第98話 飲み物だけで、おやつはゼロ。

 俺は『月刊はなとちる』の増刊号を読み終えると、キッチンで自分用のブラックコーヒーと、二帆ふたほさんと三月みつき用の、一乃いちのさんのブレンドした健康に良さそうなハーブティーを淹れて、3階の二帆ふたほさんの部屋に行った。

(本来ならお茶請けも欲しい所だけど、そんなものをウッカリ用意しようものなら、二帆ふたほさんがあっという間に食べ尽くしてしまうので飲み物だけだ)


 コンコン。


「はいはいー。開いてマッスル」

「はいはいー。開いてマッスル」


 部屋の中からおとぼけた声が聞こえる。

 ドアを開けると、そこには色違いでおそろいのだるんだるんのパーカーを着た、二帆ふたほさんと三月みつきがいた。

 二帆ふたほさんが紫で、三月みつきは水色だ。


 三月みつきは、一乃いちのさんのアシスタントを務めるようになってから、毎日9時近くまで作業をするから、二帆ふたほさんの部屋着を借りるようになっていた。

 

 あこがれのFUTAHOさんとの双子コーデに、三月みつきもご満悦だ。

(安心してください。三月みつきは、ブラとパンツはもちろんのこと、スエットのショートパンツもしっかりと履いてます)


「あ、ちょうど、チュートリアル終わったとこなんだ」


 俺は、新クラスの〝ウエポンコレクター〟をあやつっている三月みつきに声をかけると、三月みつきはVRゴーグルを外しながら微笑んだ。


「面白いよ。このクラス! あとコスチュームがカワイイ♪」


 うん。確かにカワイイ。〝ウエポンコレクター〟は、男性キャラクターは、モチーフの武蔵坊弁慶をかなり忠実に再現した僧兵スタイルなんだけど、女性キャラクターは、萌え袖&ミニ丈の装束に、紺のハイソックスと下駄を合わせている。

 そして、頭部とウエストに、おっきな黄色のリボンをあしらって、首にはまるでネックレスのような大粒の数珠じゅずをさげていた。


 〝ウエポンコレクター〟は、この数珠じゅずから、6種類の武器を自在に召喚して戦うことができるクラスだ。

(陰陽導師の〝つちのえ〟の魔法に近い)


「フーちゃんもちょうどミッション終わったところなのだ」


 二帆ふたほさんは、VRゴーグルをかぶったままゴキゲンな声をあげる。


「〝ハッソウザムライ〟のコスチュームもカッコイイですよね!」

「そーなのだ♪  とっても理力フォースを感じるのだ!!」


 〝ハッソウザムライ〟も、男性キャラクターは牛若丸をモチーフにした、軽装の若武者スタイルだ。でも、女性キャラクターはさらに薄着になっていて、肩当てと腰当てを装備しているだけの、とっても際どいデザインをしていた。

(「ブラもつけてないし、パンツもはいてない!」と界隈がざわついた)


 でも、最も特徴的なのは、はいてないことよりも、背中にふわふわと浮いている〝羽衣はごろも〟だ。この羽衣はごろもを巧みにコントロールして、空中でさまざまなトリッキーなアクションを行うことができる。

 まさに二帆ふたほさん好みの軽装甲、高機動力の上級者キャラクターだった。


「フーちゃん、〝ぬえの羽衣はごろも〟を作りたいのだ! 素材集めてつだってちょ!」

「必要な材料ってなんですか?」

「キメラの〝◯◯◯ピー〟なのだ」

「『太陽の導きシリーズ』のボスがドロップするアイテムですね。多分一番効率がいいのは、〝ジガ=コンステレーション〟だと思います」

「そーなのかー。だったら今すぐに、ぬっころすのだ!

 ミッションスタート! ポチッとな!!」


 二帆ふたほさんが、勝手に〝ジガ=コンステレーション〟のミッションを始める中、俺は急いでゲーミングパソコンの電源を入れて、M・M・Oメリーメントオンラインにログインした。



 




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