第165話 100%の完全回復。-G-

『ギニャーーーーーーーー!』


 融合精霊アトミックの攻撃をモロに受けたシルバー・プリンセスの断末魔が聞こえる。


「Yahoo! feels great!」

(アハハ! チョー気持ちいいー!)


 意気揚々のForceフォースに比べて、俺は息も絶え絶えだ。

 なんてったって〝ロンリー〟のHPは一桁だ。


 HPマックス状態かつ、大盾を構えたガードポジションから、ここまでHPを持ってかれるのか……。

 ガードポジションをとることで、敵の攻撃魔法のダメージを75%カットできる大盾を装備できるのは、ランスガーディアンと陰陽導師だけだ。(陰陽導師は五分間の制限時間付き)


 融合精霊アトミックは、こんな密室で使うべき魔法じゃない気がする。それを平気な顔してぶっぱするなんて……〝Forceフォース〟おそろしい娘!


 とりあえず、さすがにこの状態はマズイ。一刻も早くHPを回復しないと。


 俺は、魔法ウインドウを開いて単体回復魔法の〝乙卯きのとう〟にカーソルを合わせる。〝乙卯きのとう〟は、味方一人のHPを完全回復する強力な回復魔法だ。


 ちょっともったいないけどしょうがない。


「Hey〝ロンリー〟, wait a minute if it's recovery.」

(ねぇロンリー、回復するならちょっとまって)


「え? どういうこと」


「It's the beginning of a fun showtime!」

(楽しいショータイムのはじまりだから!)


「ショータイム? えっと……どういうこと?」

「知らにゃい! でもフォーちゃんは、バケネコ退治のセンパイなのだ!

 しばらく様子見するのだ!」


 Forceフォース二帆ふたほさんに止められて、俺は魔法ウインドウを閉じる。


 すると、どこからか怪しい曲が流れ始めた。


 ♪ ダッダッダダ、ダッダッダダ、ダッダッダダ、ダン ♪


 有名な洋楽に、ちょっと、いや、かなり似ている。

 ちょっとまえ、女性と男性二人組のお笑いユニットが使っていた洋楽にそっくりだ。著作権のスレスレのキワキワを攻めている。


 ん? と、いうことは?


 ♪ ダッダッダダ、ダッダッダダ、ダッダッダダ、ダン ♪


 玉座にスポットライトが当たって、三人のシルエットが映る。中央に女性、そしてサイドに男性のシルエット。よく見ると全員ネコミミだ。


 ジャン♪


 曲が止まると、玉座にスポットライトが当たる。

 そこにいるのは、Forceフォースそっくりの、バステト神コスチューム(いや、こっちがオリジナルか……)と、上半身裸のネコミミマッチョだった。口になんだか丸い球をくわえて『ふごふご』とあえいでいる。


 バステト神のコスチュームへと衣替えしたシルバー・プリンセスは、著作権スレスレの曲にのって、ダンスシャーマンの神具で、ネコミミマッチョを攻撃する。


 パシィーーーーん!

 パシィーーーーん!


 それは、ムチだった。先が幾重にも枝分かれした短いムチだった。


「にゃはは、〝女王様のムチ〟なのだ」

「it's show time!」


 パシィーーーーん!

『ふごぐご……』


 パシィーーーーん!

『ふごぐご……』


 シルバー・プリンセスにムチを打たれて、ふたりのネコミミマッチョは喜び?

 に、うちふるえている。

 なるほど。シルバー・プリンセスは、ドSの女王様へと進化したのか。


「にゃははは!」

「Nyahahaha!」


 二帆ふたほさんとForceフォースは大喜びで仲睦まじくキャッキャと笑っている。きっとふたりとも根っからの女王様気質なんだろう。


 パシィパシィパシィパシィーーーーん!

『ふごぐごふごぐごふごぐご……』


 パシィパシィパシィパシィーーーーん!

『ふごぐごふごぐごふごぐご……』


 女王様のシルバー・プリンセスのふるうムチのペースが次第に早くなっていく。

 そうして、ムチでぶたれるたびに、マッチョから青白い光が糸を引いて、シルバー・プリンセスへと吸収されていく。


 そう、これはただの演出じゃない。

 〝二刀流〟とともに、ダンスシャーマンに追加された新しい能力だ。


 その能力とは、〝フレンドファイア〟。


 そう。今までは敵からしか魔力を吸収できなかったダンスシャーマンが、仲間を攻撃しても魔力を吸収できるようになったんだ。


 パシィパシィパシィパシィパシィパシィパシィパシィ!

『ふごぐごふごぐごふごぐごふごぐごふごぐごふごぐご……』


 パシィパシィパシィパシィパシィパシィパシィパシィ!

『ふごぐごふごぐごふごぐごふごぐごふごぐごふごぐご……』


 シルバー・プリンセスのドS魂全開のフレンドファイア攻撃は、激しさを増し、ネコミミマッチョのボルテージも最高潮に達していく。そして、


『ふごーーーーーーーーー!』

『ふごーーーーーーーーー!』


 ネコミミマッチョの絶頂とともに、シルバープリンセスが、両手に〝女王様のムチ〟を天高く掲げる。


 すると、頭上に魔法陣が浮かびあがり、正二十面体の青白く輝く水の精霊ウンディーネが二体「ズズズズッ」とせりあがっていく。

 二体の精霊は合体して、白銀に輝く球体に変化した。〝融合精霊ブレシッドレイン〟だ。


 融合精霊ブレシッドレインは、そのままスルスルと上昇して、まるでシャボン玉みたいにはじけた。


 シャワワーーーーー!


 玉座の間に癒しの雨がふりそそぐ。一桁だった俺のHPも、たちどころに全回復だ。シルバー・プリンセスも、そしてさっきまでムチでぶたれまくっていたネコミミマッチョもきっとHPが全回復したことだろう。


「Now showtime is over.」

(さあ、ショータイムはおしまいね)


「こっからが本当のショータイムなのだ!!」


 そう言って、謎の少女? が、あやつるForceフォースと、二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟は、シルバー・プリンセスへと突撃する。


 さて、俺もふたりのサポートをしなくっちゃ。どうやってトリプルオーバーキルを達成しようか……俺は、画面の右端に表示されている万年暦を確認した。

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