第114話 攻撃力はゼロでも、こうかはばつぐんだ!ーGー

 今の暦は、壬辰みずのえたつ年、己丑つちのとうし月、己卯つちのとう日、己丑つちのとうし刻。


 よし! 今は暦の運がある。


 俺は、気になっていることを、ランスガーディアン使いのコロちゃんに聞いてみた。


「叫びの盾のガードポイントって、前面だけ?」

「……そうです。あ、正確には前面と上側です……対空にもなるんで。

 ……足元はピンポイントで狙われると一方的にまけちゃいます……あと攻撃が終わった後に一瞬よろけ判定が入ります……そこが一番のウイークポイントです。

 ……だからガードされた時も前転でキャンセルしないとカウンターを喰らっちゃうんです……」


「凱旋のロンドの振り上げは、ガード不能攻撃?」

「はい……あと、よろけ状態の相手にかぎって、浮かせ効果を発揮します」


 思った通りだ。俺はコロちゃんと二帆ふたほさんに作戦を説明した。


「コロちゃん、イエロージャックをふたりで挟み撃ちしよう」

「え?」

「今の陰陽導師は、〝暦の運〟がある。盾役をやるにはうってつけなんだ。

 二帆ふたほさんは、つねにイエロージャックのバックを取るように動いてください」

「りょーかいのすけ!」

「……りょーかい……のすけ??」


 VRゴーグルをかぶったコロちゃんは、二帆ふたほさんの珍妙な返答に首をかしげている。

 そして同じくVRゴーグルをかぶった二帆ふたほさんが、スタイルの良い胸を張って答えた。


「りょーかいのすけは、『りょーかい』の上位互換なのだ」

「そうなんですね……初耳です……業界用語ですか?」

「そんなところなのだ!」

「……スゴイ……かっこいい」

「それじゃあ、みんなでボスザルをぬっ殺すのだ!」

「はい……りょーかいのすけ……です」


 俺は、一体全体、どこの業界用語だかさっぱりわからない「りょーかいのすけ」をすんなりと受け入れるコロちゃんの素直さに感銘をうけつつも、大急ぎでイエロージャックの後ろに回る。


 そして、ウインドウを開いて魔法を唱えた。


 〝己丑つちのとうし

  ・陰陽導師の守備力を150%強化。


 今は暦の運がふたつもある。1.5倍の1.5倍の1.5倍の3.375倍だ!

 さらにここでチートアイテム〝砂中金さちゅうきんの砂時計〟で、〝己丑つちのとうし〟をリピート!


 守備力はしめて11.390625倍!!


 これなら、ランスガーディアンにだってひけをとらない!


 俺はさらに続けて魔法を唱える。


 〝己卯つちのとう

  ・陰陽導師の回復力を200%強化。


 こっちの魔法も、暦の運がひとつある。いつもの2倍の400%強化だ。


 今度は防具の召喚。


 〝戊戌つちのえいぬ

  ・番犬の意匠が施された大楯。


 そして最後の仕上げにもうひとつ、陰陽術師の能力を上げる魔法を唱える。


 〝己未つちのとひつじ

  ・陰陽導師のヘイト値を300%に強化。


『めえええええー』


 陰陽術師がおマヌケな声をあげると、


『むっきゃー!!』


 イエロージャックは、岩に覆われていない左半身の黄金色の毛並みをザワザワッっと逆立てて、アメフトの選手みたいなタックルの構えをとるやいなや、ゴツゴツの岩に覆われた右身体を〝ロンリー〟に思い切りぶつけてきた。


 バギィ!


 俺があやつる〝ロンリー〟は、大楯をがっしりと構えて攻撃を受け止める。


 よし、ほとんどダメージは無い!

 俺は勤めて冷静にウインドを開いてスキルを選択すると〝ロンリー〟の装備している大楯を、足元がおぼつかないイエロージャックに押し付けた。


 バキィ!


 〝番犬のカチコミ〟だ。


 攻撃力はゼロだけど、強力なノックバックを喰らわせる。しかもその威力は、守備力に比例する!! 


『む、むきゃきゃ……』


 普段の11.390625倍の守備力を持つ〝ロンリー〟の強力なノックバック攻撃を喰らったイエロージャックは、たまらず二歩、三歩、四歩と後ずさっていく。


 よし! 計画通り!!


 俺は素早く大楯を構えた。すると、


 ボッガーーン!!


 イエロージャックは、二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟が設置した〝ニトロの瓶〟を踏んづけた。


「にゃはは! ひっかかったのだ!!」


 よろけ状態だったイエロージャックは、面白いくらい宙を舞う。


二帆ふたほさん、コロちゃん、おもいっきり、ボコっちゃってください!」


「りょーかいのすけ!」

「り、りょーかいのすけ……」


 二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟は、特殊能力のあいのりで〝シフト〟を踏み台にして宙を舞っているイエロージャックを追いかける。

 そして、コロちゃんあやつる〝シフト〟が、ガチャガチャとヨロイを揺らしてイエロージャックの真下に移動すると、凱旋のロンドをおもいっっっっっっっっっっきり下から上へと振り上げた。


 ディクシ!!

 ディクシ!!


 〝フーター〟と〝シフト〟の攻撃は、イエロージャックが岩で武装していない、左半身の脇腹をモロに切り裂くと、弱点ヒット効果音とともに、またたくまにHPゲージが点滅をしはじめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る