第93話 ゼロイチなオンオフスイッチ。

「やったね! スーちゃん! ムーちゃん!!」


 俺は、VRゴーグルを外した二帆ふたほさんとハイタッチをする。

 うん。ハイタッチなんてする前に、とりあえず腹巻のように丸まってしまって、むきだしのもろだしになっているおっぱいとここには書いてはよろしくないところを隠してほしい。


二帆ふたほ! パンツは履かなくてもいいから、隠すくらいはしてヨネ!」


 同じことを思ったんだろう、六都美むつみさんがVRゴーグルを外しながら二帆ふたほさんをピシャリと注意した。でも、


「おぱんちゅ丸出しのムーちゃんには言われたくないなっしー!」


 と、裏声を使って刀剣マニアの妖精の声真似をした。


「え! ……キャ!!」


 六都美むつみさんは、大慌てでもっふもふのピンクボーダーのショートパンツを履き直すと、ジト目で俺の方をみた。


すすむさん! 見たでしょ!!」

「え? えっと……」


 俺が適当にはぐらかそうとすると、二帆ふたほさんが


「スーちゃんは、ずっと見ていたなっしー!」


 と、刀剣マニアで家具にも詳しい妖精の声真似でぶっちゃける。


 すると、六都美むつみさんは、顔を真っ赤に染め上げて、もっふもふのピンクボーダーの萌え袖のルームウェアで顔を隠しながら、


すすむさんのエッチ! 最低!!」


 と可愛く言った。


「あ、え……そ、そそのゴメンナサイ!」

「あは! じょーだんじょーだん! ちょっとからかったダケダヨ!」

「ちょ! やめてください」


 俺は、困った時についつい出てしまう口ぐせを言った。すると、


「きゅーんん! かわーーいー! たまんなーいーー!!

 カワイイおぱんちゅをはいた甲斐があったヨ」


 六都美むつみさんは、さっきよりもさらに顔を赤らめてもだえはじめた。


 え? どういうこと??


 十津川とつがわさんたちといい、なんで一乃いちのさんのお友達のおねーさんは『ちょ! やめてください』でこんなに喜ぶの??


 俺が首をかしげていると六都美むつみさんは、ちょっとだけキリッとした顔になって、


「そんじゃ遊びはおしまい! そろそろ仕事のスイッチを入れますか!

 二帆ふたほ、ちょっと着替えてくるから待ってて、二帆ふたほのスイッチは、すすむさんと一緒に入れるから」


 と、言った。


「はい。まだ、ひとりじゃ心配なのでお願いします」


 俺が六都美むつみさんにそう言うと、二帆ふたほさんはスタイルの良い胸を張る。


「じゃ、フーちゃんはその間に素材集めをやっておくのだ!」


「そんなヒマあるわけないデショ!

 すすむさん、二帆ふたほM・M・Oメリーメントオンラインやんないように、しっかり見張っておいてネ」


「わかりました!」


「じゃ、着替えてくるからヨロシクー!」


 そう言って、六都美むつみさんは、手をヒラヒラとふりながら、コネクティングルームに入っていった。


 それから、3分くらいたっただろうか。


 プルルルル……プルルルル……。


 部屋の電話が鳴った。


「はい」

『もしもし……FUTAHOさんのマネージャーさんですか?』

「あ、はい、俺は見習いですけど……」

『そうですか……じゃ、FUTAHOさんにお伝えください。このあと、どうやら朝方にかけて雨が降りそうなので、撮影を巻きでお願いしたいんです。すぐに現場にもどっていただけますか?』

「は、はい!! すぐに伝えます!!」

『お願いします! みんなもうスタンバッてますんで!!』

「わかりました!」


 ガチャン!


 大変だ! すぐに二帆ふたほさんのスイッチを入れないと!

 俺は大急ぎで六都美むつみさんのいるコネクティングルームのドアをあけた。


 するとそこには……。


 黒レースのとっても大人っぽいパンティをつけて、同じくとっても大人っぽいガーターベルトをつけて、同じく黒レースのとっても大人っぽいブラジャーを、今、まさに、つけようとしている瞬間の六都美むつみさんがいた。

 髪の毛も、ピンクのリボンのツインテールから、黒いゴムでひっつめた地味な髪型にもどっている。


「……どうしました? すすむさん?」


 六都美むつみさんは、別段驚く様子もなく、大人っぽいブラチャーをつけると、そのまま真っ白なワイシャツに手をかけた。


「あ、ああの……朝方に雨が降るから撮影を巻きで行いたいってスタッフさんから電話がありました」

「そうですか……着替え終わったらすぐに向かいます。1分ほどお待ちください」

「は、はい!」

「あと……レディの部屋にはノックして入る。常識ですよ」

「す、すみませんでした六都美むつみさん」

「今は仕事のので武蔵むさしです」

「す、すみません武蔵むさしさん」


 俺はペコペコと頭をさげながら、急いでコネクティングルームのドアを閉めた。

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