第143話 日の出ジャストの露天風呂。
俺は、夢を見ていた。でも、目の前は真っ暗だ。なんだこれ?
あ、これ、顔の前に布がかかっているからか……。
俺は陰陽術師だった。俺はつとめて冷静に、目の前に垂れ下がっている黒い布をめくる。
そこは、城の天守閣だった。俺は、夕刻の
眼下には城下町が広がっている。
「あ、スーちゃんだー。スーちゃんがいるー!」
頭上から、のんびりとした癒しオーラ全開の声が聞こえてくる。
「い、
「ハッソウザムライ、初めて使ってみたけど、とっても便利なのー」
「そ、そうですか、良かったですね」
俺は、はいてないスケスケの
ん? なんだあれ??
夕日の中に、気球がフワフワと浮いている。そしてその気球には、きらびやかなマタドールの衣装に身を包んだ
すると、
「……プロ……ポ……ズ……うれしいです……」
え? どういうこと??
え? え? どういうこと? どういうこと??
もしかして、
なんてこった! 本当になんてこった!!
俺、まだ
好きだって告白すらしてないのに!!
俺の初恋、こんな中途半端な形で終わっちゃうの??
「ま、まってください、
俺は、
でも、俺は陰陽導師だ。陰陽導師には、空を飛ぶスキルなんてない。
スキルがきっかり60個もあるってのに、
俺は、
・
・
・
「ほげぇ!」
俺は、なんともマヌケな叫び声をあげながら目が覚めた。
どうやらベッドの上から落っこちたようだ。
俺は、したたか強打した鼻をさすりながら、スマホで時刻を確認する。
4時33分。
そろそろ、日が昇る時刻だ。
俺は、あたりを見回した。ゲルの中にはコロちゃんとじいやが眠っていて、静かな寝息が聞こえるだけだ。
そういえば、俺、ちゃんとベッドで寝ていたな……コロちゃんとじいやが運んでくれたのかな? あとでお礼言わなきゃ……。
俺は、色んなことを考えながら、無意識に額の汗をぬぐった。ものすごい量の寝汗をかいている。
なんだか良くは思い出せないけど、すんごいヘビーな夢を見た気がする。
そうだ!
ここには露天風呂があるじゃないか。今ならちょうど日の出を見ながらお風呂に入れるはずだ。
俺は、いそいそと身支度を整えて、ゲルを出た。
空は少しずつ白んできているけど、まだまだ薄暗い。俺は足元に気を付けながら露天風呂へと続く石段を下りていると、突然、頭の上から声がした。
「んきゃ! 少年よ! おはよう!!」
「おはようございます。
「んきゃ! 日の出を待っているのだよ。今日は雲海が拝めるはずだ。これは是非ともスケッチしないとねえ」
なるほど。
「いやはや楽しみだよ。きっと天女が舞い降りるがごとく、スバラシイ景色になるに違いない。ま、天女伝説の地は丹後……つまり京都だから、ここじゃないんだけどね」
「天女か……
「んきゃ! なになに? 私が天女みたいに美人だって?」
「言ってません!」
天女ってのは……もっと、こう、お上品で……あっ!!
俺は、羽衣をまとった、全裸の
「んきゃ! まあ、私に惚れるのも構わんが、君にはもっとふさわしい人がいると思うよ。君の事を必要とする人がね」
え? どういうこと??
「さあさあ。もう行った行った。これ以上無駄なおしゃべりをしていると、せっかくの絶景を描き損ねてしまう。
君も、せっかくなら湯舟で日の出を拝んだ方がいいだろう」
「確かにそうですね。それじゃ、
「んきゃ! 少年よ大志をいだけ!
最高の『BOYS BE…』なシチュエーションなのだよ!」
は? なんのこっちゃ??
(そもそも、何歳なんだろう)
俺は、足早に石段を下りると、脱衣所に入って、さっさと作務衣を脱ぎ去って露天風呂へとつづく扉をあけた。
そして、眼前に映る光景に絶句した。
「あ、スーちゃーん。スーちゃんも朝風呂入りに来たんだー」
そこには、天女がいた。
雲海の中から、朝日がゆっくりと昇っていく絶景の中、うっすらと透けているタオルを身体にあてて、温泉のふちにこしかけた天女がいた。
その人の名前は、
俺がもう、1年半もの間、ずっと片思いしている……初恋の人だった。
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