第97話 ゼロベースで迷走しているぼっチート。

 俺と二帆ふたほさんと三月みつきは、リビングに向かう。すると、リビングのローテーブルに、今月号の『月刊はなとちる』の増刊号がおいてあった。


「そっか、今日、届く日でしたね」

「そーなのだ! フーちゃんはもう読んじゃったから、スーちゃんも読んでもいいよ?」 


 そう言いながら、二帆ふたほさんは3階への階段をトントンと登っていく。そしてそのあとを三月みつきも追いかけていた。


三月みつきは、読まなくていいの?」

「うん。家にも届いているから。それに、M・M・Oメリーメントオンラインで、〝ウエポンコレクター〟をはやく使ってみたいし!

 荻奈雨おぎなう先生のデザインがどう3D化されたか気になるもん!」

「そーなのかー。フーちゃんは、〝ハッソウザムライ〟を使ってるのだ! チュートリアルをすませて、今は羽衣はごろもの素材集め中なのだ!」

「じゃあ、アタシもチュートリアルが終わったら、一緒にミッションやりましょう! すすむも『はなちる増刊』読んだら上がってきてよね!」

「わかったよ」


 俺は、トントンとリズミカルに3階への階段をあがっていく二帆ふたほさんと三月みつきを見送ると、まっさきに『はなちる増刊』の一番最後のページを見た。


 三月みつき……いや、十五夜うさぎの連載『ちょ、やめるでござる!』を読むためだ。


 十五夜うさぎが連載している『ちょ、やめるでござる!』は、『信長のおねーさん』のスピンアウト作品で、信長の父、織田信雄おだのぶかつに小姓として仕えた勝三郎かつさぶろうが、信長をはじめとするいろんな登場人物に無理難題をふっかけられて迷走する4コマギャグ漫画だ。

 登場人物には、信長の後の家臣、いたずら坊主の犬千代いぬちよ(のちの前田利家まえだとしいえ)が登場したり、つかいで城下町に出て、針商人の丁稚でっち日吉ひよし(のちの豊臣秀吉とよとみひでよし)にだまされるエピソードといった、『信長のおねーさん』に登場しないキャラクターもでてきている。


 編集の田戸蔵たどくらさんのアドバイスだ。


 一乃いちのさんが今書きためている、『信長のおねーさん』の数年後を描いた話に登場するキャラクターを先だしすることで、連載が始まった時の相乗効果を狙う作戦だ。


 このサプライズを成功させるため、一乃いちのさんと三月みつき、そして田戸蔵たどくらさんは、犬千代いぬちよや針商人の日吉ひよしなどの新しいキャラクターを綿密に練り上げていた。


 武蔵むさしさんと田戸蔵たどくらさんは、『信長のおねーさん』のコンテンツを本当に、それはもう、本当に大事に育てている。

 すでに増刊で連載する話をアニメの二期、桶狭間おけはざまの合戦を劇場版として展開する企画書を作成して、製作委員会にプレゼンをしているらしい。


 一乃いちのさんはもちろん、三月みつきも自分の夢に向かって着実に歩みを進めている。そして、そのふたりを、武蔵むさしさんと田戸蔵たどくらさんは、全力でサポートしている。


 そんななか、俺は、いまだに自分の将来を決めかねていた。


 俺は、豊臣秀吉とよとみひでよしから針を相場の5倍で買ってしまい、落ち込んでいる勝三郎かつさぶろうを、なんとなく自分と重ねていた。

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