第67話 100%安心なレーティング。ーGー

『お、フーターの頭にマッチョこけしがついた』

『そしてロンリーは鋼鉄化!』

『てことはアレか!』

『ニトロの瓶を設置してからーの』

『バックステップ爆破! あーんど、はりつき移動!』

『しめた! ロンリーがうまいことガンコにぶつかったw』


 二帆ふたほさんは、鋼鉄化した俺を壁にしてガンコ=ゾディアックに接近すると、〝ニトロの瓶〟を設置した。

 そしてすばやくワイヤーアクションで離脱する。


『はいキマシター! フーターお得意お手玉コンボ』

『しかもコケシが砕けてない!!』

『こりゃ楽勝ムードだな』

『ガンコ、終了のお知らせw』

『いや、結構きびしいんじゃないかな……?』

『なにこいつ?』

『適当こいてる』

『フーターが操作ミスるわけないだろw』

『いるんだよな、詳しくもないのに無駄に不安をあおるヤカラ』


 いや、そんなことない! 全然ない! 俺は不安だらけだった。

 ガンコ=ゾディアックは、俺の想定の半分くらいしか浮いていない。多分、重量がありすぎたんだ。

 いくら二帆ふたほさんの操作が精密機械のように正確でも、数フレームはムラがある。これじゃダメだ。作戦は失敗だ!


 俺は、2回……3回と、一見完璧に空中無限コンボをきめる〝フーター〟を凝視しながら、つとめて冷静に、魔法ウインドウを開いて、にカーソルを合わせていた。


 本日限定。本当の本当の切り札だ。こいつを、空中コンボが切れる瞬間に唱える。

 4回……5回、二帆ふたほさんは、まるでリプレイのように精密な動作をつづけている。

(ついでに器用なコマイヌ=ウルフが、回転しながら噛み付く対空技〝ショーリュー犬〟で、浮かせ効果を微力ながらサポートする)


 〝フーター〟の空中コンボは、二帆ふたほさんと出会う前からずっと見ている。観客モードのリアルタイムでも見てるし、〝コジロー〟のYouTube攻略動画、『巌流島チャンネル』の解説動画も何度も何度も見ている。


 だから知ってるんだ。あの高度から〝フーター〟の可能なコンボ回数は11回。(今回はウルフがいるから12回)

 鋼鉄化が解けるのも間に会う!!


 今のこよみは、〝甲申きのえさる年〟〝甲戌きのえいぬ月〟〝甲申きのえさる日〟〝甲戌きのえいぬ刻〟。


 〝フーター〟がガンコ=ゾディアックに11回目のワイヤーガンを命中させた瞬間に、鋼鉄化が解けた俺は、本日限定のぬるチート魔法を唱えた。


 〝甲戌きのえいぬ


 ガンコ=ゾディアックの影から、木の根が「ぐにょにょにょにょ」と伸びていって、ガンコゾディアックめがけて絡みついていく。

 今日はこよみの運がある! 威力は普段の4倍だ!

 ガンコ=ゾディアックは、複雑怪奇な木の根にからみつかれて空中でもがいている。威力4倍の拘束魔法だ!!


二帆ふたほさん、三月みつき、これでしばらく宙吊だ! 最大火力でぬっころして!」


「りょーかいのすけ!」

「りょーかいのすけ!」


 二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟は、ガンコ=ゾディアックの真下にへばりついて、土手っ腹にワイヤーをぶっさす。


 ディクシ!


 いつもと違う効果音がした。


「にゃははは! 弱点見破ったり!!」


 VRゴーグルをかぶった二帆ふたほさんがドヤる!


「ライオンとウシのつなぎめに、弱点の〝〇〇〇ピー〟があるのだ!」

「あ、ほんとだ、ちっちゃーい。かわいい! ひょっこり飛びだしてる。一緒にお風呂入ってた頃のすすむみたい」

「ほうほう。スーちゃんにも、そんなカワイイ時代があったんだねえ!」


 え? え?? どういうこと? どういうこと??


 俺は、ドキドキしながら、〝甲戌きのえいぬ〟の根っこをかきわけて、宙に浮かぶガンコ=ゾディアックを見た。


 そこには、ひょこりと飛び出たガンコ=ゾディアックの〝〇〇〇でべそ〟があった。


「子供の頃……コンプレックスだった、俺の〝〇〇〇でべそ〟とそっくりだ」


「うりうり、ここかい? ここがいいのかい?」

『モゥ……モゥ……』


 二帆ふたほさんは、まるで機械のような性格無比なそうさで、あかく膨張した〝〇〇〇でべそ〟を攻撃する。


「おもしろーい、突っつくたびにピクピクしてる。なんだか別の生き物みたい」

『モゥ……モゥ……モゥ……モゥ……』


 三月みつきは、とっても器用にコマイヌ=ウルフをあやつって、ヒクヒクとうごめく〝〇〇〇でべそ〟を攻撃する。


 俺は、VRゴーグルをかぶって、きゃっきゃと興奮しながら喜んでいる、令和のヴィーナスと称される神ボディのおねーさんと、はちきれんばかりの思春期ボディの幼馴染の会話に惑わされることなく、努めて冷静に〝戊寅つちのえとら〟の魔法でトラの爪を召喚すると、ガンコ=ゾディアックの弱点攻撃に加わった。


 すると……


『モゥ……モゥ……モゥ……モゥ……モオォォォォォォォォォォ!!』


 突然、ガンコ=ゾディアックの体がひかって、衝撃波が放たれた。

 俺たちは、衝撃波に吹っ飛ばされる。


『ぐるるる……ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 HPが半分になったガンコ=ゾディアックは、鳴き声がウシからライオンに変化していた。

 それは、攻撃モードが変化した合図だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る