第111話 盾役の意味ゼロのプレイスタイル。

 俺たちは、その後も、パパのアルバムを見ながら、ティーブレイクを楽しんだ。


 パパのアルバムは、めっちゃ先っぽが長いリーゼントになったり、めちゃ爆発に巻き込まれたみたいにアフロになったり、闇夜にまぎれるくらい日焼けをしたり、影に溶け込むみたいにまっしろになったり、お相撲さんみたいに太ったり、針金みたいにガリガリになったりと、とにかくツッコミどころが満載で、全て見終わる頃には、ツッコミつかれて息があがるほどだった。


 ティーブレイクなのに、全然ブレイクできてない。

 うん、これに比べれば、コロちゃんなんて本当にかわいらしい……本当にだと思えてきてしまう。


 俺たちは、抱腹絶倒のティーブレイクを終えると、3階に行くことにした。二帆ふたほさんの部屋で、M・M・Oメリーメントオンラインを遊ぶためだ。


「今日は平日だし、ゲームはほどほどにしておくんだよ。

 帰りは、私が車で送ることにするから、親御さんにはそう伝えておきなさい」


「はい……ありがとうございます」


 コロちゃんは、階段を登る足をとめると、ペコリと可愛らしくお辞儀をする。

 そして、ふわりとスカートをゆらしながら回れ右をすると、再び階段をトントンと昇っていった。

 うん。めちゃんこカワイイ。本当に今でも男の子なのが信じられない。


 コロちゃんは、二帆ふたほさんの部屋に入ると、落ち着かない感じであたりをキョロキョロと見回している。


「ぼく……女の人の部屋に入るの初めてです」


「えっへん。フーちゃんこだわりの部屋なのだ」


 二帆ふたほさんの部屋は、本当におしゃれだ。

 3台もゲームングPCが並んで置かれているのが、ちょっとだけミスマッチだけど、白を基調にしたとてもセンスがよい部屋は、いかにも大人の女性の部屋って感じだ。


 ほぼ毎日入り浸っている部屋だけど、緊張してソワソワしているコロちゃんを見ていると、なんだか俺まで緊張してしまう。

 二帆ふたほさんは、指定席のゲーミングチェアにお行儀悪くあぐらをかくと、となりにあるゲーミングPCを指差して、


「コロちゃんは、いつもミーちゃんが使っているPCを使えばいい」


 と言いながら、VRゴーグルを装着した。すると、コロちゃんが首をかしげる。


「……あれ VRゴーグル、2台しかないんですね」

「ああ、俺はディスプレイ派。VRゴーグルは酔っちゃって」

「そうなんですね」

「コロちゃん! 気をつけるのだ。スーちゃんはVRゴーグルをかぶってないのをいいことに、いつもこっそりスカートの中をのぞいているのだ!」

「ええ! かぞえセンパイのエッチ!」

「ちょ! やめてください!」

「にゃははは!」


 うん。無茶苦茶やりずらい。そしてそんなことを言われてしまうと、コロちゃんのスカートの中が気になって気になって仕方がなくなってしまう。

 なんだか、普通の女の子よりも気になってしまう。


 うん。俺が変なんじゃない。コロちゃんが可愛いのが悪いのだ。

 おれは、M・M・Oメリーメントオンラインにログインしながらいけない誘惑を頭から必死に追いやった。


「スーちゃん、コロちゃん、準備はいいかい?

 今日は、ボスザルをぬっ殺すのだ! ミッションスタート、ポチッとな」


 俺があやつる〝ロンリー〟は、いつもの陰陽導師。二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟は、新クラスのハッソウザムライ。そして、今日初めて共闘するコロちゃんがあやつる〝シフト〟はランスガーディアンだ。


 今回チャレンジするのは、4月からリリースされた新ボス『五色の古代獣』シリーズの一匹だ。

 ボスザルの正式な名称は〝イエロージャック〟。

 M・M・Oメリーメントオンラインの初期クラスをモチーフにしたボスキャラクターで、〝イエロージャック〟のモチーフは、コロちゃんがあやつるクラス、ランスガーディアンをモチーフにしたボスだ。


 ボスなのに我先へと前線に出て、鉄壁の防御で家来のサルたちの盾になり、家来のサルたちと連携攻撃をしかけてくる。

 しかも、先に家来のサルを倒すと、山に逃げ帰ってしまう、結構厄介なボスだった。


 俺たちは、まるで水墨画のような、ゴツゴツとした岩肌のステージを進んでいく。

 観客モードには、いつものように、〝フーター〟の神業変態プレイ目当てのたくさんのギャラリーがぞくぞくと集まってきていた。


『フーター、今日はハッソウザムライか』

『最近、ずっとハッソウザムライだよな』

『お、珍しい、ランスガーディアンがいる』

『最近見ないよな……』

『でも、今回のバージョンアップで装備のテコ入れあったよな』

『叫びの盾ね』

『うん。このランスガーディアンが装備してるやつ』

『どんなもんなの?』

『結構、いや、かなり強いよ。また環境にランスガーディアンが復活するかも』

『へーそうなんだ。どんな動きするんだろ。気になる』

『しかし、フーターは、相変わらず先頭を突っ走るな』

『壁役と共闘している意味ないw』

『さすがフーター! 俺たちにはできないことを平然とやってのける!』

『そこにシビれる!』

『あこがれるゥ!』


 もはや、毎回恒例になっている書き込みで掲示板がにぎわう中、俺たちは足場の悪い岩山をズンズンと進んでいく。


 すると、


 ムキャ!

 ムキャキャ!

 ムキャキャキャ!

 ムキャキャキャキャ!


 岩山に囲まれた細い路地に、大量のサルが現れた。

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