第142話 疲れ果ててMPゼロ。

 俺とコロちゃんが、露天風呂からあがって、バーベキュー場に行くと、母さんと一乃いちのさんが作ったお肉は、もうほとんど残っていなかった。


「あ、メンゴだし!」

「美味しかった。一乃いちのの料理はいつでも絶品」

「んきゃ! 少年たちよ覚えておきたまえ、この世は弱肉強食なのだよ」


 うん。このおねーさんたちには、どうやら〝遠慮〟の二文字はないらしい。

 俺は、コロちゃんに残っているお肉を勧めると、自分のお皿に野菜をてんこ盛りにする。


「え? いいんですか?」

「俺はほら、家でバーベキューするときにいつも食べているから」

「えへへ、やっぱりかぞえセンパイは優しいです♪」


 そう言うと、コロちゃんはにっこりと微笑んで、お肉を皿の上にとりわける。

 ハラミ肉を、昨日夜からまる一昼夜、我が家の秘伝のタレにつけこんだ、特性バーベキューだ。

 コロちゃんは、取り皿にとったお肉をフーフーすると、ハムハムと口にほおばった。するとその顔は、途端に驚きと喜びの表情に満ちあふれる。


「うわぁ! 美味しいです!

 ねえ、じいや。これ、どこの産地のお肉なのかな? 松阪牛、それとも……」

「いえ。オーストラリア産だそうです。スーパーの特売品のハラミ肉だそうですよ。あまりに美味しいので一乃いちの様にレシピをお聞きしました」

「やったあ♪ 今度、お家でバーベキューするときには、一緒につくろうね。お父様や兄さまたち、きっとビックリするよ!」


 うん。コロちゃんはやっぱりいい子だ。とても素直で、とてもやさしい。


 俺は、生来のヘタレ根性のせいでシークレットレアルートがついえたしまった現実を、焦げ焦げの野菜と一緒に苦々しくかみしめた。



 俺とコロちゃんが食事を済ませると、バーベキューはいったんお開きになった。

 一乃いちのさんたちが、露天風呂に入るからだ。


 ジャージ姿から、作務衣に着替えた十津川とつがわさんが、ゲルの中から一升瓶を肩に担いででてきた。


「んきゃ! 月見酒には最高の夜だねえ」


 十津川とつがわさんだけじゃない。ピンクのムームーに着替えた他のメンバーも、お酒を持って十津川とつがわさんの後につづいていく。

 六都美むつみさんは、シャンパンが入ったワインクーラーをかかえて、七瀬ななせさんと九条くじょうさんは、でっかいビールサーバーをふたりがかりで運んでいる。

 そして最後に、そのお酒の量とは明らかに釣り合わない、おしゃれに盛り付けられたオードブルを一乃いちのさんが運んでいる。


「あの……一乃いちのさんも飲むんですか?」

「うふふー、わたしはちょっとだけー」


 心配だ。ただでさえお酒がそれほど強くない一乃いちのさんが、お湯につかりながら月見酒なんて。


「んきゃ、一乃いちのん、早くしないと置いてっちゃうよん」

十津川とつがわセンパイ、まってくださーい。

 じゃ、スーちゃん、師太しださん。30分くらいで戻ると思うからー」


 そう言って、一乃いちのさんは、足早に露天風呂へと続く石段を降りて行った。


 ・

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 俺とコロちゃんは、露天風呂に行った女性陣を待つ間、グランピング施設が用意してくれた小っちゃなキャンプファイヤーを囲んでswitchで桃鉄ももてつの続きを遊んでいた。

 俺は、キングボンビーにボンビラス星に拉致されたロンリー社長を穏やかな心で操作しながら、コロちゃんと話し込んでいた。


「今日、かぞえセンパイと九条くじょうさんが、ぼくの写真を撮っていたのって、三月みつきセンパイに頼まれたからですよね」

「そう。三月みつき、コロちゃんがキャンプに行くのをLINEで伝えたら、秒で『写真撮ってきて!』って返信が届いてさ」

「カワイク取れていると良いなぁ……」

「大丈夫、俺はともかく、九条くじょうさんもたくさん撮ってくれているから」


 コロちゃんは、俺と話しながら、リニアカードを使って目的地の近江八幡おうみはちまんし市につくと、5連続一番乗りの副賞に、再びリニアカードをゲットする。

 うん。一切の容赦がない。なんというか、もう少し手心を加えてほしい。


 コロちゃんは近江八幡おうみはちまんし市の物件を買い占めながら、淡々と話題を変える。


「あ、そういえば、M・M・Oメリーメントオンラインの『五色の古代獣』なんですけど……噂だと……」


 そこまで言ったところで、コロちゃんの話は、ロリロリなアニメ声にさえぎられた。六都美むつみさんの声が、露天風呂の方から聞こえてくる。


すすむさん、ちょっと来て! 一乃いちのがお風呂でのぼせて倒れちゃった!!」


 言わんこっちゃない! 一乃いちのさんは、ただでさえお酒の酔いが回りやすいんだ。お風呂でお酒を飲んだら、酔いつぶれるのは無理もない。


 俺は、コロちゃんとじいやと一緒に、急いで脱衣所に行った。

 そこには、お風呂から上がって着替え終わった六都美むつみさんと、竹製のベンチに寝かされている一乃いちのさんがいた。


 俺は、一乃いちのさんをおんぶして、コロちゃんに足元を照らしてもらいながら石段を登ってキャンプ場に戻った。


一乃いちのさんは、俺が診ているんで、コロちゃんとじいやさん、それから六都美むつみさんは、キャンプの続きを楽しんでください」

「わかった。十津川とつがわセンパイたちに伝えるよ。じいやとコロちゃんは、ボクたちと一緒に露天風呂に入っちゃウ?」

「えええ!!」

「そ、そそそんなご冗談を!」

「えー、みんな喜ぶと思うんだけどナ。仕方がない。湯浴ゆあみ酒は切り上げて、炎を囲みながら続きを楽しむヨ。ボク、みんなを読んでくるネ♪」


 六都美むつみさんの言っていること、あながち冗談じゃない気がする……。


 俺は、六都美むつみさんの爆弾発言に愛想笑いしながら、男子部屋のゲルに入って一乃いちのさんを空きベットの上に寝かしつけると、備え付けのウチワで一乃いちのさんをあおいだ。


 一乃いちのさんは、酔いとお風呂で顔を真っ赤にして、でも、とても気持ちよさそうに「すうすう」と寝息を立てて眠っている。


 今日は、ホントに色んな事があったな……体力的にも疲れたけど、なんというか精神的に疲れた……MPは完全にゼロになっている……気が……する。


 俺は、一乃いちのさんの寝顔を見ながら、ゆっくりと眠りへと落ちていった。

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