第164話 クレバーなゼロ距離おねーさん。-G-

『フシャーーーーーーーーーー!!』


 シルバー・プリンセスが二本の尻尾を蛇のようにくねらせて、Forceフォースに集中攻撃をあびせる。


 Forceフォースは、その攻撃をひらりひらりと、まるで蝶のようにかわしながら、左手にもう一つの武器を装備する。

 巫女さんのお祓い棒。霊力がこもった白木の棒で作った〝祓串はらえぐし〟だ。


 Forceフォースは、シルバー・プリンセスの懐に飛び込むと、〝シストラム〟と〝祓串はらえぐし〟の二刀流で、華麗なコンボを決めていく。


『あ、Forceフォースが二刀流になった』

『なんだ。オォタニー持ってんじゃん』

『なんで今まで使わなかったんだろう?』

『知らね』

『でもすげーな、二刀流でもバッチリコンボを決めている』

『攻撃モーション全然違うのにな』

『覚えるのめっちゃ大変だった』

『俺はロンチからやってない人向けの施策だったんじゃないかなって予想してる』

『うん、実質新クラスが五つ増えたようなもん』


 そう、武器を片手に持つのと両手で持つのでは、モーションが全く変化する。

 特に攻撃モーションについては完全に別キャラだ。

(開発の手間を考えたらゾッとする)


 そんな、ほとんど別キャラになった二刀流ダンス・シャーマンを、Forceフォースはいとも簡単に使いこなしている。とんでもないゲームセンスだ。


『フギャーーーーーーーーーー!!』


 俺たちは、シルバー・プリンセスの激しい攻撃をしのぎ続けていた。

 シルバー・プリンセスの攻撃を喰らうわけにはいかない。


 ダンスシャーマン、そしてそれをモデルにしたボス、シルバー・プリンセスは、敵から魔力をうばって精霊を召喚する。

 つまり、


 最初にステージに置かれてあった細長いツボ。あれはきっと、ミイラの臓器を収納しているカノプス壺だ。

 最初の融合精霊〝アトミック〟は、カノプス壺に納められた臓器を攻撃することで得た魔力で放ったものなんだ。


 つまり、あの初見殺しの攻撃をしのいだ後は、シルバー・プリンセスの攻撃を極力喰らわないように立ち回ることで、精霊の召喚を封じ込むことができる。

 俺と二帆ふたほさんは、ダメージを喰らわないように細心の注意をはらって立ち回っていた。


 一撃離脱が持ち味のエリアルハンターの〝フーター〟をあやつる二帆ふたほさんは、相変わらずの超絶ワイヤーアクションで、シルバー・プリンセスの猛攻を華麗にかわしつつ、確実にダメージを与えている。


 操作テクニックに自信がない俺は、陰陽導師の〝ロンリー〟に、〝戊戌つちのえ〟の魔法で大楯を装備させて、防御に徹している。


 そんな俺たちをよそに、Forceフォースは危険を一切かえりみず、シルバー・プリンセスに密着して二刀流で攻撃をしまくっていた。


「フォーちゃん、ちょっと無茶しすぎなのだ。攻撃が激しくなったら〝ロンリー〟の大楯に隠れて!!」


「hate ! I want to defeat this silver cat as soon as possible‼︎」

(イヤよ! 私はこの銀猫をとっととぬっころしたいの!!)


「まったく、こまったフォーちゃんなのだ」


「Even if you don't have to make extra avoidances, they will help you with wires, right? 〝フーター〟」

(だって、危なくなったら、〝フーター〟がワイヤーで助けてくれるじゃない)


 その通り。どれだけForceフォースが無茶な攻撃をしていても、二帆ふたほさんの〝フーター〟が、絶妙なタイミングで、スキル〝急出〟を使って、Forceフォースをサポートしていた。


 いつも攻撃一辺倒の二帆ふたほさんが、サポートに徹するなんて珍しい。

 ……いや、確かに二帆ふたほさんはいつも結構冷静だ。


 トリプルオーバーキルが重要なこのゲームでは、フィニッシュに、ひと工夫が必要だ。

 二帆ふたほさんの持ちキャラの、エリアルハンターや、シノビスナイパー、そしてハッソウザムライは、確かに攻撃力は高いけど。どれもという面では他のクラスに劣っている。


 二帆ふたほさんは、トリプルオーバーキル達成のために、全体の盤面をみながら瞬時に的確なプレイができる。

 だから今は、Forceフォースのサポートにまわるのが自分の役目だとわかってるんだ……。


「The magic gauge accumulated.」

(よーし、ゲージが溜まった!)


 Forceフォースが叫んだ瞬間、おしりにプスリとワイヤーが刺さった。そして、壁際まで高速移動をする。


 Forceフォースが融合魔法に巻き込まれないようにするための、二帆ふたほさんのサポートだ。

 (いつのまに壁際まで避難したんだろう……)


 十分な安全圏まで移動したForceフォースは、両手に持った〝シストラム〟と〝祓串はらえぐし〟を天高く掲げる。


「I'm going! Special Moves!! Synthetic spirits! Atomic!!」

(いっくよー必殺! 融合精霊! アトミック!!)


 すると、頭上に魔法陣が浮かびあがり、正八面体の風の精霊シルフィードと、正四面体の炎の精霊サラマンダーが合体して、黄金色に輝く球体、融合精霊アトミックに変化する。俺は、大慌てで〝戊戌つちのえいぬ〟の大楯を構える。


「Be prepared for the Silver Cat!」

(銀猫、ぬっころす!!)


 ぼっがーーーーーん!


 融合精霊アトミックをモロに受けたシルバー・プリンセスは、えぐいくらいのダメージを受けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る