第178話 ゼロ距離の天使。

「NYAHAHA! Green Ace, his beard is tangled in his sword!」

(にゃはは! グリーンエース、髭が剣にからまってるのだ!)


 その声に、二帆ふたほさんが反応した。

 すぐさまVRゴーグルをかぶった純白のワンピースの少女のもとへと駆け寄っていく。

 そして、プレイ動画を映しているゲーミングPCのモニタをのぞき込んで、とんでもないことを言った。


「ありゃ? フォーちゃんなのだ。こんな所で何してるの?」


 ゲーミングPCにつながれたディスプレイには、バステト神の衣装に身をつつんだ、褐色の黒髪少女がいる。


 Forceフォースだ! この子、ついさっき、シルバー・プリンセス戦で共闘したForceフォースをあやつっている!!


 Forceフォースは、水の精霊を召喚する〝女王のムチ〟と、風の精霊を召喚する〝シストラム〟の二刀流で、グリーンエース相手に華麗なコンボを決めている。


 そして、グリーンエースののど元にシストラムを押し付けると、


「Summon! "Undine & Sylphide!"」

(召喚! ウンディーネ&シルフィード!)


 魔法陣の中からは、青色に発光する正二十面体と、緑色に発光する正八面体が「ずずずずっ」とせりあがってきて、ひとつに融合していく。


「I'm going! Special Moves!! Synthetic spirits! Aurora Execution!!」

(いっくよー必殺! 融合精霊! オーロラエクスキューション!!)


 融合精霊オーロラエクスキューションは、グリーン・エースの逆鱗にめり込んで、氷の刃を全弾HITさせていく。


 Finish!

 Overkill!


「Hmm, if you're alone, single is the limit...」

(むー、一人だとシングルが限界ね……)


 Forceフォースをあやつる少女は、ちょっとふくれっ面をしながらVRゴーグルをはぎ取った。

 腰まである軽くウェーブのかかった、やわらかそうな黄金色の髪が揺れて、ゴーグルに隠れていた澄み切った青空のような瞳があらわになる。


 やっぱりそうだ。

 エレベーターで出会った天使のようにカワイイ女の子だ。


 俺は周囲を見渡した。

 この部屋には、俺と二帆ふたほさん、通訳のユゥさん、そしてユゥさんいわく、仲介人のフォレスト・フォースマンと、エレベーターで出会ったこの女の子だけだ。


 って、ことは……ええ!? この子が交渉相手??


 うん。いろいろと理解が追い付かない。そして全く理解が追い付かないなか、さらに事態をややこしくする出来事が目の前で勃発した。


「なんじゃこりゃー! なんだこの可愛すぎる美少女は! 今すぐお持ち帰りなのだ! お持ち帰りでおもてなしなのだ!!」

「What a sudden! ?」

(は? はひ?)


 うん。二帆ふたほさんの悪い癖だ。

 二帆ふたほさんは、エレベーターの天使の素顔をみるなり「ガバッ!」っといきなりはがいじめにした。


 二帆ふたほさんは、カチンコチンに固まったエレベーターの天使を、猫のようにニヨニヨとした笑顔でなでまわしている。

 そして、白いワンピースの中に手を突っ込んで、おしりをモニュモニュとさわりはじめた。


「ちょ、ちょっと、二帆ふたほさんなにやってんですか!」


 俺は、目の前のパラダイスな光景に一瞬固まるも、流石に止めに入った。

(このご時世、たとえ同姓といえどもセクハラで訴えられかねない)


「ごめんごめん。まるで妖精みたいな透明感の美少女にムラムラきちゃったのだ。

 ゆるしてチョ」


 二帆ふたほさんは、頭をかきながらてへぺろと舌を出してエレベーターの天使に謝罪をした。


「not to worry‼」

(全然オッケー!)


 エレベーターの天使は、そんな二帆ふたほさんに笑顔で親指をたてる。すると、フォレスト・フォースマンが突然、拍手をはじめた。


「Yes Yes. You're right. It's perfect as Shizuka's partner!」

「『予想どうり、シズカの相棒として申し分ない!』とフォースマンは申しております」


 フォースマンの言葉を通訳のユゥさんがすぐさま翻訳してくれる。

 だけど、ちょっと何言ってるかわからない。


「え? どういうこと??」

「Muu? What do you mean?」


 俺と、シズカと呼ばれたエレベーターの天使が同時に質問した。


「It means that the person who co-stars in the movie you star in has been decided.

It's okay?」

(いい知らせだ。キミが主演する映画で共演する人物がたった今決まったよ)

 

「The thing is, this boring trip ends in Japan♪」

(てことは、この退屈な旅は日本で終了ね♪)


「hat's right Shizuka. You spend time with FUTAHO until crank-in and cultivate a partnership」

(そうだよシズカ。君はクランクインまでFUTAHOと一緒に過ごして、パートナーシップを養うんだ)


「Understood. uncle!」

(わかったわ。おじさま!)


 アメリカでの生活が長かった二帆ふたほさんは、二人の会話が理解できたんだろう。笑顔で、シズカと呼ばれているエレベーターの天使に手を差し出す。


「Oh really. I'll teach you a lot, Shi-chan」

(そーなのかー。そんじゃ、シーちゃんに色々教えてあげるのだ!)


「FUTAHO, I'm counting on you. . Ah, enjoy life in Japan! "My heart is pounding」

(FUTAHO、頼りにしてるね。あー日本の生活楽しみ! ドキドキしちゃう♪)


「にゃはははははは!」

「NYAHAHAHAHA!」


 二人は、がっしりと腕を組みあうと、その場でくるくると回り始めた。

 一連の会話に全くついていけなかった俺が驚くのは、通訳のユゥさんが会話内容を翻訳をしてくれた後だった。


「えええええ!! FUTAHOさんが、この娘と映画の主演?

 しかもクランクインまで一緒に過ごす!?」


「はい。シズカの身の回りの世話は、私が行うよう仰せつかっております。

 急いで住居の手続きを行わないと」


「えええええ!!」


 いろいろと理解がおっつかない。

 俺は、理解するタイミングが完全に周回遅れとなっている自分の英語力の無さを痛感していた。

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