第151話 ヒミツのゼロ距離ティータイム。

「ごちそうさま」


 食後のティータイムを楽しんでいる父さん、母さん、パパ、ママをあとにして、俺はダイニングテーブルの席をたった。

 ひと足先に晩御飯を食べ終わった、二帆ふたほさんと、M・M・Oメリーメントオンラインの素材集めをするためだ。


すすむ、またゲームかい?

 ゲームが悪いとは言わないけど、やりすぎはよくないよ!」

「アナタが言っても全然説得力がないわよ!」


 父さんの注意と、母さんの突っ込みをうけながら、俺は当たり障りのない返事をする。


「わかった。明日も早いし、ほどほどにしておくよ」


 明日は、5時半起きだ。


「神ボディを目指すミーちゃんのボディーをガードするのが、スーちゃんの務めなのだ!」


 と、二帆ふたほさんに言われて、三月みつきの付き添いで9月から始めているジョギングも、今はもう完全な日課になっていた。


 俺は、二帆ふたほさんの部屋にいくと、すでにVRゴーグルをかぶってM・M・Oメリーメントオンラインを遊んでいる二帆ふたほさんの隣に座って、別のミッションをスタートさせる。


 集めなきゃいけない素材が盛りだくさんだからだ。


 『五色の古代獣』〝グリーンエース〟戦で、陰陽導師の必須アイテム〝松煙しょうえん古代墨こだいぼく〟と〝砂中金さちゅうきんの砂時計〟の素材を使い切ってしまったし、その前に挑んだ〝クリムゾンジョーカー〟戦で、二帆ふたほさんが使うエリアルハンターの必須アイテム〝ニトロの瓶〟も在庫がゼロだ。


 そしてなにより、六都美むつみさんあやつるインファイターの〝コジロー〟の生命線、〝練乳キャンディー〟を完全に消費しつくしてしまっていた。


 二帆ふたほさんと、一乃いちのさん、あとついでにパパのマネージャー業務と、ゲーム攻略&実況チャンネルの『巌流島チャンネル』でVtuberをやっている六都美むつみさんは、毎日めっちゃ忙しい。

 だからもっぱら、六都美むつみさんが使うアイテムの素材集めは、二帆ふたほさんと俺が手伝っていた。


「これも、マネージャーみならい業務の一環です。

 と、ゆーわけで、ねぇ、すすむさ~ん。お・ね・が・い♪」


 生真面目おねーさんの武蔵むさしさんのクールボイスと、あざとかわいい六都美むつみさんのロリロリボイスのがかり? で、お願いされたら、断れるわけがない。


 俺は、スキルポイントを回復する〝練乳キャンディ〟の素材となる〝母なる聖乳せいにゅう〟を得るために、うしの神獣、〝メグミルクルクル〟の乳しぼりミッションをただひたすらに繰り返していた。


「さすがスーちゃん、おっぱいをもませたら、スーちゃんの右に出るものはいないのだ!」

「ちょ、やめてください!」

「にゃはははは!」


 二帆ふたほさんにからかわれながら、俺はもくもくと〝メグミルクルクル〟の4つもあるおっぱいを効率よくもんで……じゃないしぼっていく。


「ふう……こんなもんでいいかな」


 〝練乳キャンディ〟を、上限いっぱいの99個まで作成した俺は、二帆ふたほさんの白を基調にしたオシャレな部屋にかかっている、スタイリッシュな壁掛け時計を見た。

 時刻は、9時40分を指している。


「じゃ、俺はこの辺であがります。明日も早いんで」

「りょー。ミーちゃんによろしく言っといてほしいのだ」

「わかりました。おやすみなさい、二帆ふたほさん」

「おやすミンミンゼミ」


 二帆ふたほさんの腰砕けなお休みの挨拶をうけて部屋をでると、俺は、トントンと階段を降りて2階のリビングに行く。

 そしてキッチンに行くと、電気ケトルに水を入れてスイッチを入れてから、ティーポットでハーブティーをブレンドする。

 今日はアイスにするから、いつもより気持ち濃い目だ。


 部屋、件、仕事部屋で、漫画原稿を執筆している一乃いちのさんに、差し入れをするためだ。


すすむー。いつも悪いわね」


 リビングから、母さんの声が聞こえてくる。

 一乃いちのさんへのハーブティーの差し入れは、先月までは母さんがやっていた。

 でも、ゴールデンウイーク明けからは俺が担当するようになった。


「構わないよ。俺が飲むついでだし。寝る前にハーブティーの匂いをかぐと落ち着くから」


 俺は、ウソをついた。


「そう? でも、母さんが淹れるより、すすむが淹れる方が、美味しいみたい。一乃いちのちゃんも、なんだか最近ゴキゲンだし」


「へえ。そうなんだ」


 俺はつとめて冷静に、電子ケトルからティーポットへとお湯をそそぐ。大丈夫だ。動揺なんてしていない。


すすむは男の子なんだから、一乃いちのちゃんをしっかり守ってあげないと。ね?」


「わ、わかってるよ」


 俺はつとめて冷静に、食器棚からグラスをふたつ取りだして、これでもかとクラッシュ氷を入れる。大丈夫だ。動揺なんてしていない。


「じゃ、一乃いちのさんの部屋にいってくる」

「よろしくね」


 俺は、お盆の上にティーカップとグラスを乗せると、慎重に階段を降りて一階の一乃いちのさんの部屋、件、仕事部屋をノックする。


「はいはいー、開いてマンボー」


 仕事の手を止めた一乃いちのさんが、おとぼけた返事をしながら笑顔でドアを開けてくれる。


 俺と一乃いちのさんが付き合っているのは、ふたりだけの秘密だ。


 だから、この、一乃いちのさんとふたりっきりでのティータイムの時間だけが、恋人どうしでいられる時間だった。

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