第65話 おねーさんは出番ゼロ。ーGー

『な、なんじゃこりゃー!!』

『硬いなんてレベルじゃない』

『毒をこぼすのか』

『毒汁ぶっしゃーーー!』

『ひゃっはーーーーーー』

『毒の妖精なっしーー!』

『あのツボをひっくり返してヤドカリを引きずり出せってこと?』

『どうすんだ? イノシシでも、ニトロでもあかんのに』


 観客モードは、お気楽な感想と考察が入り乱れている。でもとりあえず答えを教えてくれるプレイヤーはいなさそうだ。

 うん。自分で考えるしかない。


 俺は他力本願をあきらめて、ガンコ=ゾディアックを見た。

 照準モードをつかって、ガンコ=ゾディアックをズームアップでガン見した。


 ん? 地形変わってない?


 最初に見た時より、なんだか砂山の形がかわっている気がする。

 俺は、照準モードのまま〝ロンリー〟を走らせて水瓶の周りをぐるっと見回した。


 やっぱりだ。


 〝フーター〟が〝ニトロのビン〟を爆発させたところだけ、ちょっとえぐれている。そして、砂山のしたから、がむきだしになっていた。


(伸びろ、如意棒にょいぼう!)


 俺は、心のなかでカッコよく叫びながらコントローラーの攻撃ボタンを押す。

 伸縮自在の棍は「バヒューン!」と伸びると、ブロックを粉々に破壊した。


 やっぱりだ!


 俺は、攻撃ボタンを離して棍を縮めると、今度は砂山の真ん中目掛けて棍を射出した。

 棍は砂山にぶつかると「コンコンコン!」と効果音を鳴らしながら、どんどんと砂山をえぐっていって、手に持ったBluetoothコントローラーがブルブルと震え続けている。


 てごたえあり!!


 俺は、棍を元の長さに戻すと、二帆さんと三月みつきにこの小高い山の正体を説明した。


「この山、ブロックでできている! バリケーダーが召喚するブロックと同じ!」

「にゃるほど!」

「ピラミッドみたいになっていて、その上に砂がかかっている!」

「にゃるほど?」

「そっか! つまりってことだよね!」

「にゃるほど!!」

三月みつき! イヌを召喚して! 難易度は難しいで!!」

「にゃるほど??」

「まかせて! さっきすすむが開けた穴に、ニトロの瓶を置いてくればいいんだよね」

「にゃるほど!?!?」

「あ、二帆ふたほさんはしばらく待機で」

「わかったのだ!!!!!」


 俺は、状況を完全に理解した三月みつきと、多分まったく理解していない二帆ふたほさんとの作戦会議を終えると、すぐに準備にとりかかった。


 俺は、魔法ウインドウを開いて呪文を唱える。


 〝戊子つちのえね


 リモート式のネズミ爆弾。陰陽術師が召喚できる6つの武器のうち、唯一の飛び道具だ。


 今のこよみは、〝甲申きのえさる年〟〝甲戌きのえいぬ月〟〝甲申きのえさる日〟〝甲戌きのえいぬ刻〟。

 あいにく、こよみの運はない。能力は等倍だ。でもぶっちゃけ、今は威力は関係ない。


「できた!」

『ガオオオオオ!』


 俺が武器を召喚するとほぼ同時に、三月みつきも、難易度むずかしいの〝箱入り娘〟を完成させた。

 召喚したのは、イヌの二進化干支えとモンスター〝コマイヌ=ウルフ〟だ。

 リトルヨウコや、チュートリアルで召喚した〝コ=ウルフ〟に比べると、随分と体格もしっかりしていて、まるで土佐犬、いやブルドックみたいな風貌だ。(100キロ級だ)


 〝コマイヌ=ウルフ〟は、攻撃から細かい命令まで、実行できるとっても器用な干支モンスターだ。二進化モンスターだと、かなり複雑な命令にも対応できるし、なによりスタミナがむちゃくちゃ多い。

 基本的に難易度で召喚モンスターの能力がそこまで変化しない境界術師だけど、この〝コマイヌ=ウルフ〟だけは違う。命令できることが増えるし、スタミナは桁違いだ。金メダル級に器用で使い勝手の良いモンスターだ。


 三月みつきは、その金メダル級モンスターに〝ニトロの瓶〟をくわえさせると、俺が、棍で「コンコン」と開けた穴に砂をかき分けて入っていく。

 操作は、三月みつきのマニュアルだ。

(本当に上達したよな三月みつき……)


 俺は、視点をネズミ爆弾に切り替えると、三月みつきのあやつる〝コマイヌ=ウルフ〟を追いかける。

 〝コマイヌ=ウルフ〟は、穴の奥まで到達すると、くわえていた〝ニトロの瓶〟を穴に置いてすばやくその場をはなれる。


「脱出した! 点火しちゃって!!」

「りょーかいのすけ!!」


 三月みつきの合図に俺はおとぼけて返事をすると、ネズミ爆弾を〝ニトロの瓶〟に特攻させた。


 ドッガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!


 ブロックでできたピラミッドは、激しい砂埃を上げて倒壊していく。


「やったね すすむ!」

「計画通り!」

「ここからは、二帆ふたほタイムなのだ!!」


 三月みつきと俺、そして二帆ふたほさんは、三者三様に喜んだ。

 そしてすぐにヤドカリ型モンスター、ガンコ=ゾディアックからの攻撃にそなえる。


 でも、そこにいたのはヤドカリではなかった。もうもうと立ち込める砂煙の中から現れたのは、ライオンの顔に、牛のツノと身体、そしてサソリの毒針の尾をもったモンスターだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る