第131話 100%の断固拒否。

『いやはや、今日もええもんみれた』

『巌流島チャンネルのアテレコが楽しみだ』

『コジローと流しのアルコとフーターの一人三役やるのか……』

『コジロー、めちゃ器用だよな』

『声優の卵とか……?』

『いやーさすがにそれはないと思うけど』

『どーせ全員ニートだろw』

『流しのアルコや、コジローは違うかもだけど、フーターは間違いなく自宅警備員』

『だな! フーターは、寝ているとき以外、ずっとインしてる感じだもんな』


 観客モードの掲示板は、いつもどおり言いたい放題だ。

 まさか、この3人のレジェンドプレイヤーの正体が、敏腕マネージャーと、凄腕マンガ編集者、それから天下のカリスマモデルFUTAHOだとは、夢にも思わないはずだ。



『それでは私はそろそろ落ちます……別のパーティーからお呼びがかかったので。おつかれさまでした』


 そう言うと、田戸倉たどくらさんは、〝アルコダット〟に、うやうやしくお礼のモーションをさせた。

 それを受けた六都美むつみさんが、〝コジロー〟に可愛らしくバイバイのモーションをさせながら返事をする。


『アルコさん、配信許可ありがとうございまーす。カッコよくアテレコしますんで。配信楽しみにしてくださいね♪』

『ははは、お手柔らかにおねがいしますよ』

『はーい♥』

「それじゃ、アーちゃん、お疲れなのだ」

『それでは……失礼します』


 〝アルコダット〟をあやつる田戸倉たどくらさんのログアウトを確認すると、六都美むつみさんが誰へともなくつぶやいた。


『……さてと、そんじゃ、ボクも編集作業あるから落ちよっかな。明日は早いし、ぱぱっとやっつけないと! ……あ、それから、すすむさん、よろしくね!』

「はい。任せてください!!」


 俺が力強く返事をすると、二帆ふたほさんが首をかしげる。


「はにゃ? 例の件??」


『あ、気にしないで!! そんじゃーね、二帆ふたほすすむさん!!』

「りょー、お疲れー」

「お疲れさまでした」



 みごとな連係プレイで〝グリーンエース〟にダブルオーバーキルを達成したレジェンドプレイヤーの〝コジロー〟と〝アルコダット〟のふたりがM・M・Oメリーメントオンラインからログアウトすると、それを合図に観客モードのギャラリーもどんどんログアウトしていった。


「そんじゃ、フーちゃんは素材集めを始めるのだ」

「その前に、ちゃんとパーカーを着てください!」


 俺は、いまさらだけど、二帆ふたほさんのあられもない姿につっこんだ。


 紫色のだるんだるんのパーカーが、肩からずれおちまくっておっぱいが丸見えになっている。そして、下はおへそのあたりまでめくれ上がっていて、ここには書いてはよろしくない所がモロ見えになっている。


「にゃははは。見ぃーたぁーなぁーーーー」


 二帆ふたほさんは、まるで猫の様なニヨニヨ笑顔を見せると、丸見えのモロ見えのまま、ベッドの上にダイブする。そして、両膝を抱えて体育座りの体制になって、ベットの上をゴロンゴロンと転がりはじめた。


 二帆ふたほさんは、転がりながら器用に、スタイル抜群の身体をパーカーの中に収納していく。そして、すっぽりと完全にパーカーの中に納まると、ピタリと動きを止めた。


「フーちゃん『サナギマン』モード!」


 うん。ちょっと、何言ってるかわからない。

 俺は、思っていることをそのまま聞いた。


「なんですか? それ??」


「えっへん! サナギマンモードは、エッチなスーちゃんの視線を完全シャットアウトするモードなのだ。

 スーちゃんは、ミーちゃんと言うカワイイ彼女がいるのに、フーちゃんのことをエッチな目で見るとんでもないドスケベこまったさんなのだ!!

