第116話 ムダ毛ゼロのモードチェンジ。ーGー

 ボスザルのイエロージャックが崖の岩を落として、それを赤ザルがレシーブしまくって、緑ザルと白ザルがスパイクでこっちに岩をガンガンと飛ばしてくる。

 そしてお色気たっぷりなマゼンダザルが、イエロージャックにバナナを「あ〜ん」をして食べさせる。


 一見スキが無いように見えるこの連携だけど、よくよく見るとスキがあった。


「コロちゃん、次にマゼンダザルがイエロージャックにバナナを食べさせる時に、叫びの盾でつっこもう」

「そっから、凱旋のロンドの振り上げ攻撃ですね」

「うん、よろしく!」

「あ……でも、でも、浮かせるタイミング失敗しちゃうかも……」

「俺が〝番犬のカチコミ〟を重ねるから!」

「わかりました!」


 俺たちがイエロージャック対策を話し合っている中、二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟は、コロちゃんの後ろからいつの間にか前線に出て、羽衣を使って大岩をジャストタイミングではじき返している。


 バシィ! バシィ! バシィ! バシィ!

 ふわりん ふわりん ふわりん ふわりん

 ドガァ! ドガァ! ドガァ! ドガァ!

 きゃあ! きゃあ! きゃあ! きゃあ!

 

 打ち返した大岩は、山なりの軌道を描いて、イエロージャックの肩に乗るマゼンダザルの頭上に落下している。


「にゃはは! おもしろい!!」


 バシィ! バシィ! バシィ! バシィ!

 ふわりん ふわりん ふわりん ふわりん

 ドガァ! ドガァ! ドガァ! ドガァ!

 きゃあ! きゃあ! きゃあ! きゃあ!

 

 緑ザルと白ザルの絶え間ない連続大岩アタックを、二帆ふたほさんが絶え間なくはじき続けるものだから、マゼンダザルが、イエロージャックにバナナを与える余裕もなくダメージモーションのまま固まってしまっている。


 うん。これじゃあ、いつまでたってもコロちゃんと立てた作戦が実行に移せない。

 俺は、たまらず二帆ふたほさんに声をかけた。


「あの、二帆ふたほさん、ちょっと、さがっといてもらえません?」


 その時だ。


『いや〜ん……いや〜ん……いや〜ん……いや〜ん……』


 マゼンダザルは、エコーのかかったお色気たっぷりの悲鳴を上げながら、イエロージャックの岩で武装した右肩の上からゆっくりと転がり落ちた。


『むきゃ!!』


 イエロージャックは、大慌てで、マゼンダザルを抱き抱える。そして、小刻みに体を震わせた。目にはキラリと光るものがある。


『うおおおおおおおおおおおおおお』


 イエロージャックは、大粒の涙をボロボロと流すと、身体の右巨体をおおった岩がゴロゴロと剥がれ落ち、フサフサとした金色の毛もハラハラと抜け落ちていった。


 うん。なんだか猛烈に悪い予感がする。 


『むきゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』


 イエロージャックは、青白いオーラに包まれて、その場に空中浮遊すると、シルバーメタリックに輝いた。まさかのダブルモードチェンジだ。


『ム……キャ!』

『ム…………キャ!』

『ム………………キャ!』


 イエロージャックのモードチェンジに、赤ザルと緑ザルと白ザルが、ガクガクとおびえて、一歩、二歩と後退りした後、背中を見せて散り散りになって逃げ始めた。


『むきゃ!』


 新生イエロージャックは、大慌てで逃げ出すサル3匹を猛スピードで追いかけると、尻尾をつかんでは投げ、尻尾をつかんでは投げ、と、瞬く間に3匹を空中へと放り投げた。


 グシャ!


 放り投げられた3匹は、空中で鈍い音をたてて、激しくぶつかる。そして、


『むきゃむきゃ……はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』


 イエロージャックの口から放たれた、水色のレーザー砲で、粉微塵に吹き飛ばされた。



『な、なんだってー!』

『まさかの二段変形』

『イエロー要素が全くなくなったw』

『同士討ちってw』

『やつあたりかわいそす』

『へっ!  きたねえ花火だ』

『マゼンダサルが死んだのが、よっぽどショックだったんだろうな』

『イエロージャック、完全に正気を失ったってこと?』

『てか、これどう倒すんだろ』



 観客モードのギャラリーも、まさかの展開に戸惑っている。

 でも、戸惑っているのは、俺たちも一緒だ。ひとりをのぞいて。


「にゃはは! たーまやー」


 VRゴーグルをかぶった二帆ふたほさんは、のんきに上を見上げて爆発した赤ザルと緑ザルと白ザルの三色花火をながめている。


「すごい! さすが〝フーター〟さん。

 ぼくなんかが、想像もできないことをやってのける。

 そこにシビれる。あこがれます!!」


 コロちゃんは、興奮しながら、二帆ふたほさんに質問した。


二帆ふたほさんは、この隠しモードチェンジ、しってたんですか?」

「しらにゃい!」


 二帆ふたほさんは、コロちゃんの質問に得意げに胸をはる。


「……え? だったら倒し方も……」

「それは、いつもスーちゃんが考えてくれるのだ!」

「そうだったんですね! 今までのトリプルオーバーキル、全部、かぞえセンパイのさくせんだったんだぁ!!

 オンソワネズミの16倍庚辰かのえたつも、リトルヨウコのロールバックも、ドリルドリュウのキンチョチョチョールゼロ距離発射も、ガンコ=ゾディアックの宙吊りからのジュンイチロウアッパーカットも、ツイン=ホロスコープのコジローのショウテンホタルも、昨日のジガ=コンステレーションのカニが強すぎたからのロールバックも、全部算かぞえセンパイの作戦だったんですね!」


 VRゴーグルをかぶったコロちゃんは、普段からはちょっと、想像のできないくらいの早口でまくしたてながら、頬を紅潮させている。


「ま、まあ、半分以上は偶然なんだけど……」

「すごい、あこがれちゃいます! かぞえセンパイカッコイイ!!」


 俺は、コロちゃんに、やたらと期待値をあげられまくっているなか、この、完全に初見の、銀色に輝くツルンツルンのサルの倒し方を、必死で考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る