第108話 ゼロ距離の不意打ち。

「じゃあ、駅の南口で待ち合わせで。そこから歩いて10分くらいだから」

「わかりました……」


 そう言うと、師太しださんは足取りも軽く裏門へと歩いていく。

 俺は、大急ぎで、自転車置き場にいくと、全速力で学校を出た。


 とにかく急いで一旦家に帰ろう。そして二帆ふたほさんがちゃんと下着をはいているか確認をして、師太しださんを駅まで迎えに行こう。


 校門を出ると目の前には見渡す限りの美しい水平線が広がっている。

 俺は、この長い長い下り阪を、ブレーキをほどよく握りしめてくだってく。そしてそのまま全速力で自転車を走らせて帰路についた。


「ただいまー」


 俺はおそるおそる声をあげる。すると、トントンとリズムカルな音を立てて、階段をおりる音が聞こえてくる。二帆ふたほさんだ。


「スーちゃん! おっかえりー!」


 二帆ふたほさんは、いつものだるんだるんのパーカー姿だった。

 うん、悪い予感しかしない。


「ありゃ? ランスガーディアンの子はどこなのだ?」

師太しださんは、バス通学なんで、駅で待ち合わせです。それよりも二帆ふたほさん、ママの言いつけ通りちゃんとパンツはいてますか?」

「安心してください! はいてませんよ」


 二帆ふたほさんは、そう言ってパーカーのスソをがばちょとめくりあげる。

 すると案の定。ここには書いてはよろしくないところが、丸見えのモロ見えだった。


「だから! ちゃんとはいてください。というか仕事するときの服装に着替えてください!!」

「にゃははは。わかったのだ!」

「本当に、頼みますよ!!」

「りょーかいのすけ!」


 うん。一旦家に帰ってよかった。あのスタンプを信じなくて本当によかった。

 

 このままいきなり師太しださんを連れてきていたらとんでもないことになっていた。

 だって師太しださんは、まだ二帆ふたほさんのことをFUTAHOだって知らないんだもの。あのまま遭遇していたら、きっと説明がめちゃくちゃ面倒になっていたはずだ。


 俺は、再び自転車を反対方向に走らせて、大急ぎで駅の南口を目指した。



 駅についても、まだ師太しださんはいなかった。

 俺は、時間をつぶすため、スマホを開いた。そろそろM・M・Oメリーメントオンラインの『お出かけモード』で、最大進化の干支モンスター〝ジュンイチロウ〟が戻ってきているはずだ。

(昨日のロールバックのおわびで、大量に〝ペットフード〟をもらったから奮発した)


 ……ん?


 LINEにバッジがついている。

 俺は、ラインのアイコンをタップした。するとそこには一乃いちのさんから割と長文のメッセージが届いていた。



『スーちゃん、さっきはグループラインにコメントできなくてゴメンね。

 師太しださんがうちに来るのは構わないんだけどー、ちょっと注意してほしいことがあるのー。

 フーちゃん、きっといつものノリで師太しださんにスキンシップをしちゃうと思うから、それをなんとか阻止してくれないかなー。

 だって師太しださんは……』



かぞえセンパイ……おまたせしました」


 俺は、背中から声をかけられた。振り向くと師太しださんがいた。


「その……待たせてしまって……ごめんなさい」

「いや、俺も今きたところだから。家、あっちね」


 俺は自転車を押して、師太しださんと一緒に家に向かう。


 ……結局、一乃いちのさんのLINEを読めずじまいだ。無茶苦茶長文だったけど、何が書いてあったんだろう。

 でもまあ、そんなことよりも、二帆ふたほさんの方が心配だ。二帆ふたほさんがちゃんとパンツをはいてるかの方がはるかに心配だ。


 俺は、師太しださんとM・M・Oメリーメントオンライン談義に花を咲かせながら、家路についた。


「ただいまー」


 俺はおそるおそる声をあげる。すると、トントンとリズムカルな音を立てて、階段をおりる音が聞こえてくる。二帆ふたほさんだ。


「スーちゃん! おっかえりー!」


 良かった。二帆ふたほさんは、セクシーなノースリーブのトップスとタイトなパンツルックに着替えていた。セクシーだけど、とっても安心できるとってもおしゃれでカッコイイ、FUTAHOスタイルだ。


 良かった。一旦家に戻って二帆ふたほさんに釘をさしといて本当に良かった。


「え! かぞえセンパイのおねーさんって、M・M・OメリーメントオンラインのイメージキャラクターのFUTAHOさん!????」


 師太しださんは、めちゃくちゃ驚いていた。緊張でカチンコチンだ。そりゃそうだ。目の前に女の子に圧倒的な人気を誇る、カリスマモデルのFUTAHOがいるんだもの。緊張しないワケが無い。


 二帆ふたほさんは、猫のような瞳を細くして、緊張している師太しださんを、じーっと見つめている。そしてしばらく見つめた後、おもむろに目を閉じて「スンスン」と胸の辺りの匂いをかいだと思ったら「ガバッ!」っといきなり師太しださんをはがいじめにした。


「なんじゃこりゃー! なんだこの可愛すぎる美少女は! 今すぐお持ち帰りなのだ! お持ち帰りでおもてなしなのだ!!」

「は……はひ?」


 二帆ふたほさんは、カチンコチンに固まった師太しださんを、猫のようにニヨニヨとした笑顔でなでまわしている。

 そして、スカートの中に手を突っ込んで、おしりをモニュモニュとさわりはじめた。


「きゃ……」

「よいではないか、よいではないか!!」

「ちょ、ちょっと、二帆ふたほさんなにやってんですか!」


 俺は、目の前のパラダイスな光景に一瞬固まるも、さすがに止めに入った。でも、


「……………………………………」

「……………………………………」


 二帆ふたほさんと師太しださんは、カチンコチンに固まっていた。

 そして、しばらくの沈黙のあと、二帆ふたほさんの口から放たれた言葉は、とんでもないものだった。


「こ、この子、男の子なのだ……!!」


「ええええええええええええええ!?」


「フーちゃん、お、男の子にょ、男の子にゃ所を思いっきりニギニギしちゃったのだ……」


 二帆ふたほさんはそう言うと、仰向けにゆっくうううううりと倒れていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る