第175話 ゼロ距離の仲介人
コンコン。
楽屋のドアがノックされる。
俺は、VRゴーグルをかぶって、
「はい!」
ガチャリ。
「失礼します」
現れたのは、マッチョでスキンヘッドで歯が白くて趣味がボディビルとゴルフと格ゲーの
「どうでしたか! フォレスト・フォースマンとの交渉は!」
俺は、開口一番質問をする。
『巌流島チャンネルW』の生配信が始まって終わるまで。つまり一時間以上が経過している。随分とハードな交渉だったにちがいない。俺は、最悪の事態も覚悟していた。
「ご安心ください、フォレスト・フォースマンは、こちらに対して大変好意的でした。むしろ、自身のとった軽率な行為を深く反省しております」
「え? そうなんですか?」
俺は、予想外の展開に拍子抜けしてしまう。
「時間がかかったのは、本日の収録についてです。
テレビ局は取り直しを望んだのですが、フォースマン側がそれを受け入れませんでした。なんでも、これから重要な用事があるとかで。
テレビ局側は『せめてFUTAHOさんと握手するシーンだけでも』と食い下がっていたのですが、フォースマンが首を縦に振らず、結局問題のシーンをカットして放映をすることになりそうです」
良かった。
てっきり今日の出演が全部なかったことになると思ってた。
あのパルクールすごかったもんな。FUTAHOさん無茶苦茶カッコよかった。あれをカットするなんてもったいなさすぎる!
番組が放映されたら、きっとまたFUTAHOさんのファンが増えるはずだ。(とくに女性ファン)
俺は、ほっと胸をなでおろしつつも、今野さんの説明にひとつだけ引っかかっていた。
「……ところで、フォースマンの重要な用事ってなんなんでしょう?
今日は一日このテレビ局の収録って聞いていましたけど」
「はい……その件なのですが……」
コンコン。
楽屋のドアがノックされる。
俺は、
「はい!」
ガチャリ。
「戻りました」
現れたのは、スーツ姿のキャリアウーマンモードの
声色もクールボイスに戻っている。
「どうでしたか! フォレスト・フォースマンとの交渉は!」
と詰め寄った。
・
・
・
「
本当に本当に、FUTAHOを護ってくれてありがとうございました!!」
「いえいえ、私は何もしていませんから」
なんどもなんどもペコペコとお辞儀をする
「……ところで、フォースマンの重要な用事ってなんなんでしょう?
今日は一日このテレビ局の収録って聞いていましたけど」
俺が、数分前に
「はい、それなのですがね。
フォレスト・フォースマンは、もう一度FUTAHOさんに会いたいそうです」
その言葉に、
「謝罪……いやそれだけのようには思えませんね」
「はい。私もそのように感じました。しかも、フォースマンは条件を出しています。
『FUTAHOさん一人と話がしたい』と」
「そんな条件、のめるわけないじゃないですか!!」
「もちろん、私も反対しました。ですが、フォースマンサイドは、どうしても会いたいとおっしゃる。そこで、折衷案をだしました。
『双方が最も信頼できる仲介人が見守る中でならどうか』と」
「ん? 話の流れがかわってきましたね?? ひょっとして……」
「はい。ビジネスの話だと思います。十中八九、FUTAHOさんに対する出演オファーでしょう」
「えええ!」
俺は思わず声をあげた。
ハリウッドスターのフォレスト・フォースマンからFUTAHOさんに仕事のオファー? ってことは、まさかのFUTAHOさんハリウッドデビュー??
「処々の条件をどのように結ぶかはわかりかねますが、トップシークレットの案件と思われます。おそらく、主演クラスのオファーかと」
すごい! すごい!! すごい!!!
めちゃくちゃすごい!!!
「ですので、
そして数十秒考え込んだ後、組んでいた右手をスチャリとメガネに当てて話し始めた。
「フォースマンは最も信頼できる仲介人と言ったんですよね」
「はい」
「であれば、FUTAHOに付き添うのは私ではありません」
「なぜです?」
「私はFUTAHOに最も信頼されている人物ではないからです」
そう言うと、
「
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