第四章・一幕

第149話 情報ゼロの感覚派プレイヤー。

 今日は日曜日。俺は朝から二帆ふたほさん、それから六都美むつみさんとM・M・Oメリーメントオンラインの『五色の古代獣』討伐に励んでいた。


「今日は、すすむさんがいてくれて助かっちゃった。やっぱりインファイターがトリプルオーバーキルを狙うには、〝限界突破ショウテンボタル〟が鉄板だヨ!」


「暦に〝乙酉きのととり〟が1つあれば、〝松煙しょうえん古代墨こだいぼく〟の効果と〝砂中金さちゅうきんの砂時計〟を使用で、スキルポイント160%回復ですから。扱いやすいです」


「これで残すは、〝シルバープリンセス〟だけか……早く実装来ないかナー」


「噂では、『五色の古代獣』をすべてトリプルオーバーキルで倒すと、M・M・Oメリーメントオンラインの新たな秘密が明るみに出るらしいですけど」


「わかんない。こればっかりはなんとも。だって七瀬ななせ九条くじょうも、ちっとも教えてくれないんだモン」


「そりゃ教えてくれるわけないですよ。社外秘でしょうから」


「ま、そーなんだけどねー。あのふたり、あー見えて意外と口が堅いんだよなー。ブツブツ」


 六都美むつみさんは、M・M・Oメリーメントオンラインのトッププレイヤー〝コジロー〟で、チャンネル登録数50万人を超える大人気攻略YouTube『巌流島チャンネル』の配信者なんだ。

(〝コジロー〟の3Dモデルを作成してVtuberもやりはじめて人気がさらに爆発した)


 そんなインフルエンサーに、M・M・Oメリーメントオンラインの開発スタッフの七瀬ななせさんや九条くじょうさんが、開発中の情報を漏らそうものなら、あっという間に『巌流島チャンネル』で拡散されまくってしまう。



 リビングから、母さんの声が聞こえてくる。


すすむ二帆ふたほちゃん、ご飯よー。降りてらっしゃい!」

「りょーかいのすけ!」

「わかったー」


 二帆ふたほさんと俺は母さんに返事をすると、モニター越しに六都美むつみさんに声をかけた。


「そういうわけで六都美むつみさん、俺と二帆ふたほさんは落ちますね」

「オッケー! ボクも明日は早いから、そろそろ落ちよっかナ」

「あ、そういえば、明日は8時入りでしたっけ」

「そーゆーこと。そーゆーわけだから二帆ふたほ!」


 そこまで言うと、六都美むつみさんの声は、ロリロリなアニメ声から、生真面目な大人のおねーさんな声にシフトチェンジする。FUTAHOのマネージャーの武蔵むさしさんモードに切り替わったんだ。


「明日はテレビ局に8時入りです。くれぐれも夜更かしをしないように」

「りょーかいのすけ!」


 武蔵むさしさんの生真面目な言葉に、二帆ふたほさんはVRゴーグルを外しながらお気楽に返事をした。


「……二帆ふたほ、起きる気ないですよね?」

「バレたか!!」


 二帆ふたほさんはスタイルの良い胸を張る。


「はぁ……。すすむさん、いつものように、三月みつきさんとのジョギング帰りに二帆ふたほをたたき起こしてください」

「わかりました」

「よろしくお願いします。では、明日、6時半にはお宅に伺いますので。お食事楽しんでください」


 そう言うと、武蔵むさしさん、いや〝コジロー〟はM・M・Oメリーメントオンラインからログアウトした。


 二帆ふたほさんは、お行儀悪くあぐらをかいたゲーミングチェアの上から飛び降りると、白を基調としたオシャレな部屋を飛び足して、2階にあるリビングへの階段をトントンとリズミカルに降りていく。


 俺は、ゴキゲンな二帆ふたほさんの背中を追いかけながら、謎の陰陽導師、〝Forceフォース〟のことを思い出していた。


 結局、あの日以降、〝Forceフォース〟は一度も現れていない。

 グランピング施設で、フレンチトーストを食べながら、朝6時に観客モードで、二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟との共闘を見て以来、一度も姿を現さない。


 ・

 ・

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 キャンプからかえって早々、俺は、二帆ふたほさんに〝Forceフォース〟について聞いていた。


「知らにゃい。ひとりで遊んでたら、いきなりフレンド申請と共闘申請がきたのだ」

「共闘後にいろいろ話さなかったんですか?」

「うん。だって〝Forceフォース〟は英語だったんだもん」

「あ、やっぱり、海外ユーザーだったんですね」


 予想どうりだ。あんな朝早くから日本でプレイしているユーザーはめったにいない。観客モードの観戦ユーザーもいつもの10分の1くらいだったし。

(あんな朝早くから観客モードにいた人は、普段何をやってる人たちなんだろう……)


「でも、二帆ふたほさん、在米経験ありますよね。まったく英語しゃべれないわけじゃないでしょう?」

「エッヘン! フーちゃんは、ボディランゲージ派なのだ。英語は身体でしゃべる言語なのだ!」

「あ、そうなんですね……」


 そんなんでよくあの神がかり的な共闘プレイができたな……と思いつつ、俺は口にはしなかった。

 きっと〝Forceフォース〟も、〝フーター〟同様、感覚派のプレイヤーなんだろう。

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