第125話 知識ゼロのファストフード。

 オーバーオールのボーイッシュカワイイ三月みつきと、白いワンピースの清楚カワイイコロちゃんは、仲良く手をつないで、おしゃべりしながらショッピングモールを歩いていく。


 ふたりは、道行く人たちの視線を一身に集めている。

 そりゃそうだ。となり街までカワイイと評判が広がっている美少女と、その美少女が太鼓判を押す清楚カワイイ男の娘のツーショットだ。


 カワイイの相乗効果。その効果は絶大だ。


 そして、そのカワイイオーラのおかげで、後ろからヘコヘコとついてきている荷物持ちの俺にはだれも注目していない。完全にアウトオブ眼中だ。(おかげでめっちゃ気が楽だ)


 三月みつきはとっても有名なハンバーガーチェーンで足をとめて、俺とコロちゃんに確認をとる。スマイルが0円で有名なチェーン店だ。


「お昼、ハンバーガーでいい?」

「いいよ」


 俺は秒で返事をした。いいも悪いもない。こちとら、おごってもらう身分なんだもの。


すすむだけおごるのはなんだし、コロちゃんにもごちそうするね!」


 三月みつきは、笑顔でコロちゃんを見る。でも、コロちゃんはポカンとした顔をして、赤地に黄色のお店のカンバンをながめている。なんだかちょっと、困っているみたいだ。


「どうしたの? コロちゃん??」

「遠慮しないで、俺と一緒に三月みつきにおごってもらおうよ」


 三月みつきと俺が声をかけると、コロちゃんの返事は、予想だにしないものだった。


「えっと……入れないんじゃないですか?」


「は?」

「は?」


「……なんだか混んでるみたいだし……予約してないと入れなくないですか?」


 予約? てかファストフード店て予約するものだったっけ?


「も、もしかしてコロちゃん、この店初めて?」

「……はい。とっても有名なお店ですよね? CMも見たことあります。だから予約しないと入れないんじゃないかな……って」


 うん。なるほど。理解した。完全に理解した。

 確かに、良家の方々は、ハンバーガーのチェーン店なんてふつうは利用しないよな。ファストフード店なんて利用しないよな。


「えっとね。コロちゃん、このお店は予約なしで入れるの」

「え? そうなんですか??」

「そこのカウンターで、料理を注文して、自分で机まで運んで行くんだ」

「そうなんですね! 面白い!!」


 そのあと、俺と三月みつきは、ファストフード店の仕組みにいちいち驚くコロちゃんに、衝撃を受けながら、ハンバーガーを注文した。


「セット?? コース料理のことですか?」

「え? アプリで割引券があるんですか? サービス料がかかるんじゃなくて??」

「自分で料理を運ぶってことは……チップはどこではらえばいいんですか?」


 うん。浮世離れがすごすぎる。下々に生きる俺と三月みつきは、コロちゃんの口から放たれる、とんでもないカルチャーギャップに度肝をぬかれながら、このハンバーガーチェーン店の大定番メニュー、ビックなハンバーガーのセットを3つと、盛りだくさんなナゲットを注文してテーブルについた。


「うわー、おいしいです♪」


 コロちゃんは、人生で初めて食べるジャンクフードにご満悦だ。ニコニコしながら、夢中になってハンバーガーを食べている。カワイイ。


「あはは、コロちゃん、唇にケチャップついてるよ」


 そう言うと、三月みつきはコロちゃんの口のハシを中指と人差し指でぬぐうと、そのまま「ちゅ」と口にくわえてなめとった。


「え?」


 コロちゃんの顔は、たちまち真っ赤になっていく。


「あの、三月みつきセンパイ、これって、かん……せ……つ……」


「え? あ、そっか! えへへ、間接キスだね! ごめんごめん」


 三月みつきは、まったく気にしていない感じで、てへぺろと舌を出した。そしてそのまま自分の口にもバッチリとついていたケチャップを舌で「ペロン」とぬぐいさる。


 そんな三月みつきの無邪気かつ、無防備なしぐさをみて、コロちゃんの顔はますます赤くなっていった。


 ん? これって……コロちゃん、ひょっとして……??


 コロちゃんは、うつむいて顔をまっかにしたまま、細くて白い、スラリとした指をナゲットへとのばすと、その指は、パクパクとたくましく猛スピードでフライドポテトを食べ終えて、そのままナゲットへと勢力を拡大した食欲旺盛な三月みつきの指とぶつかった。


「あ! ごめんなさい!!」


 コロちゃんは、慌てて指をひっこめる。そして赤い顔がさらに真っ赤に染まっていく。


 うん。なるほど。理解した。完全に理解した。

 コロちゃんは……三月みつきの事が好きなんだ。


 ん? でも、異性として? それとも……同性として??

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