第135話 知名度ゼロのプロフェッショナル。
俺の町から、目的地の
かなりの長丁場だ。
「あ、この金太郎カレーパン、おいしー」
「ところで……
「なになに?
「彼氏と別れたってホント?」
「先月別れたし。
「そうなんだ……ゴメン、
「ごめんねクーちゃん……」
「いやいや!
「
なんだか、色んな大人の事情が錯綜して要るっぽいけど、今の俺は、正直それどころじゃない。
大人の女性のガールズトークに入れない俺とコロちゃんは、旅のお供の大定番ボードゲーム『桃太郎電鉄』に熱中していた。
今は10年目、ロンリー社長とコロコロ社長は、コンピュータのあかおに社長を置いてきぼりにして、激しい首位争いを繰り広げている。
「そういえば、このゲーム、貧乏神がでてくるのはわかるんですけど、なんで〝桃太郎電鉄〟ってタイトルなんでしょう?
それに、略称がどうして〝
「このゲームの前に、〝桃太郎伝説〟っていう、ロールプレイングがあったみたいなんだ。それの略称が〝
俺は、家族で桃鉄を遊んでいるときに、父さんが得意げに話したことを、そのまんまコロちゃんに説明した。
「へー、そうなんですね。さすが
「いやーそれほどでも?」
俺が調子に乗っていると、不意にBGMが鳴りやんだ。
『おや?
貧乏神の様子が変だぞ??』
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 今変身されるとやばい!!」
『キーーーング! ボンビーーーーーーーーーーー!!』
おどろおどろしいBGMとともに、ゲーム画面が赤紫色に変色した。
「ぎゃああああ! え? そんな……いきなりサイコロ攻撃!!!
あああ……せっかく買い占めた〝いずもそば屋〟が……」
俺がなんともなさけない悲鳴をあげていると、
「ああ、
と、コロちゃんがとっても切なげな声をあげる。でもその口角はにやりと上につりあがっていた。
『うんちがぷりりりーん』
おまぬけな効果音とともに、線路の上にウンチがおちてくる。俺の電車は、袋小路に閉じ込められて身動きが取れない状態だ。
「ちょ!? コロちゃん、イジワルしないでよ」
「ご、ごめんなさい。でも……センパイの困った顔をみていたら、なんだかイジワルしたくなっちゃって♪」
そう言うとコロちゃんは、ウインクしながら舌をかわいくペロリンと出した。鬼だ! コロちゃんは
・
・
・
そっからは、散々だった。
俺は今、キングボンビーの攻撃を喰らいまくって、完全な無一文になって、遥か彼方の〝ボンビラス星〟に拉致監禁されている。
俺がサイコロをふると、汽車はマグマが沸き立つおどろおどろしいボンビラス星の線路をゆっくりと進行し、止まったマスで数億円をうばわれる。
もう、こうなったら、借金が1億でも100億でも変わらない。いくら借金が増えたところで、〝徳政令カード〟があれば一発で返済できるんだから。
俺はまるで、大海原の凪のようなおだやかなこころで、コロちゃんが目的地の名古屋に到着するのを見届ける。
人間、心がおだやかになると、余裕が生まれるものだ。そして余裕が生まれると、周囲の物事が良く見える。
俺は、さっきまではちっとも耳に入らなかった、
「ハッソウザムライのキャラクターデザイン、クーちゃんだったんだー!」
「あれは、会心のデザインだったし!」
「ウエポンコレクターは
「えええ! そ、そうなんですか?」
俺は思わず叫んだ。
だって、ハッソウザムライとウエポンコレクターのキャラクターデザインは、〝
「ボクがプロデューサーさんにお願いしたの」
と、
「『
「デザイン案を出してもらって本当に良かったのー。ウエポンコレクターも、ハッソウザムライもどっちも即決だったしー。特にクーちゃんのハッソウザムライは一目ぼれしちゃった! クーちゃん天才!」
「キャラコンセプトを見たとき、これ絶対
キャンプにはちょっと不釣り合いな、パンクスタイルの服装をした
「そうなんだー。それを知ったらフーちゃん喜ぶと思うのー」
そしてそのやりとりを、ずっと冷ややかな目で見つめていた
「
「恩に着るし! さすが、
「おだてにはのらない。報酬として、今日のキャンプの肉をよこせ!」
「それは、お断りだし!」
なごやかな? ガールズトークがつづくなか、俺は、ちょっと、いや、どうしても気になったことを聞いてみた。
「……あの、
こう言ってしまってはなんだけど、自分だったら「ズルい」って感じてしまう。
だって本来なら自分が考えたアイデアなのに、それが
「別に、へーきだし。てゆーか、
「そう。それに
「
「そ、そうなんですね……」
俺がおもわずあいずちをうつと、キャンプにはちょっと不釣り合いな、フリルいっぱいの地雷系ファッションに身を包んだ
「名声より報酬。今年の賞与がたのしみ」
そんなもんなんだ……。
「んー……ナナちゃんはちょっと割り切りすぎかもだけどー。ゲームとかアニメって、たくさんの人の力でできているの。
わたしはたまたま、〝雨野うずめ〟っていう、目立つポジションのお仕事だけどー。
漫画だってそう。みんなや、
「んきゃ!
「あ、
天井にあるベッドスペースで爆睡していた
「ま、そーゆーわけだ、少年!
プロフェッショナルとはそーゆーことなのだよ。
君は高校三年生だろう? 進学するのか就職するのかはわからんが、夢に向かって頑張りたまえ!」
「は、はい!」
って……あれ?
俺が混乱をしているなか、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます