第104話 ぼっちふたりは会話ゼロ。

 そんなわけで、今日から保健室登校生活に、新しいクラスメイト? が、できた。


 といっても、いつもとやることは変わらない。俺は、師太しださんと黙々と今日の時間割どおりに、課題のプリントをやる。そして、全部やりきったら一乃いちのさんに手渡す。


 「はいー。よくできましたー」


 授業時間が終わるたび、一乃いちのさんがプリントを回収して、答えを見ながら採点をしてくれる。


「わー。かぞえくん、また100点だー。すごい、すごーい」


 一乃いちのさんは、プリントで高得点を出すと、犬のような瞳をキラキラさせながら、俺のことをほめてくれる。ああ、癒される。一乃いちのさんの笑顔は癒される。そして、


「すごーい! 師太しださんも100点だー! ふたりとも、すごいー!」


 一乃いちのさんは、犬のようなキラキラ瞳を師太しださんにも投げかけた。


 一乃いちのさんにほめられた師太しださんは、スカートの端をぎゅっとにぎって、テレテレと顔を真っ赤にしながらはにかんでいる。


 カワイイ。かわいいけど……困る。

 困る理由はふたつ。


 まずひとつ目は、一乃いちのさんとのふたりきりの夢のような時間が失われてしまったこと。

 でも代わりに、カワイイ下級生の師太しださんと机を並べてお勉強しているんだから、なにをゼータクなこと言ってるんだ? って突っ込まれそうだ。


 でも、ふたつめは、ちょっと本当に困ることだった。師太しださんが、一切しゃべらないからだ。


 なにをしゃべってよいのやら、さっぱりだ。


 ここのところ、M・M・Oメリーメントオンラインで共闘プレイがメインになっていたから、あやうく忘れかけていたけれども、俺は生来のぼっちなのだ。


 そして、こんなにカワイイ子を目の前にすると、ますます俺のぼっち能力はパワーアップしてしまう。


 いや、もちろん、一乃いちのさんも美人のおねーさんだし、三月みつきだって文化祭のメイドカフェで長蛇の列をつくる美少女だ。六都美むつみさんも、童顔カワイイ系おねーさんだし、二帆ふたほさんに至っては、日本で知らない人はいない圧倒的なカリスマモデルのFUTAHOだ。


 でも、みんな割とフランクというか、向こうから話しかけてくれるタイプだから、会話が途切れるってことがない。


 六都美むつみさんの仕事モードバージョンである武蔵むさしさんは、ちょっととっつきにくい……というかプライベートを一切話さないけど、仕事の話(FUTAHOさんのマネージャー見習いのこと)だったら普通にできる。


 二帆ふたほさんも同様だ。

 二帆ふたほさんはむしろ、仕事スイッチが入ったFUTAHOモードのほうが受け答えがしっかりしている。ふだんの二帆ふたほさんは……まあ、なんというか、な人だから。


 そんなフランクな人たちばっかりの中、師太しださんは、今まで遭遇したことないタイプの子だった。

 そもそも、保健室登校をするような子なんだ。俺とおんなじ、ぼっち属性の子なんだ。


 俺と師太しださんのぼっちコンビは、ただひたすらに、もくもくと課題の答案用紙を記入していくだけだった。

 


 キーンコーンカーンコーン


 昼休みのチャイムが鳴る。

 俺は、今日ほどこのチャイムを待ちわびたことはない。このあとやってくる三月みつきを待ちわびたことはない。

 この世の女の子の中で、俺が最も緊張しない、幼馴染の三月みつきを待ちわびたことはない。


 ああ、救世主よ。はやくこい。はやくこいこい三月みつきこい。


 救世主の三月みつきは、チャイムが鳴り終わると同時に、保健室のドアを勢いよく開けた。


 ガラリ


すすむー、荻奈雨おぎなう先生! お昼、一緒に食べ……よ……。

 え? きゃー! なに? なに!? なに!! このめちゃんこカワイイ子!!

 すすむ荻奈雨おぎなう先生、紹介してよ!!」


 三月みつきは、師太しださんを見た途端、黄色い声をあげて俺と一乃いちのさんに詰め寄った。

 そんな三月みつきを見て、師太しださんは、顔を真っ赤にしてカチンコチンになっていた。

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