第176話 100%中の100%!!!

すすむさん。FUTAHOと一緒に、フォレスト・フォースマンの楽屋をたずねていただけませんか?」


 え?

 俺が?

 仲介人?

 アカデミー俳優とのビッグビジネスの??


「ええええ!?」


 俺は思わず叫んでしまった。


「無理ですって! 武蔵むさしさんがいないのに、FUTAHOさんの仕事のオファーの話をするなんて!」


「大丈夫です。なにも難しい話ではありません。

 というか、私もFUTAHOの仕事のオファーの決定権はありません。

 決めるのは二帆ふたほです。

 マネージャーの私がやっているのは、先方への事務的な作業のみですので」


 尻込みする俺に、武蔵むさしさんはあっけらかんと言ってのける。

 その言葉に弁護士の今野こんのさんも続く。


「先方とは、金銭面の話は別の席で行うむね、了承を得ています。

 金銭の話は双方、代理人を立てて行うべきでしょう」


 弁護士の今野こんのさんの話をふたたび武蔵むさしさんが引き継いだ。


「というわけで、すすむさんは立ち合いしてもらうだけだから。

 やるかどうかは二帆ふたほがきめることです」


 うーん。それならどうにかなる……かな?

 俺はチラリと二帆ふたほさんを見た。


「にゃはは! 髭が剣にからまってるのだ!!」

『NYAHAHA! 〝Green Ace〟 is in big trouble!

(にゃはは! 〝グリーンエース〟がめっちゃ困っている!) 

 

 VRゴーグルをかぶった二帆ふたほさんは、Forceフォースといっしょにめっちゃ楽しそうにM・M・Oメリーメントオンラインを遊んでいる。


 その姿を見て、俺は気になったことを武蔵むさしさんに聞いてみた。


「普段、仕事のオファーをするのは、FUTAHOさんにですか、それとも二帆ふたほさんにですか?」


 会話の意味が解らなかったのだろう、弁護士の今野こんのさんは首をかしげている。でも、武蔵むさしさんは「はっ」として二帆ふたほさんをみながらつぶやいた。


「そっか……てことは、フォレスト・フォースマンのもとに、FUTAHOスイッチを切った状態で合わせることになるんだ……」


 その声は、クールボイスなキャリアウーマンモードでもない、ロリロリボイスなコジローモードでもない、とってもフラットな声だった。


二帆ふたほさんを、フォレスト・フォースマンと面会させる。

 それで構いませんよね、武蔵むさしさん」


 俺の申し出に、武蔵むさしさんは、頭をかかえた。そしてそのまま黙り込んでしまった。


「あの……さっきから何のことやら話が見えないのですが……」


 事態を把握できていない弁護士の今野こんのさんが困惑している。


「どうしよう……スイッチを入れてない二帆ふたほをフォースマンに合わせるなんて……」


 武蔵むさしさんは考え込んでいた。


「どうしよう……」


 両手を顔に当てて、表情は見えないけれど、ちょっと声が震えている。

 俺は、思ったことを武蔵むさしさんに言った。


「フォースマンの楽屋に行くかどうかもふくめて、二帆ふたほさんに決めてもらうべきだと思います」


 Finish!

 OverKill!

 OverKill!!


 M・M・Oメリーメントオンラインのシステムメッセージが楽屋にひびきわたる。

『ah!  It's too bad!!』

(あー! 惜しい!!)


「やっぱり〝陰陽導師〟がいないと、トリプルオーバーキルは難しいのだ」

『I agree. Next time, let's try "陰陽導師"』

(そーなの? じゃ、次は〝陰陽導師〟で挑戦してみよっかな)


「りょーかいのすけ! それじゃあフーちゃんは久々に〝インファイター〟をやることにするのだ!」


 うん。このままじゃ、二帆ふたほさんが立て続けにグリーンエースのミッションに突入してしまう。


 俺は慌てて二帆ふたほさんを止めた。


二帆ふたほさん、ちょっといいですか?」

「? にゃに? スーちゃん」

「大事な話があるんです」


「りょーかいのすけ!! ごめーん、フォーちゃん。

 フーちゃん、なんかこれから大事な話を聞く必要があるのだ」

『Hmm, being an adult is hard』

(ふーん、大人ってタイヘンだね)


