第105話 100点満点のきくばりトーク。

 はやくこいこいと、待ち望んだ救世主の三月みつきだけど、いざ実際に来てみたら想像以上にぐいぐいだった。


「今日から、スーちゃんと一緒に保健室登校をすることになった、新入生の師太しださんなのー」


 一乃いちのさんはニコニコ顔で、三月みつき師太しださんを紹介をする。


「アタシはすすむの幼馴染の十六夜いざよい三月みつき。よろしくね、師太しださん!」


 三月みつきがズイと手を差し出すと、師太しださんは、おそるおそるといった具合に手を差しだした。三月みつきはその手を「ぐい!」とつかんで握手する。

 そして、そのままグググイと顔を近づけて、師太しださんの顔をまじまじと見た。


「いーなー。くっきり二重となみだぼくろ。せっかくこんなにカワイイのに、前髪で隠したらもったいないよ!」


 そう言うと、三月みつきは、制服の胸ポケットにさしていた、お魚型のヘアピンをぬきとって、師太しださんのサラサラな前髪にふれる。すると、


「……………………!」


 師太しださんは無言で顔をそむけてしまった。


「あ、ひょっとして、おでこ出すの嫌いだったとか? ごめん。アタシ、デリカシーなかった」

「…………そ、そんなこと……ないです」

「そう? だったらだったらぁ、ちょっと髪型かえてみてもいい??」

「…………はい…………」


 三月みつきの言葉に、師太しださんは消え入りそうな声で返事をすると、カチンコチンになったまま、三月みつきに髪の毛をいじられている。


「いいなー、髪質サラサラ! アタシ、けっこう頑固な直毛だからさー、うらやましーよ。おでこもキレイ。ひょっとしたら、ニキビを気にしてるのかなって思ったんだけど、これならぜったいおでこ出したほうがカワイイって!」


 そういいながら三月みつきは、師太しださんのちょっと長すぎるサラサラな前髪をサイドにわけて、お魚型のヘアピンでパチンととめた。そしてスカートのポケットから折り畳みミラーを取りだすと、師太しださんの前でパカリと広げる。


「じゃーん! どう??」

「…………………………」


 返事がない。


 三月みつきのお魚ヘアピンで、スベスベなおでこと、とろんとした瞳が全開になった師太しださんは、とつぜん、目に涙をうかべてポロポロ流しはじめた。


 え? どういうこと??

 一乃いちのさんと三月みつきは大慌てだ。


「し、師太しださん!? どうしたの??」

「わー、ごめんなさい! アタシ、ちょうしに乗っちゃった……」


 三月みつきが動揺してオロオロすると、師太しださんは、首をぶんぶんとふって、カワイイ顔を両手でおおった。そして消え入りそうな声でつぶやいた。


「…………うれしいの…………」

「本当? そっかー、良かった!!」

「うんうん。わたしもー、師太しださんに似合うと思うのー」


 三月みつき一乃いちのさんの声に、師太しださんは、顔をおおった両手をそっとはがし取ると、真っ赤になったカワイイ顔がこんにちはをする。そしてそのまま両手をゆっくりと下げて、スカートのすそをギュッとにぎると、


「…………ありがとう……三月みつきセンパイ……」


 って、消え入りそうな声で返事をした。


「えへへ、どういたしまして!」


 そっからの、ふたりの打ち解けるスピードはめちゃくちゃ速かった。

 三月みつきは、おべんとうをパクパクと食べながら、師太しださんを質問攻めにする。


師太しだちゃんってどこ中?」


 呼び方もいつのまにか、「ちゃん」づけになっている。


「……北第三です……」

「えー、結構遠いよねぇ」

「……バスで30分くらい……」

「以外! 結構近いんだ!! 自転車通学のアタシとあんま変わんない!」

「……でもバスの本数が少なくて……」

「あ、そっか、それを考えるとやっぱ遠いよねー。なんでそんな遠く……あ、なんでもない!! 今の質問はなし!!」


 さすが、保健室登校をしている、ぼっちな幼馴染を持つ三月みつきだ。デリケート(な可能性がある)質問を自主撤回して、


師太しだちゃんの趣味ってなに??」


 と、別の質問を浴びせかける。


「……ゲ、ゲーム……です……」


 あ、師太しださん、ゲームが好きなんだ。

 ゲームとなると、俺も、がぜん興味がわいてくる。


「あ、師太しだちゃんもゲーム好きなんだ。なになに? アタシもパズルゲームならちょっと自信があるよ」


 ちょっとどころじゃない。三月みつきのパズルゲームの腕前は変態クラスだ。

 俺は、もくもくとご飯を食べながら、師太しださんの返答に耳をかたむけた。


「……ピ、PCゲームです……M・M・Oメリーメントオンラインっていう、VRゴーグルを使って遊ぶ……マ、マニアックです……よね?」

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