第四章・三幕

第170話 FUTAHOさんの身長は165センチ。

 FUTAHOさんの準備が整うと、俺たちは大急ぎで楽屋を出た。早く前室(撮影まえの最終待機室)に行かないと。


 今は午後の三時。武蔵むさしさんは、出番は夕方くらいだろうって言ってたけど、随分と早まった感じだ。

 武蔵むさしさんが、予想を外すなんて珍しい。


「ムーちゃんだって、たまには予想を外すよ。

 それに、相手はスーパーセレブなんだし、なにがあってもおかしくない」


 二帆ふたほさん、いや、スイッチの入ったFUTAHOさんが、ニッコリとわらいながら声をかけてくる。


 今日の衣装は、だぶだぶのパーカーだ。


 だけどスポーツブラもつけているし、下も当然はいている。ラッシュガードの上にパーカーと同じ素材の、どこから撮られても問題ない、ショートパンツの安心安全な状態だ。


 今日、FUTAHOさんはテレビ番組の収録スタジオでパルクールを披露する。

 テレビ局の企画『フォレスト・フォースマンがどうしても会いたい日本人』で、FUTAHOさんに白羽の矢がたったんだ。


 スーパーセレブ、アカデミー俳優のフォレスト・フォースマンが、昨年のクリスマスイブにお台場で撮影したパルクールをするFUTAHOさんを観て、


「I can't believe there are ninja girls in the present age!」

(忍者ガールが現代にいるなんて!)


 と、大喜びしたそうだ。


 その話をききつけた放送作家の企画にテレビ局も乗っかって、今回の企画が実現した。

 オファーがあったのはほんの三日前。本当に急に決まった収録だ。


「すみません! おまたせしました!」


 俺は、前室に入るなり、ぺっこり45度におじぎをする。

 そこには、総合司会のベテラン芸人さん他、名だたる芸能人がいた。でも、フォレスト・フォースマンの姿はどこにもいない。


「皆さん、フォレスト・フォースマンさんがスタジオに到着するまで、しばらくおまちください」


 さっきものすごい剣幕だったADさんが、ぺこぺことお辞儀している。

 なるほど、フォレスト・フォースマンが到着次第、撮影に入るってことか……。


「おー、FUTAHOちゃん、相変わらず忙しそうやなー」

「そんな、私なんて全然ですよ」


 FUTAHOさんは、総合司会のベテラン芸人さんと、とても大人な、そしてとても当たりさわりのない会話を話している。


 うん。改めて見るとFUTAHOさんって芸能人オーラが半端ない。


 俺は、全室のスミッコで、かわるがわるFUTAHOさんに話しかけてくる芸能人を前に、改めてFUTAHOさんの凄さを目の当たりにしていた。


 そうして、かなりしばらくその様子を見ていたら、途端に空気がピリついた。


「フォレスト・フォースマンさん入られました! すぐに収録はじめます!!」


 芸能人が次々とスタジオに入っていって、前室にはゲストのFUTAHOさんとマネージャの俺だけが残された。

 前室に入ってからは、もう一時間以上経過している。二帆ふたほさん、もう、すいぶんとFUTAHOスイッチを入れっぱなしだ。


「あの、FUTAHOさん……平気ですか?」

「へーきへーき、今日もみんなにカッコいいFUTAHOを見せちゃうよ」


 FUTAHOさんが、ニッコリと大人の笑顔を見せる中、ちょっと遠くにある収録スタジオから拍手と声援がもれてくる。


「さあ、今日はとんでもないゲストが来てくださっています!

 アカデミー俳優! フォレスト・フォースマンさんです! どうぞ!!」


 俺とFUTAHOさんは、前室に備え付けられたビデオモニタで収録の様子を観た。


 ベテラン芸人さんの声とともに、セットのカーテンが左右に開く。

 そこには世界的大スター、フォレスト・フォースマンがいた。


 赤いじゅうたんがしかれた階段を優雅に降りてくるハリウッド俳優をみながら、俺は思ったことをつぶやいた。


「あれ? 意外とちっちゃいんだ……」


 フォレスト・フォースマンの身長って……165センチのFUTAHOさんと同じくらいじゃないのかな?

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