
「わかりました」
今度は、俺ひとりだけで返事をした。
FUTAHOさんの役は、ナイフを操る
FUTAHOさんは、この二か月間、ユゥさんにつきっきりでナイフを使ったスタントをレクチャーしてもらうことになっている。
「それと、もうひとつ、Mr.
「えっと、なんでしょう?」
「英語です。撮影期間中、私も通訳として同行しますが、少なくともスタッフとのコミュニケーションをはかれるレベル。つまりはMiss.FUTAHOと同レベルの英語はマスターしていただかないと……」
え? どういうこと??
俺が混乱していると、
「よろしくおねがいします。私は、仕事で日本を離れることができませんので……」
そっか! そういうこと!!
そりゃそうだ! 三か月後、つまり八月は『信長のおねーさん』のアニメ化開始一か月前。メディアにガンガン露出させる必要がある最も大事な時期だ。
加えて、VTuberのコジローとして、
「そういう訳で、Mr.
「ええええええ!!」
TOEICスコア900点??
それ、完全にネイティブクラスじゃん!!
うろたえる俺に、シズカちゃんは、天使のような無邪気な笑顔で親指を立てた。
「ダイジョーブ ダヨ ススム! リョーカイノスケ ナノデス!」
カワイイ……めちゃんこカワイイ。
うん、やる気が出てきたかも。
さすがに900点は難しいかもしれないけれど、やるだけやってみよう!!
なるようになれだ!!
「イエス! シズカ!! りょーかいのすけ!!」
俺は、ひきつる口角を無理やりあげて、思いっきり親指を立てた。
「NYAHAHAHAHA!」
「にゃはははははは!」
アルファードに、シズカちゃんと
うん。りょーかいのすけ、本当に魔法の言葉かも!
俺は、能天気にそんな事を思いながら、アルファードを降りる。
そして、手を繋いで玄関へと向かうシズカちゃんと
「ウチ、今空き部屋ないよね? シズカちゃんの部屋どうするの??」
その質問に、
「スーちゃんの部屋なのだ」
「そうなんですね……ってええ!?」
「だってフーちゃん
「ススム! ヨロシクオネガイシマス!」
シズカちゃんは、可愛くペコリとおじきする。
俺は、予期せぬ同居人の出現に、戸惑いを隠せなかった。
振り返ると、
そしてユゥさんの後ろには、香港マフィアのいでたちで凄みを効かせたフォレスト・フォースマンの幻影が霞んでいた。
問題を起こそうものなら……わかっていますね?
ふたりと、ひとりの幻影が俺に無言の圧をかけてくる。
「り、りょーかいのすけ!!」
俺は、とりあえずこれさえ覚えておけばなんとかなるという魔法の言葉でお茶を濁すと、タクシーの後部座席乗り込むユゥさんと、アルファードの運転席乗り込む
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