第113話 HPはいきなりゼロ。ーGー

 俺たちは、雑魚のサルを倒しながら、順調に岩山のフィールドを進んでいった。


 二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟は、サルを足場にしてずっと空中に浮きっぱなしで、コロちゃんあやつる〝シフト〟は、ハルバードの凱旋のロンドを振り回して、ずっとサルを浮かせ続けている。



『そういや、なんでフーター、ハッソウザムライつかってんだろ?』

『ランスガーディアンの浮かせ技があるなら、エリアルハンターのが相性良くね?』

『なんか、考えがあるハズ』

『ですね。トリプルオーバーキルを狙うのでしょう』

『どう倒すんだろうなー』

『さっぱりわからん』

『さすが、レジェンドプレイヤーは見ている世界が違うよなー』


 ごめんなさい。まったくもってノープランです。

 凄腕プレイヤーの二帆ふたほさんとコロちゃんはともかく、俺の視線はハッソウザムライのスケスケ羽衣ばっかり見ています。俺の見ている世界は、お色気パラダイスな世界です。


 俺は、やたらとハードルを上げてくる観客モードの書き込みにプレッシャーを受けながら、ボスエリアにたどり着いた。


 そこは、休日の朝に戦隊ヒーローが戦っているような採掘現場の跡地で、その中央にはちょっと不自然な巨大な岩が「ゴロン」と転がっていた。


「はにゃ? ボスザルはどこなのだ?」

「……その岩です……」

「そーなのかー。その考えはなかった」


 コロちゃんの返事に、二帆ふたほさんはお気楽なあいづちを打つと、〝フーター〟は、巨大な岩を駆け上って、そのまま上に陣取った。


二帆ふたほさん、そこ、危ないですよ!!」

「? にゃにが?」


 俺が慌てて注意をうながすと、VRゴーグルをかぶった二帆ふたほさんが首をかしげる。


「……その岩に……演出の稲妻が……」

 ゴロゴロ……ピシャーーーーーン!!


 コロちゃんが説明しきる前に、岩の上に一筋の稲妻がふりそそいだ。空には雲ひとつない。青天の霹靂へきれきとは、まさにこのことだ。

 二帆ふたほさんは、すんでのところで雷を避けると、羽衣をつかってフワフワと宙を舞う。


 雷を浴びた巨大な岩は、「どっくん……どっくん……」と、まるで心臓の鼓動のような音をたてる。


 コロちゃんは、叫びの盾を構えると、


「……かぞえセンパイ……二帆ふたほさん……ぼくの後ろに」


 と、避難をうながす。


 どっくん……どっくん……どくん……どくっ……どくっ……どく、どく、どく、どく、どっどっどっどっどっどっどどどどどどどどどどどど…………


 心臓のような音は、すこしずつ、鼓動のペースを速めていく。そして、


 ドガーーーーーーン!!


 岩山は粉みじんにくだけちって、無数のイシツブテを、叫びの盾を構えた〝シフト〟に浴びせかける。そして岩の中からは、


『むーーーーーきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!」


 黄色、いや黄金色のサルが飛び出した。〝イエロージャック〟だ。


 イエロージャックは、身体の右側がゴツゴツとした岩に覆われて、身体の左側はふさふさでキラキラと輝く毛におおわれていて、その腕には朱色の棒を持っている。なんともアンバランスなシルエットだ。



『でた! イエロージャック!』

『これって、モデルは孫悟空?』

『そ、西遊記だと、稲妻に打たれた岩から生まれたって設定だヨ』

『あれ? 岩に閉じ込められてたんじゃなかったっけ?』

『それは、お釈迦様に捕まったあと、三蔵法師の弟子になるくだりのエピソードですね』



 観客モードの書き込みが、〝イエロージャック〟の元ネタ談義ではなやぐなか、二帆ふたほさんあやつるフーターは、大きくジャンプをして、スケスケ羽衣を体に巻き付けると、〝イエロージャック〟にきりもみ回転キックをお見舞いする。


 すると、イエロージャックは、アメフトの選手みたいなタックルの構えをとって、


『むっきゃー!!』


 と、〝フーター〟の飛び込み攻撃をゴツゴツの岩に覆われた右身体ではじき返した。そしてそのまますばやく前転をする。


 ヤバイ!!


 俺は大慌てでウインドウを開くと、すぐさま魔法を唱える。


 〝辛丑かのとうし!〟

 ぶおおおおん……パキリン!


 俺の魔法と、イエロージャックの攻撃は、ほとんどおんなじタイミングだった。

 イエロージャックが左手に装備した朱色の棒を振り上げる瞬間、〝フーター〟の頭の上に、鉄のマッチョこけしができて、すぐさま粉みじんに砕け散った。


 フーターのHPゲージは1だけのこして、ピカピカと点滅をしている。


「ありがとスーちゃん。危うく秒でぬっ殺されるトコだったのだ」


 二帆ふたほさんは、VRゴーグルをかぶったまま、ペコリと俺にお辞儀をする。


「間に合ってよかったです」


 俺は、二帆ふたほさんに返事をしながら、内心、途方にくれていた。


 イエロージャックは、ランスガーディアンの新装備をつかった新しいプレイスタイル、

『攻防一体のタックル攻撃からの前転キャンセル吹っ飛ばし攻撃』

 という凶悪コンビネーション攻撃を忠実に再現した、とんでもないバケモノザルだ。

(しかも、戦闘職が即死してしまうとんでもない攻撃力だ)


 これ、どうやって倒せばいいの??


 俺は、〝フーター〟に、継続回復魔法の〝乙丑きのとうし〟を唱えながら、画面右上に表示された、〝万年暦〟をチェックして、このバケモノザルの倒し方を必死で考えていた。

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