「そーなのだ。大人のおねーさんはイロイロと大変なのだ」

『roger that. See you dear. Fu-chan』

(了解。じゃあ、またね。フーちゃん)


「またねー。フォーちゃん」


 二帆ふたほさんは、画面上の〝フーター〟に「バイバイ」のモーションをさせたあと、VRゴーグルをはぎとった。


「おまたせー。スーちゃん、どーしたのだ? 大事な話しってにゃに?」


 二帆ふたほさんは、楽屋の畳の上であぐらをかいて、無邪気に首をかしげながら俺にたずねてくる。


「えっと、フォレスト・フォースマンが、二帆ふたほさんにもう一度会いたいっていってるんですけど……」

「いかにゃい!!」


 二帆ふたほさんは、俺の話を最後まで聞くことなく、首をプイっと横にそむけてしまった。


「今度は楽屋ですし、カメラも回ってないですよ?」

「いかにゃい!!」


「いきなりキスしたことの謝罪かも知れませんよ?」

「いかにゃい!!

 フーちゃんセクハラおじさんとは、絶対にあわにゃいもん!!」


「……え? あわにゃい……もん??」


 弁護士の今野こんのさんが困惑している。

 そりゃそうだ。今、ここにいるのはカメラの前のクールでミステリアスなFUTAHOじゃない。

 100%プライベートモードの荻奈雨おぎなう二帆ふたほなんだもの。


「フーちゃん、今日はもうFUTAHOはおしまい! 閉店ガラガラなのだ!」

「はい、FUTAHOさんは今日はおしまいです。

 二帆ふたほさんのまま、フォレスト・フォースマンと会ってもらいます」

「……え?」


 途端に、二帆ふたほさんの顔がくもっていく。身体も少し震えている。


「大丈夫です。安心してください。もし、あのセクハラ野郎が変な気をおこすようであれば、今度は俺が、トリプルオーバーキルをかましてやります!!」


 俺は、こぶしをポキポキと鳴らしながら、とびっきりの笑顔で物騒なことを言い放った。


「スーちゃんが、助けてくれるの?」

「はい!! 二帆ふたほさんには指一本さわらせません!!」


「…………………………じゃ、行く………………………………」


 二帆ふたほさんは、ポツリポツリとつぶやいた。


「フーちゃん……スーちゃんが護ってくれるなら……フォースマンに……会っても……いいよ!」

「はい! 何があっても絶対に二帆ふたほさんの事を護ります!

 俺は二帆ふたほさんのランスガーディアンです!!」


 俺は、パパのように胸を張った。


 なにがハリウッド俳優だ!!

 なにがアカデミー俳優だ!!

 あんなの単なるセクハラ親父だ!!

 二帆ふたほさんは絶対に俺が護るんだ!!!


 全く根拠がない自信だけど、でも覚悟だけは本気の本気だ!!

 100%中の100%だ!!!


「わかったのだ。フーちゃん、フォースマンにもう一回会うのだ!」


 そう言うと、二帆ふたほさんはすっくとたち上がって、畳の小上がりから飛び降りる。


「あ、スイッチは切っていいですけど、服はちゃんと着てください!」

「パンツをはいても負けじゃない?」

「負けじゃないです! てかパンツをはかないと危険が危ないです!!」

「そーなのかー。じゃ、フーちゃん服だけFUTAHOに着替える!」


 そう言うと、二帆ふたほさんは勢いよくパーカーを脱ぎ去った。

 パンツもブラもつけていない、完全なすっぽんぽんだ。


 俺と二帆ふたほさんのやりとりをじっと見守っていた、弁護士の今野こんのさんが、慌てて回れ右をする。


「コラ! 二帆ふたほ!! はしたないヨ!!」


 武蔵むさしさんが大慌てで壁にかかったFUTAHOさんの服と下着を取りに行く。


「ちょっと! すすむさん!! なにジロジロ二帆ふたほのこと見てるんダヨ!」


 俺は、完全にプライベートに戻ってしまった六都美むつみさんにどやされて、慌てて回れ右をして、二帆ふたほさんの着替えが終わるまで、弁護士の今野こんのさんと一緒に、じっと楽屋の壁を見つめていた。

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