第68話 面識ゼロの助っ人プレイヤー。ーGー

『ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 モードチェンジしたガンコ=ゾディアックは、再びおたけびをあげると、〝フーター〟めがけて突進してきた。

 なるほど、多分だけど、HPが低い敵を優先するアルゴリズムだ。

 フーターは、水瓶にこもったヤドカリ状態の時に受けた毒の永続ダメージで、半分近くのHPを削り取られていた。


 でも、これは都合がいい。機動力に優れる〝フーター〟なら、突進攻撃なんて楽勝回避だ。しかもそのあとワイヤーガンを突き刺してからの追撃のおまけ付きだ。


「ひょい!」


 二帆ふたほさんは、ガンコ=ゾディアックの突進攻撃を、余裕をもってジャンプで回避する。そしてすぐさまワイヤーガンをガンコ=ゾディアックの下腹部に突き刺して、連続斬撃モーションに入る。


 すると、


 ドゥクシ!


 嫌な音を立てて、〝フーター〟の脇腹にムチのようにうなるサソリの尾っぽが突き刺さった。


 パキリン!


 同時に、頭に浮かんだ鋼鉄性のマッチョこけしが砕け散る。やられた! エリアルハンターのマイナス特性、『ワイヤーアクション中の100%クリティカルヒット』だ。


乙卯きのとう〟!


 俺は、大急ぎで仲間全員のHPを半分回復する、陰陽導師のチート回復スキル〝乙卯きのとう〟を唱えた。



『フーターが、物理食らうのひさびさに見たw』

『ライオン頭の突進カミツキからの、サソリの尾の二段攻撃か……シンプルに強いな』

『でもって、サソリの尾は毒属性と』

『永続ダメージ600かー、これはドクトルドリンク一本いっとく?』

『やっぱりだ。ウルフがドリンクくわえてフーターのもとにかけつけてる』

『さすがマーチ、やさしい❤︎』

『ナイスマーチ』

『ナースマーチw』

『いーね、それ』

『ナースってより、おねーさんか、おかーさんってイメージ。年上美人❤︎』

『癒しの聖母……とか?』

『いーね、それ!』


 〝フーター〟の予期せぬピンチに、掲示板が賑わっている。

 そして〝マーチ〟の予期せぬニックネームに、


「ねえ、すすむ、わたし、〝癒しの聖母〟だって。えへへへ、癒しの聖母かぁ……」


 って、まんざら……いや、明らかに喜んでいる。絶対に喜んでいる。


「ねぇ、ねぇすすむどう思う、〝癒しの聖母マーチ〟。どう思う??」

「うん、悪くないんじゃない?」

「えっへへー! そう、そうかなー。でも〝癒しの聖母〟かぁ、なんだか荻奈雨おぎなう先生に悪いなぁ」


 俺は、三月みつきへのリップサービスをしている間、二帆ふたほさんは、しつように突進二段攻撃を続けてくるガンコ=ゾディアックとの格闘をつづけていた。


 突進をジャンプで交わした直後に、ワイヤーガンを地面に挿してすぐさまワイヤー巻き取りで、サソリの尾を紙一重で回避。回避直後にワイヤーを解除して、すれ違いざまに一太刀を浴びせる。


 すごい! さすがは二帆ふたほさん。あっという間に対策を立てている!


 とはいえ、このままじゃマズイ。あんな曲芸みたいな避け方で、ミスしないなんて不可能だ。

 かといってロンリーやマーチじゃあ、あの二段攻撃を避ける術がない。攻撃に参加してヘイト値をあげようものなら、二段攻撃をモロに喰らってあっという間にオダブツだ。


「ありゃりゃ!」


 フーターが、ガンコ=ゾディアックのサソリの尾に被弾した。

 (ワイヤーアクション中じゃなかったのが不幸中の幸いだ)


 俺はあわてて、継続回復スキルの〝乙丑きのとうし〟を唱えて、三月みつきは、ドクトルドリンクをくわえさせたコマイヌ=ウルフを走らせる。


『さすが、癒しの聖母! 行動に抜け目が無い!』

『保健室のマーチ!』

『俺、そっちのがいいな』

『じゃあ、それで』

『がんばれ、保健室のマーチ』

『ついでにロンリーも仕事しろ』


「えー、〝保健室のマーチ〟より〝癒しの聖母〟のがよかったー」


 三月みつきがまんまるなほっぺたをプックリさせていると、


 ピコリン!


