第160話 知名度100%のスーパースター。
謎のエレベーター少女のことを、かなりしばらく考えていた俺だけど、とりあえず、忘れることにした。理解不能なことをどれだけ考えても、答えなんか出やしない。
俺は、
楽屋のドアには、A4サイズのコピー紙に、人気番組の二時間スペシャルのロゴが張られてあって、その下に〝FUTAHO様〟と創英角ポップ体で書かれてあった。
コンコン!
「
「…………」
返事がない。返事がないと言うことは……。
俺は、音を立てないように、そっと、そぉっと扉をあけた。
そこには、こあがりになっている畳部屋に、足を投げ出して、力なくだらんと頭を下げた、
そしてそのすぐ横には、まるでFUTAHOさんの耳の匂いをかげるくらいまで顔を近づけている
「ふふふ……いい子だね」
と、クールに笑う。そして、FUTAHOさんの目の前に、スナップを効かせた指を差し出す。
「さあ、
3……2……1……」
パチン!!
「おっはよー。ムーちゃん」
「おはようございます。
「ありゃ? スーちゃんがいるのだ。いつの間に来たの??」
「ほんのついさっきです。
「そーなのかー。それじゃあスーちゃん、
FUTAHOさんから元に戻った
そして、いそいそとゲーミングPCを起動してVRゴーグルを装着する。
そんな
「楽屋挨拶はひととおり終わりました。おそらく、今日はもう来客はないでしょう。お偉方はVIP対応におおわらわですので」
「なんてったって、フォレスト・フォースマンの来日ですもんね」
フォレスト・フォースマンは、ハリウッドの大スターだ。
10代の頃に、アカデミー主演男優賞を獲得して以来、20代30代と確実にキャリアを重ねて、去年40で再び主演男優賞に輝いた。
芸能界音痴の俺ですら知っている。認知度100%と言っても言い過ぎじゃない。
「全世界同時上映のために、世界を周遊しているフォースマンが日本に滞在するのは三日間です。その大変貴重な三日間のうちの24時間をこのテレビ局だけで占有しているのですから、意気込みが違います。なんでも空港から直接、ヘリコプターでテレビ局入りしたそうですよ」
「そこまでのVIP待遇なんですね……」
看守さんに呼び止められた俺とは大違いだ。
「収録はまだ先ですよね?」
「はい。たぶんですが夕方まで楽屋で待つことになると思います」
「それなら、俺も
「問題ないと思います。私も別件の打ち合わせが終わったらすぐに戻ります。スーパースターをこの目で拝みたいですし」
「了解です」
俺が
「それじゃ、
「ちがうムーちゃん! フーちゃんがスーちゃんを守るの!
可愛い弟を助けるのが、おねーさんの使命なのだ!」
でも、すぐにニッコリとほほえんだ。
「あはは、そうだね。
「りょーかいのすけ!」
俺も、
「行ってらっしゃい、
「はい。それでは行ってきます。
俺がログインすると、すでにかなりのユーザーがギャラリーモードにいて、掲示板に書き込みをしていた。
『フーター、ついにシルバープ・リンセスに挑戦か』
『クラスは、エリアルハンターか』
『やっぱ、フーターはエリアルハンターのイメージが強い』
『でも装備は相変わらず、境界術師のコスプレなんだな……』
『お、〝ロンリー〟も入ってきた』
『今日はふたりなんだな。〝コジロー〟や〝マーチ〟は参戦しないのか?』
『シルバー・プリンセス、攻撃激しいから壁役は必須だと思うんだけどな』
『うん。てっきり、〝シフト〟や〝アルコダット〟と組んでくるかと思った』
『こんなパーティーで大丈夫か?』
『大丈夫だ問題ない!』
『いや、ふつーにキツイだろ……』
今は午後1時半、実装からもう結構時間が経過しているから、すでにシルバー・プリンセスと対戦したユーザーも多いみたいだ。
パソコン画面には、シルバー・プリンセスが居を構える石造りの巨大なダンジョンが映っている。
シルバー・プリンセスは、エジプトの女神、パステト神がモチーフのモンスターだ。ゲームから、どことなくオリエンタルなBGMが流れてくる。
あとシルバー・プリンセスは、バステト神以外にも日本の妖怪の……あれ?
「やや、
「ええ!!」
「フォーちゃん参戦! ポチっとな!!」
その姿は、褐色黒髪で、オリエンタルな衣装に身を包んだ猫耳の少女……そう、まるでエジプト神話のバステト神のようだった。
「Hi!〝フーター〟!」
「おー、フォーちゃん、今日は〝ダンスシャーマン〟なのかー」
「sure!」
踊りで精霊を使徒する、
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