第106話 空気読み能力ゼロのぼっチート

「……ピ、PCゲームです……M・M・Oメリーメントオンラインっていう、VRゴーグルを使って遊ぶ……マ、マニアックです……よね?」


「ええええッ!」

「ええええッ!」

「そうなんだー」


 俺と三月みつきがビックリした声をあげて、一乃いちのさんがほんわかムードでうなづくなか、師太しださんが「ビクッ」と肩をふるわせた。


 三月みつきがあわててフォローする。


「あ、ごめんごめん、ちょっとビックリして声がでちゃった。

 実はアタシもやってるんだM・M・Oメリーメントオンライン

 アタシもVRゴーグル派だよ」


「ええええッ! 本当ですか?」


 三月みつきの言葉に、今度は、師太しださんが驚いた。

 師太しださん、こんなおっきな声出せるんだ。


「……M・M・OメリーメントオンラインをVRゴーグルで遊ぶ女の子って……初めてです」


「そーなの? アタシを誘ってくれた人も女性だけどVRゴーグル派だよ!」

「……そ、そうなんですね……三月みつきセンパイ、クラスは……何を?」

「パズルゲー得意だから境界術士。あと最近はウエポンコレクターにも挑戦してるの」

「ウエポンコレクターのキャラデザ、いいですよね……たくましくて、カッコイイです」


 ん? ウエポンコレクターがたくましくてカッコイイ??

 俺は、ちょっと気になったことを聞いてみた。


師太しださんがM・M・Oメリーメントオンラインで使っているアバターって、ひょっとして男性キャラクター?」

「え!? ……あ……は、はい」


 師太しださんは、顔を真っ赤にしてうつむいた。


「そ、その……たくましいキャラが好きだから……」


 なんだか申し訳なさそうだ。


「べ、別に全然変じゃないよ!」


 俺は慌ててとりつくろう。別に不思議じゃない。男でも女性アバター使ってる人はめっちゃ多いし、変じゃない。師太しださんがカワイイから、俺がてっきりカワイイ系のアバターを使っていると信じ込んでしまっていただけだ。


 俺は質問を変える。


「使っているクラスは?」


「ずっとランスガーディアンです」

「へー、珍しいね」

「はい……最近は使う人が少なくて……」


 ランスガーディアンは、M・M・Oメリーメントオンラインのリリース開始時からある最古参のクラスだ。いわゆるタンク職で、巨大な大楯で敵の攻撃を受けて、ランスで反撃する。質実剛健な、とってもたくましいクラスだ。


 初期のM・M・Oメリーメントオンラインでは、パーティーにほぼ必須のクラスだった……らしい。


 俺が、M・M・Oメリーメントオンラインを遊び始めたのは、ソロプレイ向きのインファイターが登場してからだから、初期のクラスにはそんなに詳しくない。


 そして、今のM・M・Oメリーメントオンラインは、後発クラスのインファイターやマタドールといった、回避盾が全盛だ。

 シンプルに攻撃力の高いインファイターや、デバフサポートが強力なマタドールたちに押されて、今や陰陽導師よりもレアなクラスになっている。

(というか、陰陽導師は、今や結構な人気クラスだ。〝砂中金の砂時計〟と〝松煙の古代墨〟がめちゃくちゃ汎用性あって、オールラウンドに戦える)


 俺は、マニアックなクラスを使う師太しださんにあれやこれやを話しかけて、だんだんと早口になっていた。

 そして、マニアックすぎる話についていけなくなった三月みつきは、スマホのパズルゲームを始めていて、一乃いちのさんは、俺と師太しださんのやりとりをニコニコしながら黙って聞いていた。


「へーそうなんだ。あとランスガーディアンに、〝北斗星のかけら〟の新装備が追加されていたけど、あれって……」



 キーンコーンカーンコーン


 楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。俺は、まだまだ師太しださんと話したいことが沢山あったけど、とりあえず午後の課題プリントに集中することにした。

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