第70話 ゼロ距離のアッパーカット。ーGー

 〝フーター〟と〝アルコダット〟は、ガンコ=ゾディアックの弱点の◯◯◯ピーに、斬撃を繰り返す。

 ガンコ=ゾディアックのHPはみるみるうちに点滅して、瀕死状態になっていた。


 ガンコ=ゾディアックが必死にもがいて立ち上がると、〝フーター〟と〝アルコダット〟は、バックステップで距離をとる。そして、〝アルコダット〟は、一本の紫の薔薇を俺に向かって投げつけた。


 〝ロンリー〟はその紫の薔薇を受け取ると、すばやく口にくわえた。(顔の前にたらした黒い布が邪魔をして、紫の薔薇が布にめりこんでしまっているけど)

 見栄えはともかく……バラをくわえたロンリーは、両手を高く上げて「パンパン!」と気取って手をたたく。


 マタドールのスキル、仲間一人に強制的な挑発行動をさせる〝紫の薔薇の人〟だ。


『あとは、お任せしますよ!』

「わかりました!」


 ゲーミングPC 越しに聞こえてくる〝アルコダット〟の声援に俺は力強く答えると、〝松煙しょうえん古代墨こだいぼく〟で、こよみの一部をかきかえる。

 そして、魔法ウインドウを開くと、にカーソルを合わせてスタンバイをした。


 俺は三月みつきを見た。VRゴーグルをかぶっている三月みつきの手はすでに動いていなくて、ディスプレイのすみっこには、完成寸前の〝箱入り娘〟が写っていた。


 これで準備は万端だ!!


「グルルルル……」


 ガンコ=ゾディアックは、顔に紫のバラをめり込ませてキザなポーズをとる〝ロンリー〟を激しくにらみつけている。


 そして、満身創痍にムチをうって、〝ロンリー〟に向かって猛突進をしてきた。

 俺は、軽く息を吐くと、Bluetoothコントローラーの魔法発動ボタンに集中する。


 そして、ガンコ=ゾディアックが〝ロンリー〟に噛みつこうとする直前、本日限定のスーパーチート魔法を発動させた。


 〝甲申きのえさる〟!


 すると、ガンコ=ゾディアックの足元にタケノコが生えて、ガンコ=ゾディアックを串刺しにする。そしてタケノコは急速に成長を遂げて竹になって高く高く、途方もなく高く伸びていった。


 Finish!


 めっちゃ発音のいい、イケメンボイスが響きわたって、画面内にカッコイイフォントが踊っている。

 そんななか、竹はまだまだグングンと伸びていく。


 きのえの魔法は、植物を自在にあやつってブービートラップを仕掛ける魔法だ。


 最初に使った〝甲戌きのえいぬ〟は、根っこによる拘束魔法。

 今使っている〝甲申きのえさる〟は、地面から鋭利なタケノコを生やして敵を串刺しにする。


 でも今はそれだけじゃない。


 今のこよみは、〝甲申きのえさる年〟〝甲申きのえさる月〟〝甲申きのえさる日〟〝甲戌きのえいぬ刻〟!


 さるは、稲光の承継文字。そしてその意味は「のびる」!

 威力8倍の〝甲申きのえさる〟の竹林は、ガンコ=ゾディアックを天高くまで放り上げると「フッ」と消滅した。


「〝マーチ〟コントローラーを貸して!」

「はい! 〝ロンリー〟!」


 画面がパズルで埋まっている三月みつきの代わりに、俺が操作する為だ。今回は、なによりが命なんだ。

 俺は、三月みつきから完成寸前の〝箱入り娘〟を操作しているBluetoothコントローラーを受け取ると、上を見上げた状態にしている自分のディスプレイをみた。


 豆粒のようなガンコ=ゾディアックが空中から落ちてきて、その姿はどんどん大きくなってきている。


 よし! 弱点の◯◯◯ピーも、しっかり下を向いている!


 俺は、ガンコ=ゾディアックが地上に落下する3秒ほど前に、〝箱入り娘〟を完成させた。

 すると、ロンリーの隣に控えていたマーチの目の前におっきなふすがが現れて、左右に「スラリ」と開く。

 出てきたのはさるの最大進化干支モンスターの〝ジュンイチロウ〟だ。


 筋骨隆々の〝ジュンイチロウ〟は、飛び出すや否や、仁王立ちをして右の拳を天に向かって振り上げた!


 ドゴーーーーーーーーーーン!


 〝ジュンイチロウ〟の渾身のアッパーカットを、弱点の◯◯◯ピーにモロに喰らったガンコ=ゾディアックは、激しい衝撃波とともに、再び宙へと放り投げられた!


 OverKill!

 OverKill!!

 OverKill!!!



『すげー! ガンコが空の彼方までぶっ飛んだ!』

『マーチはすでにきさまに死を与えていたのだ!』

『衝撃派で、空にあった雲が吹き飛んでるw』

『天候をぶっ壊す!!』

『感動した!』

『わが生涯に一片の悔いなし!!』



 観客モードの書き込みは大盛り上がりだ。


 これが今日の本当の切り札だ。


 〝甲申きのえさる〟も、さるの最大進化干支モンスターの〝ジュンイチロウ〟も、敵を空中に突き上げるための魔法だ。


 本当は、〝フーター〟の空中無限コンボのサポートのために取っておいたんだけど、〝アルコレッド〟が加わったおかげで最後まで温存できた。 


 俺は知っていた。巌流島チャンネルを観て知っていたんだ。干支モンスター〝ジュンイチロウ〟のアッパーカットは、根本で当てると威力があがり、かつ、高い場所から落下したモンスターにぶち当てるほど攻撃力が倍増していくことを。


『お見事でした、〝ロンリー〟さん、〝マーチ〟さん』


 〝アルコダット〟が、拍手モーションをしながら俺たちをたたえてくれる。


「〝アルコダット〟さんが助っ人に加わってくれたからです。そうしないと、〝甲申きのえさる〟も〝ジュンイチロウ〟も温存はできなかったので」

『それにしても、最後の連携は見事でした。境界術師はパズル中は視野が奪われてしまうはず、なぜ、あそこまでのジャストタイミングでパズルを完成できたのですか?』

「最後のパズルは、俺が組みました。完成直前まで〝マーチ〟に作ってもらって」

『なるほど、隣どおしで遊んでいたのですね。得心いきました。しかし素晴らしいコンビネーションですね。とても親しい仲だとお見受けします……お付き合いされているのですか?』


「ちちち、違いますよ!」

「ただの幼馴染です!!」


 俺と三月みつきは〝アルコダット〟の質問に全力で否定をした。


『〝フーター〟さんも、ありがとうございました』

「どーいたしまして。アーちゃんもいぶし銀でカッコよかったのだ!」

『ありがとうございます。……ところで、最近〝よろず〟さんを観ないのですが、どうかなされました?』


 〝アルコダット〟が〝よろず〟の話を持ち出すと、今までなごやかになれなれしく話していた二帆ふたほさんの声色が突然変わった。


「さあ、プライベートのことは、私にはなんとも……」

『そう……ですか。私は〝よろず〟さんと、いつか共闘したいと考えております。

 芸術的なプレイに、いつも惚れ惚れしていますので」

「……わかりました。そう伝えておきます」

『ありがとうございます。では、私はこれで。実は仕事中だったものでして……失礼』


 そう言って、〝アルコダット〟は、うやうやしく挨拶をしながら消えていった。

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