第139話 インフィニティな露天風呂。

かぞえセンパイもお風呂、はいりましょ♪」


「え? あ……うん……」


「やったあ、やっぱり、おっきなお風呂はみんなで入った方が楽しいですよね。

 ♪ちゃッちゃらチャチャチャちゃちゃーん♪」


 コロちゃんは、ゴキゲンに桃鉄ももてつの目的地到着のテーマを口ずさみながら備え付けのクローゼットを開ける。


「やっぱり、ボクはこっちにしようっと」


 コロちゃんは、クローゼットの戸棚から3着のリラックスウエアを取り出した。男性用のネイビーの作務衣さむえと2着と、女性用のピンクのムームーだ1着だ。


「あ、ありがとうコロちゃん」

「これはこれは五郎ごろうぼっちゃま。痛み入ります」


 俺とじいやは、コロちゃんから作務衣さむえを受け取ると、服を脱ぎ始める。

 すぐとなりでは、コロちゃんがセーラー帽を置いて、白いセーラー服を脱いでいる。

 俺は、素早く顔をそむけると、高鳴る心臓の音を聞きながら作務衣に着替えた。


「わぁ、この部屋着、カワイイ」


 コロちゃんは、ゆったりとしたワンピースのムームーを着て、ゴキゲンでクローゼットの鏡に映った自分の姿を見ている。


 うん。カワイイ。可愛すぎる。お風呂に入るために、長い前髪をヘアゴムでしばった髪型も最高だ。

 俺はコロちゃんに思わず見とれていると、鏡越しにコロちゃんと目が合った。


 するとコロちゃんは、


「あの……どうですか、この服」


 と、もじもじしながら鏡ごしに聞いてきた。


「え!? あ、うん……カワイイよ」

「ありがとうございます。かぞえセンパイも、作務衣さむえ似合ってますよ……」


 そう言うと、コロちゃんは顔を真っ赤にしてうつむいて、消え去りそうな声でつぶやいた。


(「なんだか……新婚旅行の……カップルみたい)」


「ん? コロちゃん、何か言った?


「な、なんでもないです!!

 じいやも準備できたみたいだし、露天風呂に行きましょう!」


 俺たちはゲルを出ると、露天風呂へと向かう。


十津川とつがわセンパイ、火をつけるし」

「んきゃ! 任せたまえ! アトミックファイヤー!!」

「ちょちょっと、十津川とつがわセンパイ、火の勢い強すぎるヨ!!」

「ふはははは! 燃えろ、この腐った世界を燃やし尽くすのだ!」

「やっぱりーみんなでバーベキューすると、予想外のハプニングが起こってたのしーよねー」

一乃いちの、なに、のん気なコト言ってるんだヨ!!

 あああ、早く火をよわめなキャ……」


 俺たちは、なんだか取り込み中のバーベキュー場を横切って、石段をくだっていく。

 露天風呂は、キャンプ場から少し離れた石段の下にあった。

 石段の下には、脱衣場が見える。


 脱衣場は、とっても簡素なつくりの小屋だった。でも扉をあけると、しっかりとパウダールームが備え付けられてあって、ドライヤーやマッサージチェアまで完備されてある。


 俺は、限界まで視野をせばめてさっき着たばかりの作務衣さむえを脱いで裸になる。じいやをはさんだその先には、裸のコロちゃんがいる。生まれたままの姿のコロちゃんがいる。

 俺は、つとめて、つとめて、まっすぐ前を見つめて、コロちゃんを見ないように見ないように脱衣所のドアを「ガラリ」と開けた。


「わぁ、すごーい!」

「これはこれは素晴らしいですね」


 俺は思ったことをそのまま言った。


「空中に浮いているみたいだ……」


 照明に照らされた湯舟が、まるで宙に浮かんだように境界線なく広がっている。

 湯舟の先は真っ暗闇で、遥か彼方に満月だけがぽっかりと浮かんでいた。


「シンガポールのマリーナベイ・サンズのプールみたい!」


 コロちゃんは、はしゃいだ声をあげながら、急いでかけ湯をすますと、露天風呂にザブンと入って、ずんずんと湯舟のふちまで歩いていく。


「インフィニティ・プールですね。私も五郎ごろう坊ちゃまの付き添いで、あらゆるリゾートを経験させていただいておりますが、これほど見事な造りははじめてです」


 じいやは、かけ湯をしながらつぶやくと、静かに湯舟に入った。


かぞえセンパイも早く早く!!」


 コロちゃんはふりむくと、おいでおいでをしてくる。

 お湯の中に腰近くまでひたったコロちゃんの色白の身体は、真っ暗闇の中でことのほか白く映えている。

 そして、プールを照らす照明が、コロちゃんの背中でクロスして、まるで羽が生えた妖精みたいにコロちゃんを妖しく照らし出していた。


 俺は、かけ湯を済ませるとその妖艶な姿に吸い込まれるように湯舟へと入っていった。

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