 と、メールアイコンにバッチがついた。俺は素早くメールアイコンをクリックする。

 メール内容は、フレンド申請だった。相手は……〝アルコダット〟。


「えええ!」


 俺は思わず声をだした!


「うわ、ビックリした! どうしたのすすむ

「〝アルコダット〟から、フレンド要請が来た!」


「だれそれ?」

「だれそれ?」


 三月みつき二帆ふたほさんがそろって首をかしげる。


「〝流しのアルコ〟ですよ! 基本フリーで、色んな一流プレイヤーと神業連携をこなす凄腕マタドールの!!」


「知らない」

「知らにゃい!」


 うん。ダメだ。聞いた相手が悪かった。だってこの二人は、全然M・M・Oメリーメントオンラインの攻略動画をみないんだもの。

 俺が一生懸命布教しても、大人気攻略サイトの『巌流島チャンネル』すら見てくれないんだもの。


「フレンド申請ってことは、多分、パーティー参加のリクエストです。受けちゃっていいですよね!!」


「フーちゃん、よくわかんない」

「わたしも……すすむがいいならいいよ!」


 俺は、なんとも歯応えのない二人の了承をえると、すぐさまフレンド申請にOKをだした。すると、すぐにパーティ参加要請が届く。


 やっぱりだ!


 俺は緊張しながら、その参加要請を承認する。


 すると、青地にきらびやかなボレロを着込み、真紅のマントと、腰に大量の細身の剣をたずさえた闘牛士をモチーフにしたクラス、〝マタドール〟がゲーム画面に現れた。


『はじめまして、〝アルコダット〟です。パーティーに加えていただき光栄です』


 〝アルコダット〟は、ボイスチャットで、えらく渋いダンディな声で、ものすごくていねいな挨拶をする。


「ははは、はじめまして!」

「ははは、はじめまして!」

「アーちゃん、よろしくなのだ!」


 俺と三月みつきは、慣れない通信での協力プレイに声がうわずる。

 そして同じく、通信でのプレイなんか普段はやらない二帆ふたほさんが、いきなり呼び捨てで馴れ馴れしく返事をする。


「お、俺も〝流しのアルコ〟と一緒にパーティー組めて嬉しいっす!」

『お手やわやかに〝トリプルオーバーキラー〟の〝ロンリー〟さん』


 う、うれしい! 普段、観客モードの書き込みでは〝ボッチート〟とか〝効率厨〟とか〝おっぱい大好き〟とか、ろくでもない通り名ばっかりだから、めちゃくちゃ嬉しい!


『そして、〝フーター〟さん、〝マーチ〟さん、レディのお二方をお守りできるとなると、私も力が湧いてきます』


 〝アルコダット〟は、音声チャットの声色から、〝フーター〟と〝マーチ〟のプレイヤーが女性だと気がついたのだろう。ふたりに向かって、キャラクターをうやうやしくお辞儀モーションをさせながら挨拶をする。


『それでは防御は私にお任せを!』


 〝アルコダット〟は、両手を優雅に頭の上まであげると、


 パンパン! 『オーレイ!!』


 ガンコ=ゾディアックに〝挑発〟のスキルをお見舞いする。


 すると、今までずっとしつこく〝フーター〟を追い回していたガンコ=ゾディアックは、回れ右をして、〝アルコダット〟の持つ、ヒラヒラと優雅に揺れている真紅のマントへと飛びかかっていった。

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