第112話 誤差ゼロフレームのジャストタイミング。ーGー

 ムキャ!

 ムキャキャ!

 ムキャキャキャ!

 ムキャキャキャキャ!


 岩陰から、〝イエロージャック〟の子分ザルが現れた。


 黒い毛並みのサルが3匹。

 そして、このサルたちのリーダーだろうか、しっぽが長い、青い毛並みのサルが1匹だ。


 ムキャ!

 ムキャキャ!

 ムキャキャキャ!


 最初に動いたのは黒いサル3匹だった。

 一直線にならんで、全速力で二帆ふたほさんがあやつるハッソウザムライの〝フーター〟に襲い掛かってくる。


 二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟は、先頭のサルの胸を、いきなりサマーソルトキックで蹴っ飛ばし、空中へジャンプする。

 そしてそのまま、羽衣を体にまとって、きりもみ回転をしながら真ん中にいるサルに強烈なキックをあびせかける。



『サルを踏み台にしたぁ!?』

『ww』

『お約束セリフすぎるw』

『まあ、黒いのが3つ並んだら先頭は踏み台にしたくなるわなw』

『〝ぬえの羽衣〟をまとった、ニュータイプの敵じゃない』



 七色に輝く新装備、〝ぬえの羽衣〟をまとった〝フーター〟は、空中を飛び回り、黒いサルの三連星をいいようにあしらっている。



『しかしすげーな』

『フーターの空中移動にさらに磨きがかかっている』

『〝ぬえの羽衣〟の効果だっけ?』

『そう。ジャンプ速度がめっちゃ速くなる』

『操作、めちゃくちゃ難しくなるんじゃね?』

『うん。俺使ってみたけど、あいのりのタイミングがめちゃシビアになる』

『完全にニュータイプ向け』

『そっかー、使ってみたかったのになー、スケスケ羽衣』

『エロ目的かよw』


 そう、〝ぬえの羽衣〟は、七色に光り輝く羽衣で、まるでオーロラみたいにゆらゆらと色を変色させる。

 そして羽衣が透明になる瞬間があり、ハッソウザムライのはいてない部分がスケスケのスレスレになる、とっても攻めまくった装備だった。


 こんな装備で、レーティングは大丈夫か?


 俺が割とどうでもいい心配をしながら、〝フーター〟の〝ぬえの羽衣〟がスケスケになる瞬間に注視していると、VRゴーグルをかぶったコロちゃんが、トーンを落とした生真面目な声でつぶやいた。


かぞえセンパイ……〝フーター〟が気になるのはわかります……でも、ぼくたちは……青毛のサルを倒しましょう」


「あ、うん、そ、そうだね!?」

(も、もしかして、羽衣が透けるのを凝視していたのが……ばれ……てる??)


 俺は大慌てで、魔法ウインドウを開いて定番武器の〝戊辰つちのえたつ〟の剣を召喚しようとすると、コロちゃんは、


「……武器は、爪でお願いします……」


 とつぶやいて、〝シフト〟を前屈させて、まるでアメフトの選手みたいなタックルの構えをとる。そして、


『うおおおおお!』


 〝シフト〟は、〝叫びの盾〟を構えたまま、猛スピードで青毛のサルに突っ込んでいった。


 ムキャキャキャ!!


 青毛のサルは、長いしっぽをまるでムチみたいにしならせて〝シフト〟をたたきつける。

 けれども〝シフト〟はムチを〝叫びの盾〟ではじき飛ばすと、そのまま強力なブチかましをお見舞いする。


 〝叫びの盾〟のガードポイント特性だ。


 攻撃判定と防御判定を同時にもつその攻撃で、一方的にタックルをぶちかまして、青毛のサルをふらつかせる。


 コロちゃんあやつる〝シフト〟は、そのままタックルモーションを、前転でキャンセルし、さらにその前転モーションもキャンセルして、ハルバード〝凱旋がいせんのロンド〟を構えて思いっきり下から上へと振り上げた。


 ぶおおおおん……バキィ!!!


 タックルでよろめいていた青毛のサルは、〝凱旋がいせんのロンド〟の振り上げ攻撃をモロに喰らって、面白いくらい上空へと吹き飛ばされる。


 ランスガーディアンの特殊能力『タメ攻撃』だ。

 ランスガーディアンの武器を使った攻撃は、ボタンを押しっぱなしにできて、攻撃を貯めれば貯めるほど、その威力が上昇していく。


 タメ攻撃中は前転しかできないから、今まではめちゃくちゃ使い勝手が悪かったけど、〝嘆きの盾〟による移動攻撃技と重複使用が可能になって、格段に使いやすくなった。

 そのうえ、振り回し攻撃ができるハルバードの出現で、浮かせ技コンボの始動技としても使えるようになった。


 中でも〝北斗星のかけら〟16個でゲットできる〝凱旋のロンド〟の浮かせ能力は格別だ。


 その浮かせ能力は、〝ニトロの瓶〟にも引けをとらない。



『つ、つええ!!』

『アイテムなしで、ここまで浮くのかよ!』

『そしてそれを、ロンリーが爪で追加の浮かせ技と』

『サル、浮きっぱなしw』

『凱旋のロンドの浮かせ効果やーべな』

『いや、叫びの盾のよろめき効果のたまもの』

『ランスガーディアンのテコ入れがすごいw』

『まー、どっちも〝北斗星のかけら〟のアイテムだしな』

『これマジでランスガーディアンの時代きた?』



 掲示板は、面白いくらい完璧に決まったランスガーディアンの浮かせコンボで大賑わいだ。

 うん。確かにすごい。

 でも、知っている。俺は知ってるんだ。このコンビネーションはかなりタイミングがシビアだ。

 叫びの盾のタックルモーションキャンセルからの、前転キャンセルからの、凱旋のロンドの浮かせ攻撃。それを誤差ゼロフレームのドンピシャのジャストタイミングで決める必要がある。


 そこまでしないと、さすがにここまでキレイには吹っ飛ばない。

 とんでもないテクニックだ。


 ランスガーディアンの攻撃は全体的に大振りだから、一見、雑で簡単に見える。

 でも、決してそんなことはない。

 どんなゲームでもそうだけど、重量級キャラってのは大振りの技を、少ないチャンスで確実に決めるテクニカルキャラばっかりだ。


 こんな神業、一朝一夕いっちょういっせきには身につかない。相当の練習を重ねないとこのレベルにまでは達しないはずだ。


 俺は、宙に浮かんだ青毛のサルに、トラ爪のきりもみアッパーカットをお見舞いしながら、コロちゃんのゲームの腕前に舌をまいていた。

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