第76話 ゼロ距離の打合せ。
「お忙しいところ、ご無理を言って申し訳ありません」
「いいえー。こちらこそ、原稿がギリギリになってしまいすみませんー」
「これ、お土産です。ご家族でおめしあがりください」
「わー。ありがとうございますー」
「……………………」
「あ、飲み物入れてきますねー。コーヒーと紅茶、ハーブティとお茶がありますけどー」
「ん? ハーブティってのは?」
「あ、わたしの趣味なんです……」
「へぇ、ステキな趣味ですね。では……私はコーヒーを」
「え? じゃ、じゃあ、ボクもコーヒーにします」
「……わかりました」
「……………………」
俺たちは、1階の
俺たちは2階に設置しているカメラからの映像を、ママのノートPCで観ていた。
今、2階のリビングに写っているのは三人。『月間はなとちる』の編集者ふたり。そして
「本日より、
634プロダクションの
太ったヒゲづらで、ねちょっとした声質の編集者は、いぶかしげな表情で
「634プロダクション? 知らないなあ?」
「はい、所属タレント2名の個人事務所ですから」
「へえ、そうなんですか。それは大変ですね。まあ、よろしくお願いします」
「
背が高く筋肉質で、偉くダンディな声をした編集者は、背の低い
「あー、私は名刺を忘れてしまってね。編集長の
「立派なお宅ですね。
「そんな、お嬢様だなんて……でも両親や亡くなった祖母と祖父には感謝しています」
すると、
「結論から言います。ズバリ、
「なぜです?」
聞いたのは
その質問に、
「え? わかりません? アニメ化ですよ? ここが
「おっしゃっている意味がわかりません。あと、失礼ですが、
「いやいやいや、やってるでしょ? 保健の先生!」
「はい、
「いやいやいや、収入が全然ちがうじゃないですか! そんなどうでもいい仕事のために、アニメ化という大チャンスを棒に振るんですか? もうたくさんの人が動いているプロジェクトなんですよ。
ウチだけじゃない! テレビ局や制作会社、出資をする製作委員会、たくさんの人に迷惑がかかるんですよ! それでも構わないと?」
「……………………」
「……………………」
モニター越しの俺も、他のみんなも黙っていた。
ママだけが「これは弁護士案件ね……」とポツリと言った。
しばらくの沈黙の後、
「わたしは、絶対に養護教諭を辞めません!」
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