第89話 ゼロ距離の密着プレイ。ーGー

 ピキピキィ!!!!

 ディクシ!!!!!


『ひひひひひひひぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーん』


 〝フーター〟のフレイムバレットを仕込んだ爪の超高速連打(ただの通常攻撃)からの、〝コジロー〟の必殺スキル〝ケイラクヅキ〟で、弱点の右耳にしたたかダメージをブッ込まれた黒馬マッチョは、すざまじい断末魔をあげている。



『すげえ!』

『ダメージエグい!!』

『トリプルオーバーキルどころの騒ぎじゃないw』

『でも、ボス2匹いるよな?』

『判定、どーなるんだ??』



「あちゃー、コレ、ダメージ出し過ぎかも?? 二帆ふたほ、連写しすぎダヨ!」


 VRゴーグルをかぶった六都美むつみさんが首をかしげると、


「にゃはは、フーちゃんはいつでも全力なのだ!」


 同じくVRゴーグルをかぶった二帆ふたほさんが、だるんだるんのパーカーから、おっぱいをまるだしにしながら胸をはった。


「うーん……Finish表示が出ていないし、後にやっつけた方がオーバーキル報酬の対象になるのカナー? 二帆ふたほ、〝フレイムバレット〟の残数は?」

「えっへん、なんとゼロなのだ!!」

「ヤッパリ……じゃ、次はボクが〝フレイムバレット〟を爪に仕込んで……」


 ゴゴゴゴゴゴォ。


「ナニ? 何の音??」

「リングが揺れてるのだ!」

「危ない、六都美むつみさん!!」

「キャァ!!」


 ガシィィィィ!


 リングの上に倒れていた黒馬マッチョが突然起き上がって、〝コジロー〟をはがいじめにした。


「マッチョがふっかつしたのだ!」


 二帆ふたほさんは〝フーター〟を操作して、すばやくカットに入ろうとする。でも、


「ギョギョギョギョ!!」

 

 白魚マッチョが、強烈なショルダータックルを〝フーター〟におみまいすると、そのまま〝コジロー〟の上におおいかぶさった。

 〝コジロー〟は、2匹のマッチョに完全におさえこまれた状態だ。


「らめぇ! こんなに激しくされたら、ボク、こわれちゃうヨ!」


 ちっちゃくてカワイイ女の子に、屈強なマッチョが2匹がかりで「ハアハア」と息を荒げてからみつくなんともキワドイ絵面に、俺はちょっとだけ興奮しながら急いで用意していた呪文を唱えた。


 〝辛卯かのとう〟!


 すると、〝ロンリー〟はリングサイドから「フッ」っと消滅した。

 そして、その場所に〝コジロー〟が現れる。


 〝辛卯かのとう〟は、プレイヤー同士の場所を入れ替える呪文だ。射程は4メートル。今は〝暦の運〟があるから8メートルに伸びている。(今は最初から4メートル以内の場所にいたからあんまり関係なかったけど)


 リング上は、全身黒ずくめの男に、屈強なマッチョ2匹がかりで「ハアハア」と息を荒げてからみつく、完全にアウトな状態だ。


 俺は、その地獄の絵面にゲンナリしながら、努めて冷静に呪文を唱えた。

 そしてその瞬間、


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 リングの四隅に鎮座していた、内側にトゲトゲを密集させた石柱が、猛スピードで中心に移動していく。そして、


 ゴゴォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオン!!


 2匹のマッチョと〝ロンリー〟を閉じ込めた。


「スーちゃん!!」

「え? これって……」


 二帆ふたほさんが叫ぶなか、六都美むつみさんがつぶやいた。


鉄の処女アイアンメイデン?」


「はい。双子座モチーフの2匹のマッチョ、射手座モチーフの馬の頭、魚座モチーフの魚の頭。そして【柔軟宮じゅうなんきゅう】最後のひとつ、乙女座をモチーフにしたのが、この鉄の処女アイアンメイデンです」


 鉄の処女アイアンメイデンは、トゲだらけの体で〝ロンリー〟と2匹のマッチョを閉じ込めて、その目から血の涙を流していた。

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