第161話 ゼロ距離の魔法使い-G-

 黒髪からピョコンと生えた〝クロネコヘアバンド〟に、白地のタイトドレスだけど、うっすらとすけた生地と、足の付け根までザックリと入ったスリットがなまめかしい、とってもセクシーな〝砂漠の民のドレス〟。

 そして、手に持っている武器は、バステト神のシンボル、〝シストラム〟(赤ちゃんをやさすような『ガラガラ』)だ。


 どれも、このミッションのボス〝シルバー・プリンセス〟を倒さないと手に入らない素材が必要な装備だ。つまり〝Forceフォース〟は、今日実装されたばかりの〝シルバー・プリンセス〟を、何度も攻略してるってことになる。とんでもない腕前だ。


「フォーちゃんのコスチューム、とってもカワイイのだ。理力フォースをギンギンに感じるのだ!」

「Thank you! Your coordination is also very nice!」

「にゃはは! 境界術師のコスプレは、フーちゃんの一番のお切り入りコスなのだ」


 それにしても……二帆ふたほさん、さっきからバリバリの日本語でForceフォースと会話しているけど、なんとなく会話が成立している……なんで?


「I can't achieve a triple overkill by any means……Will you cooperate with 〝フーター〟 and 〝ロンリー〟」

「りょーかいのすけ! トリプルオーバーキラーのスーちゃんがいるから、らくしょーなのだ」

「〝ロンリー〟 I rely on you!」

「お、オーケー」


 俺は、めっちゃプレッシャーを感じながら、勝手にずんずんと先に進んでいく、〝フーター〟と〝Forceフォース〟の二人の背中を追っていく。


 すると、


『フミャー!』

『シャーーーー!!』

『ごろにゃーご!!!』


 しなやかな身体つきの黒豹と、ガラの悪そうなドラネコ……いやトラか。とにかく、〝シルバー・プリンセス〟のしもべとおぼしき雑魚モンスターが現れる。

 俺は、さっそく剣を召喚する定番魔法〝戊辰つちのえたつ〟を唱えようとすると、Forceフォースが、


「Leave it to me here!」


と叫んで、黒豹とドラネコの群れに突っ込んでいく。


 シャン! シャン! シャンシャンシャン!! バキィ!


 Forceフォースは、装備している〝シストラム〟と、スラリとのびた褐色の美脚を振り回して、まるで踊るように黒豹相手に軽快なコンボを決めていく。


 シャン! バキィ! バキィ! シャン! シャシャシャン!!! 


「フギャー……」

「フギャー……」


 そしてForceフォースがコンボを重ねるたびに、黒豹から緑色の発光体がシストラムに吸い込まれていく。


「ぎにゃー」


 二匹の黒豹のかたきとばかりに今度はトラが飛び込んでくる。Forceフォースはその攻撃をヒラリとかわすと、シストラムを天高く高く掲げる。


「Spirit Summoning……」


 Forceフォースのつぶやきと共に、シストラムの描いた流線がひときわ明るく光かがやき、頭上に魔法陣が浮かび上がった。

 そこから、エメラルドに発光する正八面体が迫り上がってくる。


 四元素のひとつ、〝シルフィード〟だ。


「Shooting!」


 シルフィードは、八面体を高速に回転させて、緑色のかまいたちをドラネコに向かって発射した。

 かまいたちは、うなりをあげてトラに襲い掛かる。


「ぎにゃにゃ!」

 

 攻撃に気がついたトラは、一目散に逃げ始める。

 でも、もう遅い。シルフィードのかまいたちはホーミング攻撃だ。


 ザシュシュシュシュシュシュシュシュ!!


「フニャーーーー……」


 トラはかまいたちに切り裂かれて、見せ場もなく消え去った。


「フォーちゃん! すごい! 凄腕ダンサーなのだ!」

「Thank you!」


 二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟が、親指を立ててほめたてえると、〝Forceフォース〟も、なんだかオリエンタルなダンスでそれに応える。


 M・M・Oメリーメントオンラインは、どれもこれもひとクセあるクラスがおおいけれど、ダンスシャーマンもその例にもれない。

 ダンスシャーマンは装備した武器で敵から魔力を奪い取り、それを転用して精霊を召喚するクラスだ。

 攻撃すると画面上の魔力ゲージが上昇して、一定以上貯まると任意に使用できる。そしてその魔力ゲージは、攻撃を連続ヒットさせればさせるほど、効率よく貯めることができる。


 つまりダンスシャーマンは、魔法職にも関わらず敵に密着して魔力ゲージをためる必要がある、〝ゼロ距離の魔法使い〟だった。

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