第107話 よく見ると一人足りないグループLINE

 キーンコーンカーンコーン

 校庭にチャイムが響きわたる。


「……それじゃあ荻奈雨おぎなう先生、俺、帰ります」

「わかったー。師太しださんも気をつけて帰ってねー。」

「は、はい……」


 俺と師太しださんは、一乃いちのさんにあいさつをして保健室を出た。

 校舎を出て、師太しださんは裏門の方へと向かう。

 裏門には長い長い階段があって、下までおりると県道に出る。師太しださんはそっからバス通学だ。


「俺は自転車通学だから、ここで」

「……はい」


 そう言うと、師太しださんは背中を向けて歩いていく。その背中がなんだかちょっと寂しそうで、俺は思わず声をかけた。


「あ、あの師太しださん、今日、帰ったらM・M・Oメリーメントオンラインにログインする?」

「え……あ、はい」

「だったらさ、パーティー組んで遊ばない?」

「え? いいんですか??」

「もちろん! 師太しださんのプレイヤーネームって何?」

「〝シフト〟……です」

「しふと……? ああ、苗字からか」

「はい……あと、プログラム用語からとりました。……シフト演算なんですけど、しらないです……よね?」

「知っている! てか俺もそっからとったから。論理演算からとって〝ロンリー〟」

「え! かぞえセンパイが、あの陰陽導師の〝ロンリー〟だったんですか? すごい!! え、じゃあ、十六夜いざよいセンパイって……」

「マーチだよ」

「ええええ!! じゃ、じゃあ……ひょっとして、あの〝フーター〟とも、お知り合いなんですか?」

「うん。〝フーター〟は、俺のおねーさんだよ。今日も帰ったら一緒に遊ぶ予定」

「えええええええええええええええええええ!!

 あ、あの天才プレイヤーの〝フーター〟が、おねーさん!? す、すごい!!」


 師太しださんは、今日イチの大声で驚いている。

 ちょっとビックリするくらいの声量だ。

 師太しださんはひとしきり驚くと、ものすごい真剣な眼差しでツカツカとよってきて、俺の目の前で「パン」と手をたたく。そしておもいっきり頭を下げた。


「あ、あの……今日、かぞえセンパイの家におじゃましていいですか!?

 〝フ、フーター〟にどうしても会いたいんです! お願いします!!」


 師太しださんは、頭をさげて、手を「ずいっ」と俺の前に差し出してお願いをしている。


「ちょ、ちょっと待って、聞いてみる」

「お願いします!!」


 師太しださんは、頭をさらにさげて、両手を合わせた手を「ずずずいっ」を上にあげてくる。その力のこもった両腕は、今にも俺の額に突き刺さりそうな気迫がこもっている。

(気のせいか、前にもこんなことあった気がする……)


 俺はポケットからスマホを取り出した。そして家のグループラインで質問してみることにした。

 よくよく考えたら、〝フーター〟の正体は二帆ふたほさんで、つまりはカリスマモデルのFUTAHOな訳で、そんな有名人を、今日、始めて出会った下級生にホイホイと会わせて良いのだろうか……決められない。俺の一存で決めるのは怖すぎる。


 俺は、生来の事なかれ主義な、日和見ひよりみ主義な、ヘタレ精神全開で、僕の父さんと母さん、そして、一乃いちのさんと二帆ふたほさんのパパとママにお問い合わせをすることにした。決めてもらうことにした。


 すると、


二帆ふたほ 『なんだってー! フーちゃん会いたい! すぐ会いたい!! だってフーちゃん、ランスガーディアンと一緒に戦ったことないのだ!』


 二帆ふたほさんのテンションが、爆上がりしていた。


パパ 『ほう! 二帆ふたほってゲームでも、そんなに有名人だったんだ!』

母さん『すごいわねー』

父さん『二帆ふたほちゃんが、〝フーター〟ってこと、公表してはいないよね。それなのに、そんなに有名人ってことは、シンプルにゲームの腕を尊敬してるってこどだね。すごいねー』


ママ 『すすむくん、一応確認だけど、その子は、〝フーター〟が二帆ふたほだって知らないの?』

俺  『はい。話してません』

ママ 『なるほど……すすむくん、二帆ふたほが歓迎ムードみたいだし問題ないわ。二帆ふたほがお客様に失礼がないようにしっかり見張っていてちょうだい』

すすむ  『わかりました』


ママ 『二帆ふたほ! お客様がくるんだから、全裸待機はダメよ! ちゃんと服を着て待ってなさい』

二帆ふたほ 『下着をはいたら負けじゃない?』

パパ 『大丈夫だ、問題ない』

二帆ふたほ (スタンプ)


 知らない人から見たら、さっぱり意味のわからない怪しい会話がやりとりされている謎のグループラインは、最後に二帆ふたほさんのアイコンで終わった。


 そのスタンプは、金髪ロン毛の男の顔面ドアップで、「大丈夫だ問題ない」と自身満々に言い切っていた。

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参照リンク

https://store.line.me/stickershop/product/1083391/ja

https://word-dictionary.jp/posts/850

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 うん。悪い予感しかしない……。

 そして、その俺の予感は、奇しくも当たってしまったんだ。

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