第110話 100パーセントのそっくりさん。
「やっぱりだ! 全日本ボディビルチャンピオンの、
キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
ステキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
そんな
「おや? これはこれはカワイイお客さんだね。
さあ。どうぞ、おあがりください」
良かった。本当に良かった。
ぼくと、
パパは、ソファーの上に
「さあ、君もお座りなさい」
と、
「……はい」
「飲み物は、何がいいかい? コーヒーに、紅茶、あと緑茶。ハーブティー、それからソイプロテインもあるけど……」
「じゃ、じゃあ、紅茶で……」
「俺も」
いつもはコーヒー党の俺も、
「了解。少し待っていてくれたまえ」
パパは胸板をピクピクさせながら返事をすると、回れ右をしてダイニングに行った。
「…………………………」
「…………………………」
沈黙が辛い。
「むにゃ、ここはどこなのだ?」
「ニギニギしちゃって、申し訳なかったのです。
フーちゃんのこと、嫌いになった?」
「……だ、大丈夫です、ちょっとビックリしたけど……」
「フーちゃん、ちょっとひとみしりなのだ。とくに男の子には大キンチョウしちゃうのだ。今もとっても緊張してるよ?」
「そ、そうなんですね。意外です」
「でも、
スーちゃんとも仲良しだし、流しのアルコのアーちゃんとも仲良しなのだ。
君とも仲良しになりたいから、名前、おしえて?」
「
俺は思った。男らしい名前だ。
「そーなのかー。じゃあ、よびにくいからコロちゃんにするのだ」
「……え? コロ……ちゃん?」
「そーなのだ。余計なてんてんを取ってコロちゃん。こっちの方がカワイくてお似合いなのだ。よろしくね。コロちゃん!」
そう言うと
「は、はい、よろしくお願いします。
俺は、握手をするふたりを見て胸をなでおろした。良かった。本当に良かった。
そして、握手をしているふたりを満足そうに見ながら、パパが紅茶みっつとソイプロテインをお盆の上に乗っけて運んできた、
パパは、俺たちには紅茶を、そして自分の席にソイプロテインを置くと、
「じゃあ、君のこと話してくれるかい? コロちゃん」
と、テッカテカの優しい笑顔でコロちゃんを見た。
コロちゃんは、あっつあつの紅茶をふうふうと息を吹きかけて、ちびちびと飲みながら、少しずつ自分のことを話し始めた。
「なるほど、自分の性別がわからない……か」
パパは、厚い胸板をピクピクさせながら、でも大真面目な顔をしてうんうんと頷いた。
「はい……ボクは五人兄弟の末っ子で、父さんと母さんがどうしても女の子がほしかったらしくて、ちっちゃい頃は女の子の服を着てたんです。でも、小学生になってからは男の子の服を着るようになって……すごい違和感があったんです」
「だから、高校では女子の制服を着ているんだね?」
「はい。うちの学校の制服、とってもカワイイから、どうしても女子の制服を着たくって。
……でも……自分が女の子か……って聞かれたら、まだわかんないです。
女の子の、可愛い服が好きな、ふつうな男の子なのかもしれないです」
「なるほど……」
パパは、うんうんとしきりに首を縦に動かしてコロちゃんの話を聞いている。そして、
「ちょっと、待っててくれるかい?」
と言って、3階に上がって、すぐに一冊のアルバムを持って帰ってきた。
パパは、アルバムをペラペラめくって、ローテーブルに置いた。
そこには、黒髪ショートで、キレイめなブラウスとチェックのミニスカートを合わせた無茶苦茶美人の女の人が写っていた。
「え?
「ちがうよ? フーちゃん、プライベートでスカートははかないもん」
確かに、
そして、家の中では、スカートどころかパンツもはかない。
そして、よくよく見ると写真に刻まれた年代がおかしい。1990年ってある。
30年以上もまえだ。まだ
俺は、思ったことをそのまま聞いた。
「この人、誰ですか?」
「これは、フーちゃんのパパなのだ」
「えええええええええええ!?」
「えええええええええええ!?」
俺とコロちゃんは、めちゃくちゃ大きな声で驚いた。
「えっへん。フーちゃんは、パパ似なのだ!」
いやいやいや、パパ似なんてどころじゃない。今の
「私も君くらいの時は、自分が何者かわからなくてね。色々と迷走をくりかえしていたものだよ」
そう言うと、マッチョでこけしヘアーのパパは、ごくごくとソイプロテインをのみほして、遠い目をした。
うん。どちらかと言えば、いまの方が迷走しているようなルックスな気がしないでもないけど……。
「自分の気持ちというのは、案外自分が一番わからないものだよ。君もあせらず、ゆっくりと自分をみつければイイんじゃないかな?」
「はい! わかりました!!」
コロちゃんは目をキラキラとさせながら、パパを見つめて力強くうなずいた。
正直なところ、俺にはコロちゃんとパパの気持ちは、ちょっとよくわかんないけど、パパの言葉はものすごく心に突き刺さった。
『自分の気持ちというのは、案外自分が一番わからないものだよ』
俺は、
……でも。この好きって感情は、ひょっとしたら、異性っていう意味じゃないのかもしれない。俺が
俺は、自分の気持ちが解らなくなっていた。
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