第87話 やれることはゼロじゃない。ーGー

『お、挑むのはフーターとコジローか』

『やっぱりな』

『うん、ぜったいそっちのがいい。陰陽導師は肉弾戦クラスじゃないし』

『フーターのシノビスナイパーもつらくね?』

『フーターは、エリアルハンターが本職だろ?』

『いや、リングが狭すぎてワイヤーアクションのリスクが高すぎる』

『なる。じゃ、フーターがインファイターやればよかったのに……』

『だな……コジローはどっちかってーとマタドール使いだし』

『あとなんでロンリーは無駄に電流に突っ込んだんだ?』

『しかも2回w』

『さあ……なんか考えあるんじゃね?』

『へのツッパリはいらんですよ!』

『てか、へのツッパリって何?』

『肉用語』

『???』

『ググれ』


 俺は、観客モードの書き込みに導かれるまま、スマホで『へのツッパリ』をぐぐった。

 なるほど……昭和のプロレス漫画ネタだったのか……(女房を質に入れるってのも同じ漫画のネタだった)


 俺はその漫画が今も絶賛連載中である事実に衝撃を覚えながら、リングサイドで観戦をすることにした。


『ゥゥゥゥゥーーーワチャアーーーーー!!!!』


 六都美むつみさんあやつる〝コジロー〟は、怪鳥の叫びを使う。


『ギョギョギョ!』

『ひひーーーん!』


 するとマッチョふたりは、小さなツインテールの女の子に、奇声を上げながら襲いかかってきた。なんともシュールな映像だ……。


二帆ふたほ! ボクがマッチョ2匹を引きつけとくから、二帆ふたほはスナイパーモードでマッチョの弱点探してヨ!

 今回のボスは小さいカラ、弱点もピンポイントだと思うんだヨネ!!

 そこにダブルインパクトで〝フレイムバレット〟を重ねる流れデ!

 フィニッシュにインファイターの〝ケイラクヅキ〟をかましたら、シングルオーバーキルくらい狙えるかもしれないカラ!!」


「りょーうかいのすけ!」


 すごい! さすがはM・M・Oメリーメントオンラインの大手YouTube攻略サイト『巌流島チャンネル』を運営する六都美むつみさんだ。

 あっという間に、ボスの攻撃プランを立てて二帆ふたほさんに指示をだしている。


「ひょい、ひょい、ひょい!!」

 ヒラリ、ヒラリ、ヒラリ。


 六都美むつみさんは、〝合気〟で先行入力しまくって、2匹のマッチョの攻撃を華麗にかわしていく。


「ディクシ! ディクシ! ディクシ!」

 プシュ!  プシュ!  プシュ! 


 そして二帆ふたほさんは、弱点ヒット時の効果音の声真似をしながら、スナイパーガンで、的確に白い魚のマッチョの股間と両乳首を寸分たがわず〝フレイムバレット〟を使ってスナイプした。でも、


 カキン! プスッ! プスッ!


 股間にはなった〝フレイムバレット〟は、鋼鉄のような極小パンツに弾き返されて、両乳首には一応ヒットしたけど、まるで蚊にさされたみたいにほんのちょっと赤く腫れただけだった。


『ギョギョ?』

 ピクピク!


 白魚マッチョは全く効いていないのをアピールするがごとく、胸板を「ピク!」とふるわせた。


「乳首がピクピクしているのだ!」


 プシュシュ! プシュシュ! 


 二帆ふたほさんは、白魚マッチョと黒馬マッチョの4つの乳首に、正確無比なスナイプの連打をお見舞いすると、


『ギョギョ?』 ピクピクッ!!

『ヒヒひん?』 ピクピクッ!!


 白魚マッチョと、黒馬マッチョは、激しく胸板をピクピクさせて、まるで乳首に赤いニプレスを貼ったようになっていた。


「にゃははー! オモシローイ!!」

「コラ二帆ふたほ! 〝フレイムバレット〟を無駄打ちしないデヨ!」


 六都美むつみさんは、2匹のマッチョの攻撃を〝合気〟で華麗にかわしながら、的確に2匹のマッチョの両乳首に掌底しょうていを「バチコーン!」とかましていく。


 でも、ダメージは全然大したことない。

 やっぱり、〝フレイムバレット〟は弱点に当てないと威力も半減だ……。


 俺は、自分の画面の時刻表示をチラリと見た。


今の暦は、


 乙酉きのととり月、甲申きのえさる刻、辛卯かのとう月 壬辰みずのえたつ刻。


 そして、今ちょうど、癸巳みずのとみ刻。に切り替わったところだった。


 よし! 今なら〝暦の運〟がある。


 ひょっとしたら、セコンドの俺にも、サポートができることがあるかもしれない。

 俺は、魔法ウインドウを開いて。ある魔法にカーソルを合わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る