第71話 ゼロ距離おねーさんはお手伝い禁止です。

 ガンコ=ゾディアック戦が終了した時、外はもう真っ暗だった。

 そりゃそうだ。もう12月なんだもの。


「アタシ、そろそろ帰らなくっちゃ」

「送っていくよ」

「うむ! ミーちゃんのボディーをガードするのが、彼氏のスーちゃんの務めなのだ!」


「だから、ただの幼馴染です!」

「だから、ただの幼馴染です!」

「そーなのかー」


 俺と三月みつきの言葉に、二帆ふたほさんは猫みたいな瞳を細めてニヨニヨと笑っている。

 もう三ヶ月以上、こんなやりとりをつづけている。


 コンコン


 三月みつきが帰り支度をはじめると、ドアがノックされた。


「はいはーい。開いてマッスル!」


 二帆ふたほさんがおとぼけた返事をすると、母さんがドアを開けた。


三月みつきちゃん、今日、晩御飯食べていくでしょ?」

「今帰るところです。今日はアタシが料理当番なんで」

「だったら、なおのこと食べて行きなさいよ。おじさんには、この家の晩御飯をタッパで持ち替えればいいんだし」


 三月みつきは、ちょっと考えたけど、すぐにめちゃカワイイ笑顔をつくると、


「じゃあ、お言葉に甘えちゃいます。でも、お手伝いはさせてください!」


 と、100点満点の良い子ちゃんセリフを言い放つ。そしてこんな時は、もれなくセットである言葉が続く。


すすむも手伝うよね?」

「ああ、わかったよ」


 俺の言葉に、二帆ふたほさんも続く。


「フーちゃんもお手伝いするのだ!!」


 その言葉に、母さんはピシャリと言い放った。


二帆ふたほちゃんはダメ!! 料理をつまみ食いするつもりでしょ?」

「バレたか!!」


 てへぺろと舌をだす二帆ふたほさんに、母さんは、申し訳なさそうに話を続ける。


「『今は撮影が連続しているから絶対に甘やかさないでください! ニキビとかできたら大変なんで!』

 って、マネージャーの武蔵むさしさんからキツーく言われているの。ごめんなさいね、二帆ふたほちゃん」

「わかったのだ……」


 つまみ食いをあきらめた二帆ふたほさんは、VRゴーグルをかぶりながら言った。


「じゃ、フーちゃんは〝ニトロの瓶〟の素材を補充するのだ。

 スーちゃんとミーちゃんも、欲しい素材を言ってちょ!」


 俺と三月みつきは、遠慮なく二帆ふたほさんに欲しい素材をリクエストすると、階段を降りて2階のリビングに行った。

 料理はすでにあらかた下準備が整っていて、その量はいつもより随分と多かった。


「今日は中華なの。メインはレバニラ炒め。締め切りが近い一乃いちのちゃんに体力つけてもらわないとね! 毎日朝が早い二帆ふたほちゃんや武蔵むさしさんにも!」


 母さんはそう言うと、ダイニングテーブルに座る俺と三月みつきの前に、ステンレスのボウルに入った大量の餃子のあんを「ドスン」と置いた。

 すごい量だ。軽く200個は作れるんじゃないかな……。


「ちょっと大変かもだけど、ふたりはこれをお願いね。一応シメにラーメンも用意できるけど、せっかくのお祝いなんだから餃子だけでお腹いっぱいになりたいじゃない」


「お祝いって?」


 俺は、母さんに尋ねた。なんとなく答えはわかっていたけれど聞いてみた。


「『信長のおねーさん』のアニメ化記念よ!!』

 一乃いちのちゃんが作者なの、すすむ三月みつきちゃんにもバレちゃったみたいだし、せっかくならみんなでお祝いしましょ!!」


 そういうと、母さんはゴキゲンにハミングしながら、でっかい中華鍋を取り出して、レバニラ炒めに使う野菜の油どおしをはじめた。(ニラの色を鮮やかにできて、もやしがシャッキシャキになる)


 うん。母さんは一乃いちのさんが養護教諭と漫画家の二足のわらじをはいていたことを最初から知っていたんだと思う。

 そりゃそうだ、だってパパとお付き合いしていたんだもの。再婚する前から、一乃いちのさんのことを知っていて当然だ。


 母さんは、養護教諭と漫画家を両立している一乃いちのさんのことを、ずっと気づかっていたんだと思う。

 だって一乃いちのさんは、母さんと一緒に料理するのが大好きなんだもの。きっと、俺なんかには相談できない悩みなんかにも、相談に乗っていたんだと思う。


 俺は、三月みつきと一緒に餃子のあんを包みながら、テキパキと料理を作っている母さんの背中に、どことなく、一乃いちのさんの姿を重ねていた。

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