 だからこうやって『サナギマン』モードでガッチリR指定するのだ!!」


 うん。こまった。本当にこまった。


 だって、今目の前には、二帆ふたほさんのお尻の付け根からここには書いてはよろしくないところが、丸見えのモロ見えなんだもの。世間一般ではモザイクがかかってしまうところだけを、まるで狙いすましたようにパーカーからもろ出しにしているんだもの。


 頭かくして〇〇〇ピーかくさずなんだもの。


 うん。こまった。本当にこまった。


 一刻も早く、このサナギマンモード? を解いてもらわないと。

 なんというか……危険が危ない。俺の煩悩ゲージがふりきれてしまう。


 俺は、心を落ち着かせて、慎重に二帆ふたほさんに質問した。


「あの、二帆ふたほさん、そのサナギマンモード? って、どうやったら解除されるんですか??」


「サナギマンは待つ。フタホマンに成長する時が来るのを、ひたすら待ち続けるのだ!」


「へー。そうなんですね……」


 俺は静かに深呼吸をすると、カチンコチンに成長した俺の下半身のサナギマンが大人しくなるのをひたすら待ち続けた。



 どれくらい待っただろう。一向に成長しない二帆ふたほさんのサナギマンに、俺の成長した下半身のサナギマンは、もう、我慢の限界だ。このままではヤバイ!!


 部屋に戻ろう、いったん部屋にもどって羽化しよう。色んな意味でスッキリしよう。スッキリして心の中に賢者を召喚しよう!! 俺がそう思った矢先、何かを察したのか、二帆ふたほさんが突然叫んだ。


超力招来チョーリキショーライ!!」


 二帆ふたほさんは、叫び声とともに、ベッドから勢いよく「バイン!」と飛び跳ねると、スタイルの良い手足をニョキンと伸ばして、


「フタホマン参上!!」


 と、まるで大阪にある、グリコの看板みたいなポーズをして床の上に着地した。


「にゃははははは!」


 うん。疲れる、二帆ふたほさんの相手は本当に疲れる。


 でも、楽しそうで何よりだ。いいなあ……二帆ふたほさんには、きっと悩みなんてないんだろうなぁ。


 俺は、マイペース極まりない二帆ふたほさんに、ほんろうされつつも、とりあえず本題を切り出すことにした。さっき、六都美むつみさんに念を押してお願いされたことを二帆ふたほさんに言うことにした。


「あの、二帆ふたほさんは、明日のキャンプ一緒に行かないんですか?」


 すると二帆ふたほさんの「にゃはは」と笑っていた顔が、途端に「スン……」と無表情になった。


 え? どういうこと??


「お外に出るのと、パンツをはくのは、FUTAHOの役目なのだ。フーちゃんの仕事じゃないもん!」


 え? どういうこと??

 俺は、思ったことをそのまま聞いた。


「FUTAHOの仕事って……FUTAHOは二帆ふたほさんですよね?」


「FUTAHOは、フーちゃんじゃないのだ。だって、フーちゃん、ムーちゃんやスーちゃんがいないとFUTAHOを呼べないもん。

 フーちゃんは、FUTAHOじゃないと、お外に出れないもん!!」


 え? え? どういうこと???

 俺は、思ったことをそのまま聞いた。


「完全にプライベートのキャンプですよ? 仕事は一切しませんよ? それでもダメですか?」


「いかにゃい!」


二帆ふたほさんが、リラックスできるようにって、六都美むつみさんが1組限定の完全プライベートのグランピング施設を予約してくれたんですよ?」


「いかにゃい!!」


「じゃあ、ゲーミングPCを持っていきましょう?

 キャンプ場でM・M・Oメリーメントオンラインを一緒に遊びましょう!」


「いかにゃい!!!」


「……………」


「フーちゃんは、ぜっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっったいに、お外に出ないって決めてるのだ!」


「……………」


「フーちゃんのことは気にしないで。

 スーちゃんは、イーちゃんやみんなと、キャンプを楽しんでほしいのだ!

 その間に、フーちゃんは、スーちゃんがM・M・Oメリーメントオンラインで欲しい素材をたっくさん集めておくから!

 だ、だから……スーちゃんは、スーちゃんだけは!

 フーちゃんに……イジワルしないでほしいのだ……」


「……………」


 俺は、思ったことをそのまま言いたかった。


――――― なんで、そこまでして外に出たくないんですか? ―――――


 でも……言えなかった。

 瞳に涙をにじませた二帆ふたほさんには、とてもじゃないけど言えなかった。

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