第162話 プレイ経験ほとんどゼロ。-G-

 俺たちは薄暗い石造りの地下迷宮を進んでいく。

 そして敵に遭遇した瞬間に、〝フーター〟と〝Forceフォース〟が秒でなぎ倒していく。


 迷宮には天井がある。そして道幅が程よく狭い。つまり、上下左右、好きな所にワイヤーガンを突き刺せる、エリアルハンターが最も得意とするフィールドだ。


 〝フーター〟は、敵が出現した瞬間にワイヤーで高速に近づいて出会いがしらの一撃を与え、続けざまに味方にワイヤーを刺して呼び寄せるスキル〝救出〟で〝Forceフォース〟を呼びよせて、〝Forceフォース〟が敵に密着してからの多段コンボをお見舞いする。


 ダンスシャーマンの弱点、機動力の弱さを完全に解消した見事なコンビネーションプレイだ。完全に俺の出る幕なんてない。

 できることと言ったら、〝救出〟で、ワイヤーをぶっ刺されたForceフォースのHPを回復するために、薬草をつかうだけだ。

(継続回復魔法の〝乙丑きのとうし〟を使うって手もあるけど、もしものためにキープしている)


『スゲーな……敵がウソみたいにとけていく』

『ダンスシャーマンって、こんなに火力高かったんだな……』

『たしかコジローも巌流島チャンネルで考察してたよな。

 全クラス中、最高火力が出せるのはダンスシャーマンだって』

『ああ、でもあれって、ダンスシャーマンの新能力を使用した場合の考察だよな。

 まさか、それを使わずにこの火力とは……』


 そう、Forceフォースは、本気を出していない。

 後発魔法クラスの〝バリケーダー〟や〝境界術師〟そして俺が使っている〝陰陽術師〟に押されて、利用ユーザーの激減していた〝ダンスシャーマン〟に実装された能力を使っていない。


 実装された能力は二種類。


 そのうちの能力のひとつは、扱いにちょっとした工夫が必要だけど、もうひとつの能力は、ダンスシャーマンの性能をシンプルに向上させる結構なお手軽能力だ。

 その能力を使わない……つまり既存の能力だけで、これほどまでの火力をたたきだしているんだ。


『すげえ! なんだこれ!』

『ブーメランスロウ初段当てからのローキック連打でコンボを持続させて、ブーメランスロウ背面ヒットよろけからの密着5コンボ』

『でもってとどめのシルフィード召喚!』

『スーパーロマンコンボw』

『実戦で決まってるとこ初めて見た』

『こんなにスゴイプレイヤーがいたとはな……』

『なんで今まで話題にならなかったんだ?』

『知らねw』

『ひょっとして始めたばっかり……とか?』

『なわけねーだろ、コジローやよろずのサブ垢じゃね?』


 掲示板はForceフォースの話題で持ちきりだ。

 しかも、俺が今一番気になっていることが話題になっている。


 俺は、疑問をGoogle翻訳にかけて音声再生をした。


『Force, when did you start this game?』

(フォース、あなたはこのゲームを始めたのはいつですか?)


「Hmm, about two weeks ago?」

(んーと……2週間くらい前?)


 に、二週間?? てことは、キャンプ場で見たあの陰陽導師は、始めて間もない頃ってことだ。クセが強い陰陽導師をあんなに器用に使いこなすなんてとんでもない!


 しかも、オーバーキル報酬の〝北斗星のかけら〟を手に入れないと作れない〝松煙しょうえんの古代墨〟まで使っていた。本当にとんでもない!


「I've been to various countries on a trip, but I can't go out……. That's why I started this game.」

(今は旅行中なの。でもお外に出られないからこのゲームをあそんてるの)


「そーなのかー。せっかく旅行なのに、つまんにゃいのだ」


 二帆ふたほさんは、〝フーター〟ウンウンとうなずきのポーズをとらせる。キャンプ旅行に誘ったときは、泣くほどこばんだのに、ここら辺の感性と言うか、気づかいは結構ちゃんとしてる。


「I'm in Japan now. I'm leaving tomorrow.」

(今は日本にいるの。でも明日には出国だけど)


 そっか、今は日本に居るんだ。どうりでこんな時間からログインできたのか……でも明日にはほかの国に旅立って行ってしまうらしい。世界中を旅行してるって、Forceフォースっていったい何者?


「I tried various classes, but the dance shaman is the most interesting.」

(私、色んなクラスをためしたんだんよ。でも結局、ダンスシャーマンが一番肌に合う感じ)


「そーなのかー。たしかに、フォーちゃんのその衣装とっても似合っているから納得なのだ」


「Thank you!」


 うん、途中から二帆ふたほさんと会話に微妙にズレが生じてきているきがしないでもないけれど、これでハッキリした。

 つまり、Forceフォースが、武器をのは、シンプルにスキルが解放できていないからだ。


 だとしたらが役に立つ。

 さっき〝お散歩モード〟から戻ってきた、申の干支モンスター〝ジュンイチロウ〟がランダム目的地から拾ってきた、とびっきりのレアアイテムが役に立つ。


 俺は、二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟と、〝Forceフォース〟の、微妙にかみ合っていない、だけど、ジェスチャーモーションをふんだんにまじえた、とっても楽しそうなガールズトーク? を聞きながら、ボスが待つ部屋へと入っていくふたりの背中を追いかけた。

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