第152話 ふたつのいじわるな瞳。
「はいはいー、開いてマンボー」
「差し入れのハーブティーを持ってきたよ。今日はアイスの方がいいかなって……」
「さすがスーちゃん。わたしも、そんな気分だったのー」
俺は、
部屋は随分と広い。俺と二帆ふたほさんの部屋の倍近くあって、その一面にはぐるりと本棚が備え付けられてある。奥の机は執筆スペースだ。
俺は、中央のローテーブルにお盆をカチャリと置くと、ティーポットの中で頃合いに茶葉が開いたハーブティーをグラスにそそぐ。
俺の隣では、
大量のクラッシュアイスが入ったグラスには、アツアツのハーブティーがそそがれて、パキパキと音を鳴らしながら黄金色に染まっていく。
部屋の中は、たちどころに甘く、さわやかな匂いにつつまれた。
俺は、グラスをマドラーで軽く混ぜると、コースターを置いて、その上にアイスハーブティーを静かに乗せた。
「わー、すごくキレイ―」
「もう、十分に冷えたと思うから、飲んでみて?」
「いただきまーす」
俺の言葉に、じっとグラスを見つめていた
「美味しいー! スーちゃんの淹れるハーブティーは最高だよー」
なんというか……めっちゃカワイイ。
付き合い始めて痛感したけど、
7歳も年上の、しかも保健室登校の俺にとっては学校の担任ともいえる養護教諭の先生に使う表現としてはいかがなものかと思うけど、とにかくその何気ないしぐさのひとつひとつに、まるで子犬のような愛くるしさがある。
俺は、万感の幸せに打ち震えながら
「ほら、スーちゃんも飲んで飲んで!」
と、アイスハーブティーをうながしてくる。
俺は、うながされるままにアイスハーブティーをひとのみすると、思ったことをそのまま言った。
「うん。アイスに挑戦したのは初めてだけど、うまくいった気がする」
「スーちゃんは、ハーブティー淹れるのが本当に上手。もう、わたしじゃかなわないよー」
「そんなことないよ! だって
「そうなんだー。でもでも、このアイスハーブティーだったら、ムーちゃんも『美味しい』って言ってくれると思うのー」
「じゃあ、明日は武蔵さんにアイスハーブティーを出してみるよ。明日の朝、仕事で
「うふふー楽しみ。きっとムーちゃん驚くと思うなー」
ティーブレイクの数分間、するのはいつもたわいない話ばかりだ。学校の事とか、晩御飯のこととか、
なんでもない話ばかりだけど、そのどれもがめちゃくちゃ楽しい。
そして……
俺と
ハーブティーでほのかに甘さをまとわせた、
俺は、左手で
「う……ん」
――――――――――――
「今はキスまででおあずけ。高校を卒業するまで、スーちゃんは我慢できるかなー?」
「も、もちろんだよ!!」
――――――――――――
露天風呂で交わした約束を、俺はあっけなく破ってしまっていた。
俺は
「ううう……ん」
でも、これ以上は本当におあずけだ。これ以上の禁をやぶると、本当に歯止めが効かなくなってしまう。
俺は、
「はい。今日もよく我慢できました。エライえらい!」
「そ、その、約束だから。それに、これ以上長居したら、
「うふふ、スーちゃんはやさしーなー」
「じゃ、じゃあ、俺はもう寝るね、お、お休み!」
「はーい。おやすみー」
俺は、
「ありゃ? スーちゃん、まだ起きてるの?」
「うん。さっき
「そーなのかー……」
「あれ? イーちゃんの匂いがしてくるのだ。にゃんで?」
「い、いいいいい
そ、それより
「りょーかいのすけ!」
「……寝る気、これっぽっちもありませんよね」
「バレたか!! でも、スーちゃんが起こしてくれるから平気なのだ!」
「まあ、朝起こすくらい別にいいですけど、ちゃんと寝てくださいよ! 仕事に支障が出ると困るんで!」
「りょーかいのすけ!」
「まったく……本当にちゃんと寝てくださいよ……
「にゃはは。前向きに検討しておくのだ」
「そんじゃ、フーちゃんはおトイレ行くから、今度こそおやすみ、スーちゃん!」
「おやすみなさい、
俺はつとめて冷静に挨拶をすると、自分の部屋に入った。
心臓がバクバクしているのがわかる。
ひょ、ひょっとして
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