第102話 大技も、倒したあとはダメージゼロ。ーGー

『メエエエエェェェェェーーーーーーーェェェェェエエエエメ』


 ジガ=コンステレーションは、激しくいななくと、頭をぐるんと180度ひっくりかえして、ヒツジモードへとチェンジした。


 ヒューーーーーーーーーーーーーン……ズバシィー!!


「よし! 今度はヒット!!」


 モードチェンジのスキに合わせて、三月みつきのあやつるウエポンコレクターの〝マーチ〟のスペシャルスキル、ムーン・スパイラル・キックがヒットすると、ジガ=コンステレーションのHPが点滅し始めた。


 二帆ふたほさんがあやつるハッソウザムライの〝フーター〟も、順調にダメージを与え続けているし、あと一発、ムーン・スパイラル・キックをヒットさせれば倒せるかもしれない!


 でも、その前にヒツジモードのローリングアタックからカニを救わないと! 

 俺は、つとめて冷静に、今、暦の運の恩恵が最もある魔法を唱えた。


 〝戊子つちのえね!〟


 すると、ロンリーの目の前に、通常の4倍の巨大なネズミ爆弾が現れる。


『でか!』

『なんで、ネズミ?』

『カニが吹っ飛ぶw』

『オーバーキルあきらめたw』

『いや、ちがうようですね……』


 バチバチバチバチバチバチ!


 4倍サイズの巨大なネズミは、大音量でバチバチと爆音を鳴らしている。

 俺は、その爆音ネズミ爆弾を、ヒツジ頭のジガ=コンステレーションに近づける。 

 すると、カニたちが蜘蛛の子をちらしたように逃げていった。


 よし! 思った通り!! カニは、なんだ!


 ヤギモードのいななきで、カニが逃げていたのとおんなじ現象が起こっている。

 俺は、ローリングアタックで、〝ロンリー〟に向かって突っ込んでいくジガ=コンステレーションを扇動するように、ネズミ爆弾を操作する。


『なにこれ?』

『カニがネズミ爆弾を避けてるw』

『まるでモーゼの十戒ですね』

『でもって、ロンリーにぶつかる前に解除するってわけダネ!』


 そのとおり! 俺は急いでネズミ爆弾を解除して、ジガ=コンステレーションのローリングアタックをモロに受けた。


 パキリン!


 〝ロンリー〟の頭上にあった、〝辛丑かのとうしのマッチョコケシが粉々に砕け散ると、俺は大急ぎで、魔法ウインドを開いて魔法を唱えた。


壬辰みずのえたつ!〟


 すると、地面が「パキリン!」と裂けて、ジガ=コンステレーションの真下から水が噴き出した。


 よし! これでしばらく足止めだ!!

 これなら、〝マーチ〟のムーン・スパイラル・キックも確実に命中するはずだ。


 これでなんとか、トリプルオーバーキルを達成できそうだ。

 俺は、念の為、全員のHPを半分回復する〝乙未きのとひつじ〟の魔法を唱えていると、ある異変に気がついた。


 ん? ジガ=コンステレーションのHPが、すごいペースでへりつづけている??


 すると、二帆ふたほさんがゴキゲンな声をあげた。


「にゃはは! カニがヤギヒツジに復讐してるのだ!」


 二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟は、地上に降りて、のんきに水柱をながめている。

 よくみると、カニがどんどん水柱の中に入って、ジガ=コンステレーションの〝◯◯◯ピー〟を攻撃している。

 そして、水柱に入れないカニたちも、ワラワラと周辺に集まっていた。


 ん? ひょっとして??


 俺は、〝松煙しょうえんの古代墨〟で、丙辰ひとえたつ日を、壬辰みずのえたつ日に書き換える。

 そしてつとめて冷静に、〝砂中金さちゅうきんの砂時計〟を使用した。


 水流は、さらなる暦の運の恩恵を受けて、より太く、より高く勢いを増していく。

 さっきまでは水流に入れなかったカニが、どんどんと水流に飛び込んでいき、ジガ=コンステレーションの〝◯◯◯ピー〟の攻撃に参加していく。


『メエエエエェェェェェ』


 ジガ=コンステレーションは、大量(40匹くらいいると思う)のカニたちに弱点の〝◯◯◯ピー〟をハサミで激しくはさまれ続けて、切なげな声をあげている。


 Finish!


 ……カニたちが、ジガ=コンステレーションを倒してしまった。


 ヒューーーーーーーーーーーーーン……スカッ!


 三月みつきのムーン・スパイラル・キックが、当たり判定を失ったジガ=コンステレーションをむなしく貫通する中、画面上では、生き残ったカニの数が発表される。


 88匹!!


 88匹のカニたちが、今までの恨みを込めてジガ=コンステレーションの〝◯◯◯ピー〟をフルボッコする攻撃演出が表示される。


 OverKill!

 OverKill!!

 OverKill!!!


 トリプルオーバーキルの表示がされる中、俺は思った。


 今は、壬辰みずのえたつ年だ。

 戦う時間を、うまいこと壬辰みずのえたつ刻に調整すれば、カニを使って簡単にジガ=コンステレーションに大ダメージを与えることができる。

 ヤギモードの間に倒すことだってできるだろう。


 これ、ロールバック案件じゃない?


 ・

 ・

 ・


 案の定、その夜、M・M・Oメリーメントオンラインには、久々のロールバックがかかった。

 修正内容は、ジガ=コンステレーション戦当時の、カニの攻撃力の弱体化。攻撃力が今までの10分の1になった。陰陽導師によるトリプルオーバーキルが爆発的に増加したために行われた処置だった。


 新クラスが活躍できるように設計しているボスなのに、陰陽導師で簡単にクリアされたら、たまったモンじゃないものな……。

 俺はちょっとだけ、M・M・Oメリーメントオンラインの運営スタッフに同情してしまった。

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