第122話 5分前行動では遅すぎる。

「行ってきます!」


 俺は、誰にともなく出かけることを伝えると、靴をはいて大急ぎで玄関を出た。

 でもって手に持ったスマホで時刻を確認する。


 9時50分。うん。軽く走れば5分前にはつく。


 俺は、スマホのホーム画面でバッジがついているM・M・Oメリーメントオンラインが気になりつつも、(干支モンスターが、アイテムも持ってお出かけからもどってきている)スマホを厚手の襟付きシャツの胸ポケットに入れる。


 今日は、5月最初の土曜日だ。つまりはゴールデンウイークのまっただなかだ。そして俺は、完全に服装をミスってしまった。暑い。今日は夏日になるんじゃないかな?


 俺は走りながら、厚手の上着を脱いで半そでになると、スマホが落ちないように注意しながらシャツを右手でつかんで駅前まで走った。



 駅前の広場についたのは、予定より1分遅い、9時56分だった。

 広場の噴水の前には、すでにもう三月みつきとコロちゃんが待っている。


「遅い! 遅すぎるよすすむ! コロちゃんなんて、30分も前からまっているんだから……」

「ごめんごめん。今日は、二帆ふたほさんが終日OFFだから、昨日の夜はついついM・M・Oメリーメントオンラインに夜遅くまで付き合っちゃって……」

「……いえ、全然大丈夫……です。ぼくが早く着きすぎただけ……ですから」


 今日の三月みつきは、デニムのオーバーオールだ。それに薄手の長袖の青色ボーダーのTシャツを合わせている。えらくボーイッシュないでたちだから、隣にいる制服姿のコロちゃんの女の子らしさが際立っている。


 俺は、思っていることをそのまま聞いた。


「ん? コロちゃん、なんで制服姿なの?」

「そ、その……ぼく、女の子の服って持ってないから……」

「そーゆーこと。今日は、コロちゃんと一緒に、カワイイ服をいーーーーーーーーーーーーーーーっぱい買うの!」


 そう言うと、三月みつきは、コロちゃんの腕にからみつく。するとたちどころにコロちゃんの顔が赤くなった。


「み、三月みつきセンパイ、そ、その……腕に胸が当たって……」

「あ、バレた? 当ててるの♪」


 コロちゃんは、しどろもどろだ。そして三月みつきはその反応を見て、まるで二帆ふたほさんみたいにニヨニヨと笑っている。


 コロちゃんはどっからどうみても女の子にしか見えないんだけど、こう見えて、実はかなーり女の子に免疫がない。


 はいてない二帆ふたほさんや、酔っぱらうと必ず部屋を間違える一乃いちのさんのゼロ距離攻撃を喰らいづづけている俺に比べると、ずいぶんと反応が初々しい。


 コロちゃんは、ニヨニヨしながら腕にからみついてくる三月みつきから、どうにかこうにか腕をひっこぬくと、


「お、女の子の服の売り場なんて、ぼくひとりじゃ、恥ずかしくて入れないですよ……」


「そ、だから今日は、部屋着から外出着まで、一通りそろえなきゃいけないの!

 だからすすむは荷物持ち!!

 か弱いアタシとコロちゃんふたりじゃ、荷物が持ちきれないもん!」


「昼飯おごってくれるって話は忘れて無いだろーな?」


「大丈夫、おねーさんに任せなさい! 今のアタシは、『ちょ、やめるでござる!』

の原稿料が入って、とってもブルジョワなのでーす!!

 あ、でも、ごちそうするのは1000円までだよ! お父さんに『無駄づかいはするな!』って釘指されてるもん。りょーかいのすけ?」


「オッケー。りょーかいのすけ」


 俺は、なんだかよくわかんない業界用語をオウム返しすると、


「そんじゃ、しゅっぱつしんこー!!

 コロちゃんを、おもいっっっっっっっきりカワイク変身させちゃうぞー!」


 三月みつきはやたらと高いテンションで、ずんずんとショッピングモールへと向かっていった。


「じゃ、行こうかコロちゃん」

「え……あ、はい……」


 俺たちは、三月みつき、俺、コロちゃんの順番で、まるでファミコンのころのロールプレイングゲームみたいに、縦一列になって、青色コーデの、『勇者三月みつき』の後をゾロゾロとついていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る