第177話 180センチ越えの通訳さん。
俺は、
ガラス張りのエレベーターは、しずかに昇っていく。
「最上階にも楽屋があるとは知りませんでした」
「おそらく貴賓室を楽屋がわりにしているんでしょう」
俺の質問に、
「さすが、国際的なスーパースターですね」
「はい、私も貴賓室なんて初めてですよ」
チーン
エレベーターが最上階に泊まり、俺たちは外に出た。
「!? なんだこれ?」
エレベーターからは、ワインのように深い赤色の絨毯がしかれている。そしてその絨毯は、そのまままっすぐ正面の貴賓室まで伸びていた。
「バーガンディの絨毯、さしずめハリウッドのドルビー・シアターですね」
ドルビー・シアターは、アカデミー賞の会場だ。
テレビ局が、いかにフォレスト・フォースマンを
「私はここまでです」
貴賓室の前まで先導してくれた武蔵さんが、振り返って俺の顔をまっすぐと見つめてきた。気のせいだろうか、俺のことを見上げている
「あとは、よろしくお願いしますね」
「はい! まかせてください」
俺は力強く返事をした。でも、足はがくぶるとふるえていた。
そんな俺の手を、
「可愛い弟を助けるのが、おねーさんの使命なのだ!」
と、ウインクしながらちょっとドヤった感じのトーンで言った。
カッコイイ! そして、やさしい。
忘れもしない。去年の夏休み、
とすれば、俺の返事は決まっている。
「じゃあ、姉をサポートするのは弟の使命ってことで」
そう言って、俺は
足の震えは、いつのまにか止まっている。
「じゃ、行きますよ」
俺は、
コンコン…………ガチャリ。
「FUTAHOのマネージャーです。約束通り、仲介人の私とFUTAHOのふたりで訪れました」
「ようこそ、お待ちしておりました」
俺たちを出迎えてくれたのは、さっきの収録でもみかけた通訳の女の人だった。
東洋系と黒人のハーフだろうか、その風貌からは全く想像ができない流暢な日本語で俺たちを出迎えてくれる。
180センチを超える長身で、長い黒髪をオールバックにしてギチギチの三つ編みで結んでいる。黒のスーツを着込んで背筋をピンと張ったその姿は、通訳というよりもSPみたいだ。
「フォースマンは奥の部屋におります」
SPみたいな通訳さんは、もっふもふの絨毯を踏みしめながら、全面ガラスばりで見晴らしが最高の部屋をつっきって、奥の部屋へと案内してくれる。そして、
「では、私は外で待機しておりますので……」
と、頭を下げた。
「え? あなたがフォースマンの仲介人じゃないんですか?」
「いえ。私はただの通訳です。
あと、なにか勘違いなさっているようですが、あなたがたの交渉相手は、フォースマンではありませんよ? フォースマンは仲介人です」
え? どういうこと??
通訳さんは話を続ける。
「フォースマンからは、通訳が必要であれば私も同席しろと仰せつかっておりますが、いかがしますか?」
話がさっぱりわからない。フォースマンが仲介人ってどういうこと??
「あ、あの、フォースマンが仲介人と言うことは、相手は……」
「私の口から申し上げることはできません。詳細は全てフォースマンからお聞きください。私があなたにお答えできるのは、通訳として同席しても構わないか。それだけです」
「えっと……フォースマンさんは、日本語は?」
「一切できません。無論『ありがとう』『こんにちわ』といった挨拶程度なら可能です。交渉相手も同レベルだとお考えください」
「じゃあ、通訳をお願いできますか?」
「かしこまりました。私、ユゥ・シュェイーと申します。以後、お見知り置きを」
そういうと、ユゥさんは、片手をもう片方の手で包んで、軽くお辞儀をした。これって確か中国式のあいさつだよな……。
「私は生まれも育ちもロスアンゼルスなのですが、父方の祖父が中国籍でして……母方はアフリカ系です」
ユゥさんは、戸惑う俺ににこやかに笑って、組んだ腕をゆっくりと上下にゆすっている。
「そうなんですね。日本語すごくお上手です」
「ありがとうございます。言葉がおかしい時は遠慮なくご指摘ください。日本語は不慣れなのです。このたびのフォースマンの全世界キャンペーンにあたって覚えた付け焼き刃なものでして……」
「いやいや、無茶苦茶上手ですよ!」
「ありがとうございます。それでは、話を本題に戻しましょう。仲介人のフォースマンと、この席を希望した人間が、首を長くして待っております」
俺は、ユゥさんの流暢な日本語に促されて、ドアをノックした。
コンコン
「Please come in」
部屋の向こうから、男性の声が聞こえてくる。フォースマンの声だ。
「失礼します」
俺はゆっくりとドアを開けた。すると……。
「NYAHAHA! Green Ace, his beard is tangled in his sword!」
(にゃはは! グリーンエース、髭が剣にからまってるのだ!)
そこには天使がいた。
VRゴーグルをかぶって
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