第66話 予備知識ゼロの最善策。ーGー

『ちょw』

『まさかのマンティコア!』

『水瓶のなかにこれつまってたのかよw』

『てかサイズ合ってなくね?』

『デカすぎw』

『ツボは尻尾だけ入ってて、本体はブロックにいたんじゃない?』

『なる、ピラミッドに封印されてたってことか』


 水瓶に収まるには、明らかにサイズオーバーのライオンとウシとサソリのモンスターに、観客モードがざわついている。

 でも本当にマンティコアかな? 確かにマンティコアが一番近い気がするけど、マンティコアは、人の顔にライオンの体だった気がする。

 キマイラは、ライオンの顔とヤギだったはずだけど……なんでウシなんだろう。


 俺が、どうでもいいことを考えていると、


『モーーーーーーーーー!』


 ライオンはウシの鳴き声をあげて、ウシのツノを地面を頭にこすりつけた。

 そして、勢いよく振り上げると、大量の石つぶてがばらまかれる。


 石つぶての奇襲攻撃に、二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟は超人的な反射神経ですばやく回避をする。

 だけどアクションゲームはまったく苦手な俺の〝ロンリー〟はしたたか石つぶてをくらい、セレブレットにまたがった三月みつきも、結構な被害をうける。

(空を飛んでるキンチョチョールと、器用なウルフ=コマイヌは、しっかり避けていた)


 俺は、自分の移動速度を上げる〝己酉つちのととり〟を唱えると、三月みつきにリクエストを出した。


「なぁ、〝シャンシャンメリー〟を呼び出さない?」

「だめ! それだけは絶対ダメ! だって可哀想だもん」


 境界術師のダメージを身代わりに受けてくれるひつじの〝シャンシャンメリー〟は、めちゃくちゃ便利な干支モンスターだ。

 ボス戦では、ほぼ、必須といってもいい。

 けれど、三月みつきは、九月に〝ドリルドリュウ〟戦で1回使ったっきり、かたくなに呼び出そうとしなかった。


 境界術師は、同時に3体の干支モンスターをあやつることができる。(最大進化を除く)

 だからパズル中は行動できなくなる境界術師の移動をサポートするうまの干支モンスターと、ダメージを肩代わりするひつじの干支モンスターを出して、残りの一体を状況に応じて使い分けるのがセオリーだ。

(1回のミッションで、同じ干支モンスターは1回しか呼び出せないから、境界術師は、実はかなり戦略性の高いクラスだったりする)


 ひつじの干支モンスター、

  〝シャメリ〟

  〝シャンメリ〟

  〝シャンシャンメリー〟

  〝シャンシャンタイフーン〟

 は、三月みつきの大のお気に入りだ。


 干支モンスターをクリア済みミッションに派遣して、素材を自動回収してもらうシステム『お出かけモード』で、3月生まれの三月みつきがデフォルトでゲットできるウサギにくわえて、毎月330円(税込)の課金をして、追加のおでかけモンスターとして愛用するくらいのお気に入りだ。(つぶらな瞳と、切なげな鳴き声がたまらないらしい)


 とにかく、ひつじの干支モンスターを可愛がっている三月みつきは、最大進化で突風を巻き起こす〝シャンシャンタイフーン〟は使うことがあっても、ダメージを肩代わりするおとりモンスターとしては、絶対に呼び出してくれない。


 俺は、ガンコ=ゾディアックのHPゲージをみた。MAXだった。つまりこいつはダメージゼロだ。

 てことは、モードチェンジをあと何回か隠しているハズだ。

 さすがに、石つぶてを飛ばすだけだとは考えられない。とはいえ、まずはこの遠距離攻撃モードを攻略しないと……。


二帆ふたほさん、〝ニトロの瓶〟の残数は?」

「えっへん、なんとふたつも残っている」

「じゃあ、俺の指示で、〝ニトロのビン〟を仕込んでください。俺が壁になってギリギリまで近づきますんで。ハリネズミでやった作戦です!」

「おー、なつかしい! あの時のスーちゃんはカッコよかったのだ! フーちゃん、あやうくスーちゃんのカチンコチンに〝OverKill〟されそうになったのだ!」


「え? なになに? なにそれ?」

「なななな、なんでもないよ!!」


 俺と二帆ふたほさんの会話に、めざとく反応した三月みつきを無視して、準備を始める。

 〝ガンコ=ゾディアック〟を空中に放り上げて、エリアルハンターの空中無限コンボでHPを削り取る作戦だ。


 いきなりの切り札だけど、使うしかない。ガンコ=ゾディアックの予備知識の全くない俺たちにとっては、それが今取れる最善の策だった。

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