第101話 大技も、外せばダメージゼロ。ーGー

 今の暦は、壬辰みずのえたつ年、戊子つちのえね月、丙辰ひとえたつ日、戊子つちのえね刻。


 とくに、二帆ふたほさんや三月みつきをサポートできそうな魔法はない。


 壬辰みずのえたつは、水柱を立てて、敵の足止めをする魔法だ。

 地味だけど結構強い。(ジガ=コンステレーションがカニを踏み潰すのを一時的に止めることができそうだ)

 

 丙辰ひとのたつは、頭上から大量の隕石を落とす魔法だ。

 大量に現れた敵を一掃できるメチャ強魔法だけど、今使うとカニを一掃してしまう。絶対に使えない。


 そして、月と刻が被っている、戊子つちのえねは、リモコンであやつるネズミ爆弾を召喚する魔法だ。

 これも、攻撃につかったら、カニを巻き添えにしかねない。

 

 うーん……使い道があるのは、壬辰みずのえたつの足止めくらいな気がする……。


 俺が、首をひねりながら、とりあえず陰陽導師の守備力を強化する〝己丑つちのとうし〟、ヘイト値を上げる〝己午つちのとうま〟。

 そして大楯を召喚する〝戊戌つちのえいぬ〟の魔法を唱えて、ジガ=コンステレーションのヤギのツノ攻撃を受ける準備をする。


『メエエエエエエーーーーー』


 ジガ=コンステレーションのいななきに、群がっていたカニが蜘蛛の子をちらしたように逃げていく。そして、


 バンッ……ドガーーーーーン!!


 〝ロンリー〟は、ジガ=コンステレーションのジャンプ攻撃を大楯で受け止める。受けたダメージは30%ほど。うん、壁役はなんとかできそうだ。それよりも……。


 プチ……プチ……。


 攻撃によるノックバックで〝ロンリー〟がカニを2匹踏み潰してしまった……。

 うん、やっぱりチンタラ時間をかけている場合じゃないかもしれない。


 ヒューーーーーーーーーーーーーン……ズバシィー!!

『メエエエエエエー』


 三月みつきがあやつる〝マーチ〟のムーン・スパイラル・キックが炸裂した。すごい! ジガ=コンステレーションのHPを20%近く持っていった。


『つえー』

『これ、ウエポンコレクターにナーフ入るんじゃね?』

『いや、最近の運営はインフレ志向だから』

『北斗星のかけらの交換アイテムに、スキルか新武器のレシピくるんじゃね?』

『陰陽術師みたいにアイテムレシピかもなー』

『インフレは、やりすぎるとゲームの寿命が心配になる』

『強過ぎたらナーフをカケルヨ。実装直後の〝砂中金さちゅうきんの砂時計〟は、さすがにぶっ壊れてたけどサ』


「よし! もう一回!!」


 三月みつきは、再びスキルウインドウを開いてムーン・スパイラル・キックを選択する。すると、


「カッコイイ!! フーちゃんもミーちゃんと一緒に、十五夜うさぎになってお仕置きがしたいのだ!!」


 そういうと、二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟は、三月みつきのあやつる〝マーチ〟の肩に乗っかって、


 バシューーーーーーーーーン!


 と、虹色の光を放って遥か上空へと消え去っていった。


『まじか!!』

『まさかのあいのり!』

『合体技!?』

『そういうのもあるのか!』

『ラブワゴン!!』

『おいおい、これまさかの瞬殺コースか!?』

『さすがフーター! 俺たちにはできないことを平然とやってのける!』

『そこにシビれる!』

『あこがれるゥ!』

『さすがにこれはナーフされそうダヨネ……』


 観客モードが大いに盛り上がる中、


『メエエエエエエーーーーー』


 ジガ=コンステレーションがいななき、群がっていたカニが蜘蛛の子をちらしたように逃げていく。そして、


 バンッ……ドガーーーーーン!!

 俺は、2回目の攻撃を受けたあと、勤めて冷静に継続回復魔法の〝乙丑きのとうし〟を唱える。すると、大ジャンプした〝マーチ〟とあいのり〝フーター〟が落下してきた。


 ヒューーーーーーーーーーーーーン……ズバシィー!!

 ヒューーーーーーーーーーーーーン……プチ……プチ。


「あ! ……やっちゃった」


 攻撃を外した三月みつきがしょんぼりする。……というかカニを踏み潰したことにしょんぼりしている感じだ。

 そして俺もショックを受けていた。〝フーター〟の〝あいのり〟攻撃に、特にダメージ増加効果がなかったからだ。


『ダメージかわらんのかい!』

『しょぼw』

『(´・ω・)』

『まー、そんなうまい話あるワケないよなw』

『_(┐「ε:)_』

『マーチが外したのもイタイ』

『これえらい時間ロスですね』

『こんなのんびり戦っていて大丈夫か?』


 大丈夫じゃない。流石にヤバい。


「ミーちゃん、落ち込んでいるヒマはないのだ! カニのしかばねを超えていけー!」


 二帆ふたほさんは、ぶっそうなことを言いながら、〝フーター〟の羽衣をたくみにあやつり絶妙なチラリズム攻撃で、ジガ=コンステレーションのHPを半分近く削っている。(VRゴーグルでよくあんな動きできるよな)


『次でヤギ3回目か』

『コレ時間切れかもな……トリプルオーバーキル期待したんだけど』

『さすがにヒツジになったらカニの保護が無理』

『だな』

『うーん、期待したんだけどナ』

『でも面白いものが見れました』


 うん。これは流石にマズイかもしれない……。

 ジガ=コンステレーションは、ヤギモードのジャンプ攻撃を3回繰り返すと、自ら首を180度回転させてヒツジモードにチェンジする。

 ヒツジモードのローリングアタックは、地面を転がるからその時に大量のカニを巻き添えにしてしまう。


 だから、田戸蔵たどくらさんと六都美むつみさんと共闘した時は、ヒツジモードにチェンジする前に、〝ショウテンホタル〟で倒したんだ。


『メエエエエエエー』


 ジガ=コンステレーションのいななきに、群がっていたカニが蜘蛛の子をちらしたように逃げていく。


 バンッ……ドガーーーーーン!!


 これで3回目。この後ヤギは首を180度回転させて、ヒツジにモードチェンジしてしまう。


 俺は、もう一度、画面右上の〝万年暦〟を見た。


 今の暦は、壬辰みずのえたつ年、戊子つちのえね月、丙辰ひとえたつ日、戊子つちのえね刻。


 一度検証をしてみたかったけど、もう時間がない。


 俺は、念の為、致命傷を受けてもHP1でふんばれるマッチョコケシ頭上にを召喚する〝辛丑かのとうし〟の魔法を唱えると、〝戊戌つちのえいぬ〟の大楯を解除して、代わりにを唱えた。

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