第168話 あっという間の10分間。

 M・M・Oメリーメントオンライン上でForceフォースと別れてすぐのこと。


 コンコン。 

 楽屋のドアがノックされた。

 

「はーい」


 VRゴーグルをかぶってM・M・Oメリーメントオンラインに熱中している二帆ふたほさんの代わりに、俺が返事をする。


 ガチャリ。


 現れたのは、テレビ局のADさんだ。

 ADさんは、ペコペコと頭を下げながら話をはじめる。


「すみません。ようやく収録の準備がととのいました。前室にご移動願えますか?」

「わかりました。スタッフさんも、大変ですね」

「いえいえ、こんなにお待たせしてしまって申し訳ないです」


 俺はADさんにつられて、ペコペコと頭を下げながら受け答えをする。

 するとADさんは、さらにぺこぺこと、平身低頭へいしんていとう、ぺっこり45度に頭をさげる。


「それじゃ、10分以内に前室にお越しください」

「わかりました」

「よろしくおねがいします」


 …………パタン。


 ADさんは、ドアが物音を立てないようにそおっと、そおっとドアを閉じて去っていった。


 10分か、意外と短いな、ま、なんとかなるか……。

 俺は、二帆ふたほさんに、仕事のスイッチを入れるため、声をかける。


二帆ふたほさん、仕事ですよ」

「……」


二帆ふたほさん、FUTAHOスイッチを入れますよ!」

「…………」


「前室に10分以内に移動しないといけないんですから! 急ぎますよ!!」

「………………」


 うん。返事がない。でもまあ、いつものことだ。

 俺は、無理やり二帆ふたほさんのVRゴーグルを取り外そうとすると、


 ピシャリ!


 二帆ふたほさんは、無言で俺の手を払いのける。


「ちょっと、二帆ふたほさん? いくら俺でも堪忍袋のが切れますよ!」


 俺は、ちょっとガチ目に注意する。


「……………………」


 それでも二帆ふたほさんは、VRゴーグルを取ろうとしなかった。

 代わりに、興奮した面持ちで俺に話しかけてくる。


「スーちゃん、早くPCを見るのだ! とんでもないことになったのだ!!」


 え? どういうこと??


 俺は二帆ふたほさんにうながされて、武蔵むさしさんに借りているハイスペックなノートパソコンを見る。

 そこには、二帆ふたほさんの言う通り、とんでもない情報が流れていた。


 M・M・Oメリーメントオンラインに待望の続編登場!

 M・M・O・Wメリーメントオンラインワールド今冬リリース予定!!


 ノートパソコンには、M・M・Oメリーメントオンラインよりもはるかに美麗なグラフィックで、とんでもなく広大なフィールドが映し出されている。


 俺は、思わずつぶやいた。


「オープンワールドだ」


 M・M・Oメリーメントオンラインは、街でミッションを指定して、ローディングののち戦闘フィールドに切り替わる。


 でも、M・M・O・Wメリーメントオンラインワールドはオープンワールド。つまり、すべての世界がシームレスにつながっている。

 

 M・M・Oメリーメントオンラインは海外人気も高いゲームだ。だから続編は、海外で人気のオープンワールド型のゲームになるって予想されていた。

 でも、こんなに早く、しかもとてつもないクオリティーで続編が発売されるなんて、予想だにしなかった。


 シルバー・プリンセス戦のあと、観客モードに残っていたユーザーたちも、興奮のおももちで掲示板に書き込みまくっている。


『続編だってよ!』

『オープンワールドかー』

『ってか、この情報、完全に初耳なんだけど』

『なんで、このタイミングでw』

『ひょっとしてあれか? 五色の古代獣をすべてトリプルオーバーキルしたらとんでもないことが起こるって言ってたやつ』

『そっか……続編の情報解禁のことだったんだな』

『運営もアジなことするなー』

『てかさすがフーター。五色の古代獣のトリプルオーバーキル一番乗りじゃね?』

『いやー、観客モードにいてラッキーだったわw』

『やっぱ、新クラスでてくるんだろーなー』

『できれば現行クラスは据え置きで』


 観客モードの書き込みは、すごい速度でながれていく。


「すごいのだ! これは発売日まで全裸待機決定なのだ!」

「発売は冬ですよ。全裸待機してたら風邪ひいちゃいますって」


 俺は、興奮した二帆ふたほさんのジョークに、全乗っかりで返した。

 なぜなら、俺も興奮しているからだ。


 オープンワールドでM・M・Oメリーメントオンラインが遊べるなんて、興奮以外の何物でもない。

 できれば陰陽術師は継続採用してほしいな……あ、でも、オープンワールドってことは、〝松煙しょうえん古代墨こだいぼく〟の仕様に矛盾ができるな……他の陰陽術師との整合性が……。


 俺は、このとんでもない大ニュースに、妄想を張り巡らしていると、


 ドンドンドン!!


 楽屋のドアが強めにドアがノックされた。


「はーい」


 ガチャリ。


 現れたのは、さっきも来たテレビ局のADさんだ。


「みなさん、もう前室にいらしてますよ! FUTAHOさんも急いで戴けます?

?」

「は、はい、すみません! すぐ準備します!」

「本当に、頼みますよ!!」


 バタン!!


 ADさんは、さっきの丁寧な対応がウソみたいに、荒々しくドアをしめた。

 やばい! これは相当現場がピリついている……。


 俺は、大慌てで、いやがる二帆ふたほさんのVRゴーグルを引きはがすと、大急ぎで二帆ふたほさんに、FUTAHOスイッチを入れなおした。


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